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刑務所でも「危ないヤツ」だった青葉真司!京アニ放火までの人間関係遮断の半生

   京都アニメーション放火事件、吉本興業の芸人2人の謝罪会見と、それを受けての岡本社長の見るも無残な釈明会見、日曜日には戦後2番目の低さの投票率になった参議院選の投開票と、激動の週末であった。

   まずは、34人の死者を出した京アニ事件から。週刊文春によれば、犯人と見られる職業不詳の青葉真司(41)は、事件の数日前には京都のネットカフェに滞在し、事件前日には宇治市にある京アニ本社に向かって歩く姿が防犯カメラに映っていた。

   当日は、午前10時ごろ現場近くのスタンドでガソリン40リットルを購入し、京アニの玄関から侵入してガソリンをまいて、火を放った。自分も大やけどを負った青葉は、犯行後に、「小説を盗んだからやった。社長を呼べ。俺の作品をパクりやがったんだ!」と叫んだという。

   週刊文春は、青葉の半生をかなり細部にわたって取材している。実父は元市議会議員の運転手や幼稚園バスの運転手などをしていた。幼稚園で働いていた女性と結婚して6人の子どもをもうけた。父親は自分の子供を担当していた幼稚園教諭と不倫関係になり、妻と子どもを捨てて家を出て、再婚する。その2人の間にできた次男が真司だった。

   間もなく2人は離婚し、子どもたちは父親の手で育てられる。埼玉県の地元の小中学校へ通うが、中学時代は「不登校だった」と元クラスメートが語っている。1994年に県立浦和高校の定時制に入り、在学中に埼玉県庁の非常勤職員として勤務した。その後、コンビニなどに職を変えるが、青葉が21歳の時、生活苦から父親が自殺してしまうのだ。

   その後、青葉はあらゆる人間関係を遮断する生活を送るようになる。2006年頃には下着泥棒とみなされて逮捕されるが、執行猶予判決で社会復帰する。だが、12年6月にコンビニに包丁を持って押し入り、約2万円を奪って逃走するが、逮捕され、懲役3年6か月の実刑判決を受ける。

   栃木県さくら市の刑務所に収監されるが、懲罰房内で大暴れしていたと、元刑務所仲間が話している。刑務官たちからも「危ないヤツ」と"特別扱い"されていたという。元仲間によると、一つだけ熱心に青葉が取り組んでいたことがあったそうだ。小説の執筆を消灯前までしていたという。

   16年に出所し、現在の埼玉県内のワンルーム賃貸マンション「レオパレス」に住み始めたが、ここでも、ロックを大音量でかけたり、隣人の部屋に突然来て、いきなり胸ぐらをつかみ、「黙れ、殺すぞ、こっちは失うものは何もないんだ」といい放ったそうだ。

   そのすぐ後、京都に向かい、事件を起こすのである。週刊新潮によると、京都府警捜査1課長が会見で、「(青葉に)精神的な疾患があるとの情報を把握している」と述べたそうだ。精神科医の片田珠美は、青葉の言動から、統合失調症の症状が見て取れるという。「まず、思考奪取。"自分の考えが奪われた、盗まれた"と感じてしまう症状で、そのせいで彼は"小説をパクられた"という被害妄想を抱いたのでしょう」

   精神鑑定が行われて、もし心神喪失だと認められれば、無罪になる可能性もある。週刊文春、週刊新潮を読んでも、なぜ埼玉から京都まで行って、京アニを狙ったのかという動機が見えてこない。小説なら東京にも出版社はいくらでもある。アニメの会社もあるだろう。京アニはアニメ界では大変有名だとしても、なぜという疑問は消えない。

   京アニの八田英明社長は、京アニは小説を公募し、アニメ化もしているが、「青葉の名前を聞いたことがない。小説を応募してきたことはない」と囲み取材で話している。事件が起きた時のテレビ中継で、昨年暮れに京アニが何らかのトラブルを抱えていたとレポーターが話していたのを記憶しているのだが。何とか青葉から「動機」を聞き出してほしいものだ。そうでなければ、無念を抱えて亡くなった多くの人たちは浮かばれない。ご冥福を祈りたい。

「吉本興業騒動」ことの大きさ深刻さわかっていない松本、さんま、紳助たち

   次は、吉本興業のお家騒動について。吉本は明治から100年以上の歴史を持つ芸能事務所である。その長い歴史を岡本昭彦社長はたった5時間半の会見で木っ端みじんに叩き壊してしまった。

   7月18日に行われた宮迫博之と田村亮の謝罪会見で、涙ながらに2人が、岡本から「テープはとっていないだろうな。辞めてもいいけど、全員クビにしてやる。俺にはそれぐらいできる力がある」というパワハラを受けたと告白した。

   それを受けて、吉本のドンといわれる松本人志が、急きょ大崎洋会長と会い、20日に岡本社長の会見が行われることになった。

   だが、岡本は説明らしい説明もできず、「全員クビ」というのは冗談といい出し、宮迫の契約を解除するといっていたのに、突然、解除を取り消すといい出したりと、支離滅裂で場当たり的な言辞を弄するだけに終始した。会見後、これが芸人6000人を抱え、売り上げ500億円といわれるグループのトップなのかという声が、内外から噴出した。スポーツニッポの阿部公輔文化社会部長は「自ら火に油を注いだという意味では芸能史上最悪の会見」だと書いた。

   ネットでは、松本が大崎会長を守ろうとして動いているとの批判も飛び交い、今週の週刊文春、週刊新潮では、反社との付き合いが問題になって引退した元吉本所属の島田紳助までが登場して、大崎、岡本の弁護をしている。

   「これはあくまで俺個人の意見やで。吉本では、会社と芸人は親子、言うたやろ。せやから、喧嘩してもぜったいに仲直りできるはずや。希望的観測かもしれん。でも、ほとぼりが冷めたら、きちんと吉本から宮迫たちを復帰させてほしい。(中略)宮迫たちも、髪の毛でも剃って松本についてって、月のギャラ10万でいいから舞台に立つ。まずは、一から出直すのがええんちゃうか」

   そして、松本の頑張りに期待するというのである。彼には、この問題が芸人と吉本とのコップの中の嵐ではなく、吉本興業という企業体が抱える構造そのものにまで広がっていることが、わかっていないようだ。

   大崎会長が週刊新潮のインタビューでもいっていたように、吉本と暴力団との関係は古くて深い。大崎はそれを排除したといっているが、山口組五代目組長と親しいことを公言していた"怪芸人"中田カウスを今でも厚遇しているように、完全に切れていないのではないかという声もあるようだ。

   大崎が700人程度だった芸人を6000人まで増やしたのだが、これほどの芸人たちを面倒見られるほどの体制になっていないと、紳助を含めた多くの吉本の古参芸人たちがいっている。

   さらに問題なのは、所属芸人たちと契約書を交わしていないことだ。<公正取引委員会が24日に吉本とタレントとの間で書面で契約を交わさない点について問題があると指摘した>(朝日新聞7月25日付)のである。

   最近、吉本は安倍首相に接近し、政府の教育事業にも参入している。沖縄の「基地跡地の未来に関する懇談会」に大崎が出席するなど、お笑いだけではない方面へも進出しているのである。

   テレビ局への影響力でいえば、ジャニーズ事務所など及ぶところではないこというまでもない。松本、さんま、紳助たちは、今度の騒動を矮小化しようと懸命なようだが、吉本興業はエンタメ界のモンスターになりつつあるのだ。そのトップが、どのようなビジョンを持ち、社会貢献していくのかを、国民全体でチェックするのは当然のことである。岡本社長のような人間でいいわけはない。大崎会長は早急に会見を開いて説明する責任がある。

山本が勝って枝野が負けた参院選!言うまでもない安倍批判より心に響く明るい経済政策

   7月21日の日曜日の午後8時。NHKを付けて、すぐ消した。この日、東京は、朝雨が降っていたが、昼前には上がった。いわゆる選挙日和であった。昼近くに投票所になっている小学校へ行ったが、割合、若い人の姿が目立った。これなら投票率が上がるかもしれない。その期待は見事に裏切られた。消費税増税、年金、憲法改正と、これほど重大なテーマがありながら、投票率は50%を切り、48.53%という戦後2番目の低さだった。日本人は自ら国を変える権利を放棄したといわざるを得ない。私は、東京選挙区は既成左派政党候補の名前を書いたが、比例は「れいわ」とした。

   朝日新聞や毎日新聞は改憲派が3分の2に届かずという点を強調して、憂さを晴らしているが、書くべきは、投票率の低さに象徴される、日本人の政治的な無関心であると思う。

   週刊文春は、今回の選挙で、岸田文雄はポスト安倍の候補の座を降り、公明党や国民民主党にまで塩を送った菅官房長官が、一番手に躍り出たと書いている。立憲民主党も、枝野が野党共闘に後ろ向きだったため、山岸一生や亀石倫子、増原裕子らを落選させてしまった。安倍自民党も、自公で77議席あった改選前の議席を6議席も減らしている。

   その中で、山本太郎率いる「れいわ新選組」が、比例で2議席、得票で政党要件を満たす2%を獲得したのが目立った。山本の勝因は、「消費税廃止」「奨学金徳政令」など、わかりやすい政策を掲げたことだろう。枝野のように、安倍政権の悪いところをいくらあげつらっても、有権者の心には届かないのだ。それより、安倍首相がいった「民主党政権時代の悪夢」というフレーズのほうが、スーッと有権者の中に入っていくのである。

   週刊文春によると、山本はマルクス経済学者で反緊縮論者の松尾匡立命館大教授に傾倒していたという。松尾が書いた「左派・リベラルが勝つための経済政策作戦会議」(青灯社)の中に、「当選を決めるのは経済政策」だと書いている。4月の京都府知事選で共産党候補が負けはしたが大善戦した。彼の得票は、20代、30代だけを見ると、当選した候補より勝っていた。それは、「時給1500円へ、ブラック・ゼロ京都を」「働く人、中小零細企業、大企業がウィンウィンで税収もアップ」という政策を掲げていたからだと見る。

   また、沖縄知事選で玉城デニーが圧勝したのも、「経済が拡大することを積極的に訴える政策を掲げ」たからだ。つまり、当選を決めるのは経済政策、とくに若者たちには、今よりも経済がよくなることを積極的に訴えることが重要だといっているのである。

   衆議院解散、総選挙は、週刊新潮で政治部記者が「今年の秋から年末、遅ければ来年の五輪前後が有力視されています」という。野党が善戦するためには、政権批判、アベノミクス批判などではなく、若者や高齢者たちの心に響く明るく具体的な経済政策を提示できるかが、最大のポイントになるはずである。(文中敬称略 )

   

元木 昌彦(もとき・まさひこ)
ジャーナリスト
1945年生まれ。講談社で『フライデー』『週刊現代』『Web現代』の編集長を歴任。講談社を定年後に市民メディア『オーマイニュース』編集長。現在は『インターネット報道協会』代表理事。上智大学、明治学院大学などでマスコミ論を講義。主な著書に『編集者の学校』(講談社編著)『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)『現代の“見えざる手”』(人間の科学社新社)などがある。