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ありがた迷惑な「突然相続」遠い親戚の借金が回り回ってきたり、税金や管理費ばかりがかかる負動産

    ある日突然、請求書がとどいた。税金関係のこともあれば、金融機関からのケースもある。「架空請求詐欺か」と放っておいたら、これが本物だった。こんなトラブルが実際に起きている。

    神奈川県の50代男性は今年夏(2019年)、住んだことのない自治体から滞納税1775万円の支払いを求める通知がきた。文面に書かれていた名前に見覚えがあった。亡くなったと聞いているおじだった。10年間連絡はなく、葬儀にも出なかった。親せきに問い合わせ、かけた電話番号は使われていなかった。そうこうするうちに、銀行に1億円の謝金があることがわかった。

    男性は司法書士事務所に駆け込んだ。おじは事業で借金をかかえ、妻はすでに死亡、3人の子は相続を放棄していた。おじの両親もすでに他界していて、相続が回り回って男性にきたのだ。「追い詰められた感じでした」という男性は、司法書士に10万円を払って、相続放棄に持ち込んでもらった。

知らないととんでもないことになる「3か月ルール」

    こうした「突然相続」のトラブルは、売れない土地や建物、俗にいう「負動産」がからむことが多い。富山市の50代男性は、おじが住んでいた築50年の家屋を息子たちは相続放棄し、おじのきょうだいも管理を拒否しているため、男性の母親が固定資産税の年2万円の支払いと管理を引き受けてきた。古家は150万円をかけて解体したが、土地は「不動産業者に買い手がないと言われています」という。

   相続には「3か月ルール」がある。自分が相続人と知ってから3か月を過ぎると、自動的に相続を受け入れたと見なされる。新潟市の長沼ますみさんは、30年前に両親が離婚し、母と家を出た。父親はその家で他の女性と再婚したのだが、再婚相手は長沼さんが知らぬ間に相続放棄して家を出ていた。「自分も放棄したい」と弁護士に相談したが、すでに3か月が過ぎていた。「こんなルールは知りませんでした。法律はそうでも、気持ちは納得できません」「近づきたくもないという思いしかなく、本当にこの家はいらない」と話す。

財産が少ない人ほど遺言状を書いておく

   司法書士の杉谷範子さんによると、「突然相続」で降りかかるのは税金だけではない。社会保険料や庭木、ペットの処分も考えられる。3か月ルールは裁判所に申請すれば延長できるが、「何もしないと確定してしまいます」

    第一生命経済研究所の小谷みどり研究員は、「突然相続」の原因に核家族化をあげる。親が亡くなると、きょうだいはあまり会わなくなる。一方で、離婚や再婚が増え「前と今の結婚の子がいる状態」もでき、家族関係が複雑化する。「血縁を重視する相続制度と、今の家族の形とのミスマッチがあります」と指摘する。

    川崎市の女性は、親せきからの遺産として土地付き一戸建て住宅を受けとった。車で2時間以上かけて行くと、荒れ果てた家屋で、中はゴミが散乱し、水も出ず、暮らせる状態ではなかった。「衝撃的でした。怖かった」と話す。いったん相続すると、くつがえせない。当人に万一のことがあれば、配偶者や子に相続がふりかかる。「残したくない」と思った女性は、リフォーム費用を負担して古家をようやく手放せた。

   相続した資産の範囲内で負債を支払う「限定承認」の制度もあるが、すべての相続人の同意が必要だ。すべての相続人が放棄すると不動産は国庫に入るが、「すぐにはいかず、放置されたままにされ、地域荒廃につながります。安易に相続放棄を勧めるのは気がとがめます。かといって、個人の被害予防もしなければならず、ジレンマです」と杉谷さんは話す。

    小谷さんは「相続財産の棚卸が大切で、借金をどうするか、当人が遺言ではっきりさせることが必要」とトラブル防止を強調する。財産が少ない人ほど遺言状を書くべきだという。

   ※NHKクローズアップ現代+(2019年12月19日放送「"突然相続"ある日あなたにも!?」)