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がん治療優先か、妊娠・出産か?元SKE矢方美紀さんも悩んだ末に・・・AYA世代の3つの壁

   SKE48の元メンバーの矢方美紀さん(27)は2年前、進行性乳がんの診断を受けた。抗がん剤と放射線治療は36歳まで続けると、医師から言われている。その間の妊娠は難しい。そこで卵子の凍結保存を考えたが、費用が高額だ。あきらめて、まずは治療に専念して、あとのことはあとで考えようと決めた。

   AYA世代(15~39歳)は年間に2万人以上ががんの告知を受ける。がんを乗り越えて、新たな命を授かれるかどうかは、男女を問わず難しい選択になる。30代の美緒さん(仮名)は、右胸に進行性乳がんがあり、抗がん剤治療と全摘出が必要と診断された。

   医師に卵子の凍結保存を相談したが、美緒さんのがんは女性ホルモンに反応して増殖するタイプだった。排卵誘発剤はがんを増殖させてしまう。夫は、子供はいい、治療優先だという。治療開始まで1か月しかない。美緒さんは卵子の凍結保存をあきらめた。「気持ちは、わが身を多少危険に晒しても、未来の命の可能性を残したかったんですが」

   聖マリアンナ医科大教授で医師の鈴木直さんは、「気持ちはわかりますけどね、目の前のがんと戦うことが第一。ただ、患者の希望もサポートしたい」という。

「早期治療」「卵子の凍結保存費用」「医師の連携」

   むろん、成功例もある。福岡の島優子さんは10年前、九州医療センターで白血病と診断された。19歳だったから、速やかに抗がん剤と放射線治療を行う必要があった。100%不妊になる。付き合っていた彼にも申し訳ないと、主治医の谷本一樹医師に卵子の凍結保存を相談した。

   谷本医師は専門医の詠田由美医師に繋いだ。詠田医師は排卵誘発剤を投与、10日後に試みたが、結果は思わしくなかった。両医師は治療を遅らせることが可能かを検討した。「本人が元気であっての未来の命ですからね。がん治療に支障があってはいけない」と詠田医師は話す。

   結局、「2週間を限度」として再度試みた。2週間後、卵子は立派に育って、6個の採取に成功した。治療が終わった4年後、島さんは結婚し、卵子を解凍しておととし秋、赤ちゃんが生まれた。元気な男の子だ。「宝物です」という。

   生殖医療を取材した高山哲哉アナは、「壁が3つある」という。まず「時間の壁」だ。若いからがんの進行も早い。治療開始までの短い時間に決断しないといけない。次が「費用の壁」だ。SKE48の矢方さんはこれで涙を飲んだ。

   3つ目が「連携の壁」だという。前出の島優子さんは医師の連携で成功した。「違う医療機関だったらできなかったかも」という。鈴木さんも「専門の異なる先生の協力は結構難しい」という。

   その連携をシステムとして作ったのが、「岐阜モデル」と呼ばれる試みだ。医療機関で、患者が卵子・精子の凍結保存などを希望すると、岐阜大医学部附属病院に話がいく。がん・生殖医療相談がカウンセリングから施設の紹介までをする。今では都道府県の約半分が同様のサービスをしているという。

   岐阜大学で昨年乳がんと診断されたさおりさん(30代)は、パートナーが理解してくれるか不安だった。臨床心理士の伊藤由夏さんは、次の診療にパートナーも連れてくるようにいった。医師の説明を受けて、2人で決断した。入籍して、受精卵を凍結保存することになったのだ。

   「何が幸せかを一緒に考える」と伊藤さん。生殖医療センター長の古井辰郎医師は「本人が納得することが重要。自ら決めることで、納得したがん治療が受けられる」という。

養子縁組で新しい家族作り

   武田真一キャスターが「こんな人生を選んだ家族もいます」と映像を紹介した。11年前に結婚した夫婦。妻はがんで卵巣と子宮を摘出したが、2人にはいま新しい家族がいる。養子縁組で2人の子を授かった。夫は「妻の治療の支えにもなってもらいたい」という。妻は、初めて子どもを抱いたときのことを、「嬉しかった。待ちに待った我が子」といった。幸せそうな笑顔。

NHKクローズアップ現代+(2020年2月5日放送「がんを乗り越え、命を授かる~若い世代のがんと生殖医療最前線~」)