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コロナの影響でひきこもり対策がピンチ 家に訪問できないうえ、ステイホームで親子が衝突

   全国で100万人というひきこもり問題に、いまコロナウイルスの影響が懸念されている。山梨県韮崎市の中北保健所の精神保健福祉相談員、芦沢茂喜さんは「ステイホームでひきこもりの存在を忘れ去られてしまうのが一番怖い」という。

   芦沢さんはコロナ感染拡大で今年(2020年)3月から十分な訪問支援ができなかった。コロナ禍で親も家にいる時間が増え、親子がつい衝突しないかと心配だ。6月下旬からやっと訪問を深刻なケースから順に再開している。

   45歳の息子が20年間ひきこもる70代夫婦。離れで暮らす息子とは10年近く顔を合わせていない。「何か言っても返事がない」「万策尽きました」と父母は深刻だ。

  • 写真はイメージ(NHKの番組ホームページより)
    写真はイメージ(NHKの番組ホームページより)
  • 写真はイメージ(NHKの番組ホームページより)

45歳息子が20年間ひきこもり、10年間顔を合わせていない

   芦沢さんは去年相談を受けてから1年、2週に1回は訪ねたが、まだ会えていなかった。その訪問もコロナで途絶えた。再開した今は、ドア越しに「変わりはないですか。行政的に何かすることは一切しません。ただ、今後をいい方に考えたい」と、ひたすら声をかける。約10分間、反応はない。

   「同じ場所で一緒に過ごす時間をどれだけ持てるかが勝負と思っています。つながりを切らさないよと、ちゃんと伝えていく」という。

   中学生時代から25年間ひきこもる息子を持った70代の両親は、2年前自立支援をうたう民間業者に2000万円払い、全寮制の施設に預けた。しかし、去年12月、業者破産の通知を受けた。自宅に戻った息子は、灯りをつけない部屋にこもり、以前より心を閉ざしてしまった。

   タクシー運転手の父はコロナで給与が5分の1に減り、経済的にも追い込まれた。連絡を取っていた家族会の集まりも中止。「誰にも相談できない」「闇の中」と感じるそうだ。 破産した業者にNHKは取材を申し入れたが、応じられないとのことだった。

   民間業者の施設で心に傷を負ったという女性は「無理に連れ出され、ここがお前の住む所だと決められ、恐怖感しかなかった」といい、逃げ出して支援団体に保護された。親には戻ってくるなと言われ、今年2月から生活保護を受け、1人暮らし。「前を向くにもどうしたらいいか」と話す。

   全国ひきこもり家族連合会の理事を務めるジャーナリストの池上正樹さんは「感染リスクから外に出られない家族の問題が潜在化し、支援も途絶える」と危機感を強めている。 芦沢さんは、「一定のリズムで訪問」「傷つけるような正論は言わない」「ゴールを求めない」の3カ条を大切に活動を続ける。

   まだすべての対象者に訪問再開とまではいっていないが、中には「夜ご飯を一緒に食べ、部屋も少しずつ片づけだした」と母親を喜ばす息子や、社会とつながりたいと考え出した人もいるそうだ。

   「コロナの影響で親と一緒の時間が増え、衰えゆく親を自分が支えなければの気持ちが芽生えたのではないか」「人間は何かのきっかけで考えることもある。いまは逆に、本人たちと向き合うチャンスという気もする。だからこそ相談機関との関係を継続してもらいたい」と、芦沢さんは願っている。

   ※NHKクローズアップ現代+(2020年7月 16日放送「ひきこもり支援 つながりどう保つ?」)