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関東で相次いだ豚や牛の盗難事件の背後には、ベトナム人の売買ルートがあった。番組で豚を売りさばいたベトナム人を取材すると、コロナ禍で仕事を失った実習生たちの困窮状態が浮かび上がった

   この夏(2020年)、群馬、栃木、茨城、埼玉で、ブタや子牛、ニワトリなど1300頭(羽)あまりが盗まれた。防犯カメラに持ち去る様子が映っていたが、食べきれるような数ではなく、食品会社に売りさばくにも、食肉管理の厳しい日本では販売許可がなければ難しい。組織的な売買ルートがあると疑われた。

   武田真一キャスター「群馬県警が不法滞在などの容疑でベトナム人グループを摘発すると、インターネットでブタの売買の書き込みが見つかりました。盗難との関係はわかっていません。コロナで家も仕事も失い、帰国もできないベトナム人実習生の現実が見えてきました」

  • 「NHKクローズアップ現代+」の公式サイトより
    「NHKクローズアップ現代+」の公式サイトより
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在日ベトナム人のサイトで飛び交う「仕事を探している」

   「ボドイ」という在日ベトナム人のコミュニティーサイトがある。2万5000人が登録していて、「仕事を探しています」「伊勢崎周辺に家が必要です」「仕事紹介してください」といった書き込みに交じって、「在留カード譲る」「銀行口座を高額で買います」といった違法な呼びかけもあり、この夏からは「豚売ります」という投稿が急増した。15~30キロで2万円。100グラム当たり67円と格安だ。

   そんな豚肉を買ったという群馬県太田市在住のグエンさん(仮名)が取材に応じた。「友だちと買っただけじゃなく、実は売買の仲介もしていました。どんな豚か知らないけれど、売りたい人の代わりに売ってあげる。注文があると売り主に連絡して、1回1000円」と話す。「盗まれた豚だとは思わなかったのか」と聞かれると、「仲介者がいっぱいいるからわからない。盗みをするのはよくない。(売り主は)ベトナムに帰った」

   グエンさんは4年前、農業の技能実習生として長野県の農家で働き始めたが、半年で失踪し、以降は不法滞在のまま各地の食肉処理場や工場を転々としてきたという。そのたびにブローカーに紹介料をとられ、借金は250万円に膨らんだ。こうした失踪したベトナム人実習生は6105人(2019年)にもなる。

   武田「技能実習生は中国やフィリピンなどさまざまな国からも来ているのに、とりわけベトナムの人が困窮する理由は何があるのでしょうか」

月収の50倍もの手数料をブローカーに支払って出国する

   取材にあたった栗原望アナ「実習生制度に詳しいジャーナリストの出井康博さんによると、ベトナムでは送り出し機関に支払う手数料が他国に比べて高額なんです。取材で出会ったベトナム人たちは、みなさん100万円以上支払ったと話していました。ベトナムの平均月収は2万円ですから、いかに高額かわかります」

   武田「私たちが安く物を買って快適に暮らしていけるのも、彼らが低賃金で働いているのも無関係ではありません。みなさんはどうお考えでしょうか」

   近ごろ、この番組は政治や行政はこうすべきだという主張や提案をすることなく、結論を視聴者に丸投げしてしまうことが多い。

NHKクローズアップ現代+(2020年11月25日放送「失われたブタを追って」