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持続化給付金の不正受給や特殊詐欺、強盗...。手軽に稼げるとうたう「闇バイト」に手を出す若者が急増中だ。闇バイトを斡旋する人物を追跡すると、SNSを通じて簡単に若者を取り込むネット犯罪の実態が見えてきた

   「手軽に副業始めませんか」「すぐ稼げます」と誘う言葉がいま、SNSにあふれている。多くが「闇バイト」といわれる犯罪への勧誘だ。若者たちを巧妙に巻き込もうとする。

   これに手を出し逮捕された少年(19)がいる。建設現場でアルバイトをしていたが、コロナの影響で4月(2020年)から仕事がなくなった。バイクを買った15万円の返済もあり、勧誘に応じると、LINEで「高単価バイトの担当です」という人物から連絡がきた。「金返したいんやったら、やるしかないんちゃう?」の問いかけに、「とくに怖いとは思わず、軽い気持ちでのった。面接などなし。身分証を出してやるかやらないかだけ答えれば、あした、あさってから仕事がある」という。

  • 「NHKクローズアップ現代+」の公式サイトより
    「NHKクローズアップ現代+」の公式サイトより
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高齢者からキャッシュカードをだまし取る受け子役

   それは高齢者からキャッシュカードをだまし取る受け子役だった。1件30万円。連絡相手の指示役は「絶対捕まらない。リスクはほぼゼロ。捕まった人はいません」と強調した。少年は言われるままに銀行員を装い、指定の家へ。しかし、玄関で詐欺と見ぬかれて自首を説得され、その日のうちに逮捕された。

   特殊詐欺の片棒だけでなく、強盗に使われることもある。コロナ対策の持続化給付金の不正受給でも、各地で学生が逮捕されている。犯罪に染まるきっかけは、ほとんどがSNS上の「募集」だ。沖縄の男子学生の場合は突然、知らない相手から「学生でも最大100万円もらえます」のメッセージが来た。無視していたが、1カ月後に再びSNSでメッセージと申請書の記入例を送られた。「みんな申請している」「税理士がいるから大丈夫」といったやり取りを続けるうちに疑念が後退、ウソの収入や職業を書いて手続きした。その後、犯罪の可能性に気づき、受給一歩手前で取り下げた。

   ツイッターで検索すると、闇バイトの募集は分刻みで投稿されていた。高収入をうたい、高級車や高級時計、札束の写真を掲げたものもある。中には「鬼滅の刃がついに上映開始ですね」などと無関係の言葉も載る。流行の検索ワードで、より多くの若者と接点を持つのが狙いらしい。若者が多数の投稿を見ることで「これが当たり前なのだ」と、つい連絡しがちな罠もある。

「NHKクローズアップ現代+」の公式サイトより
「NHKクローズアップ現代+」の公式サイトより

新聞も読まない若者たちは善悪の区別がつかない

   そこで相手がする話ぶりは終始ていねいで、まるで普通のアルバイトに誘うスタイルだ。取材スタッフのNHK名古屋・林雄大さんがバイト探しを装って連絡すると、最初の接触から4時間余りで翌日の「仕事」が伝えられ、詐欺被害者とのやり取りを記したマニュアル「受け子台本」まで送られてきた。「スピード感、手軽さが警戒を解いている」と林さんが感心したほどだ。

   若者が情報をSNSだけでとることも問題だ。相手の顔を見なくても信用してしまう傾向があり、相手は考える間も与えずに話を進める。さらに、「若者はニュースサイトを見ないので、これで逮捕されるのだという情報が頭に入らない」とITジャーナリストの高橋暁子さんは指摘する。新聞を読まない、テレビニュースを見ない。これでは社会の仕組みもわからず、善悪の区別も怪しい人間ができてしまう。

   闇バイトに使われるツールがある。ロシアで開発された通信アプリ「テレグラム」だ。送ったメッセージが、時間を設定しておけば自動で消える。復元できず、サーバーにも残らない。岡山県にある少年院。闇バイトを経験したという少年たちはこれで指示役とやり取りしていた。「すべてテレグラムで詐欺や強盗に入る家の住所などの指示を受けた」「警察もテレグラムは知っているけど、お手上げの感じがした」と、少年たちはリスクを感じずに犯罪に加担したという。

   指示役をやるT(36)に、テレグラムを使う条件で話を聞くことができた。「SNSが一番手っ取り早い。全国的に使えるし、身バレ(身元がばれる)の心配もない」という。ピラミッド組織ができていて、トップは半グレや暴力団。下に指示役がいて人を集め、一番下が募集に応じた実行役の受け子や出し子。Tは月収200万円だそうで「指示役が捕まった話は聞いたことがない」と言い切った。

   いったん組織にとらわれると、抜けるのは難しい。詐欺容疑で逮捕された少年(19)は辞めたいと告げたが、「勝手に連絡を絶ったら家まで行く」と脅された。運転免許証の写真を渡してあるので、ばらまかれる恐怖もある。誘い込まれた若者が他の若者を集めると昇給する仕掛けもある。実行役は逮捕のリスクが少ない指示役に回ることをめざし、組織は増殖を続ける。

   高橋さんは「周囲の大人に相談するか、信頼できるニュースサイトや検索サービスで調べ、先に行かないことが重要です」と注意を促す。それだけで巧妙な犯罪組織から若者を守り切れるか、SNS自体の効果的規制までも考えるべき段階にとっくにきている。犯罪の入り口が普通の若者のすぐそばにある」(林さん)実態は深刻すぎる。

   文・あっちゃん

NHKクローズアップ現代+(2020年11月26日放送「あなたを狙う闇バイト」)