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医療最前線を追い詰めるコロナの現状 進む入院患者の高齢化、負担増える現場

   新型コロナウイルス感染拡大する中、先月(2020年11月)、大阪市立十三市民病院で高齢のコロナ患者が亡くなった。遺体は専用の袋に二重に密封され、入院エリア外へ運ばれた。看取ったのは家族でなく病院スタッフだった。「ご家族全員に会っていただくことはできません。お1人、お顔を見ることはできるんですけど。これでいいのかって思います」という看護師たちが納棺までし、火葬場へ送り出した。

   新型コロナウイルスによる入院患者の高齢化が進む。70歳以上の入院患者は第1波の時は25・4%、第2波29・8%、第3波では56・3%(12月2日まで)。看護師たちは慣れない防護服を着て、ときには認知症対応もする。「繁忙度が1波、2波とは全然違う」という大きな負担だ。4月以降、この病院では風評被害への懸念や家庭の事情などで看護師12人と医師10人が辞めた。

   コロナウイルスで死亡する人の多くが高齢者だ。万一の場合には延命治療を望むかどうかの選択を迫られる。入院時に、万一の危険な状態になった際に高度医療を希望するかの選択を、中等症患者にも確認する病院がふえた。希望した患者は、悪化したら高度医療可能な施設へ転院する。

   大阪府大東市の介護老人保健施設「竜間之郷」は、11月から延命治療について説明文を配る。患者の搬入から半日や1日で決めなければならない状況に陥ることもあるためだ。患者の家族は「人工呼吸器を使いますか」「人工心肺装置はどうしますか」との問いに短時間では答えられない。あらかじめ伝えておく必要があるという。

人工呼吸器を装着するかの判断難しい

   症状により人工呼吸器を装着するかの判断から、すでに難しい。主に重症患者の治療を担う聖マリアンナ医科大学病院(神奈川県川崎市)は、コロナ用の17床中すでに12床がうまっている。人工呼吸器の挿管を望まない患者もおり、本人や家族の意思を聞きながらの治療が続く。いったん挿管すると長期間外せず、つけた患者には看護師4人が必要。これが人工心肺装置ECMOでは、最大10人必要となる。

   回復が見通せない患者に、台数が限られた装置をどこまで使うべきか、医療現場は厳しい判断を求められる。「絶対的基準はない」「医療機器も足りない中では生命の選択を相談しないといけない場合が出る」と、医師たちは深刻だ。

搬送患者がコロナ陽性者だったら?

   感染拡大は救急医療もゆさぶる。脳卒中や心筋梗塞が増える冬に、今年はコロナ対応との両立が課題で、現場の負担は増大する。

   命の危険がある重症患者を受け入れる杏林大学病院(東京都三鷹市)の高度救命救急センターがいま最も恐れるのは、搬送される患者に中にコロナ陽性者がいることだ。本来、発熱などで感染が疑われる人は速やかに検査を受けるはずなのだが、救急搬送患者の中には検査を受けていない人がいる。「高熱ではなかった、仕事を休めなかったなどの理由で、検査を受けない」(墨田区保健所)という実状がここに影響する。もし感染していたら、院内感染のリスクが高まる。受け入れる医療機関自体がストップしかねない。

   このため、同センターは搬入のたびに一人ずつに検査を実施する。結果が出るまでに1時間はかかる。その間は他の搬入を受け入れられない。もし検査結果が陽性だったら、防護処置にさらに時間がかかる。今月、腹と胸痛で搬送された70代男性は検査して陽性とわかり、集中治療室内の陰圧室に隔離。治療に使った医療機器のシートをすべて張り替えるだけでも20分かかり、それだけ新たな搬入患者を受け入れられないタイムラグが広がった。

   政府の新型コロナ対策分科会のメンバーも務める、都立駒込病院の今村顕史医師は、医療現場のひっ迫は今始まったことではなく「他セクションの人員をコロナ治療に持ってくる状態が早くから現れている」という。医療崩壊のきっかけがすでに始まっており、地方はとくに短期間でひっ迫する可能性が高いと指摘する。

   その認識のうえで「医療関係者だけでなく、一人ひとりがコロナ対策の最前線にいる。感染しないようにすることが医療者への応援になる。終わらなかったパンデミック(世界的大流行)はない。きっといっしょに乗り越えられる」と、今村さんは訴えている。

NHKクローズアップ現代+(2020年12 月3日「迫られる命の選択」)