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一族の面倒を見る菅首相の"家族愛"の深さ、長男に株を贈与した訳 「森会長はボケているから」と五輪人事仕切る電通幹部

   「菅家の人々」という小説が書けそうだ。家長である菅義偉の庇護の下、実弟や長男がどんなに挫折しても、自分の人脈とカネを使って、どこまでも面倒を見る"一心同体"一家の心温まる物語は、読む者の心を打つのではないか。

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   横浜駅南口構内に喫茶店Xというのがある。開店は2012年3月。ここに時々現れるのがオーナーで、菅の長男・正剛だと文春が報じている。

   この店はキャラバンコーヒーが駅構内に喫茶店を出すにあたり1982年に設立した子会社ステーションキャラバンの所有で、当時、菅義偉は小此木彦三郎代議士の秘書だった。

   菅は国鉄や相模鉄道に顔が利いたため、ステーションの株を持ってもらったほうが駅ナカへの出店が通りやすいとキャラバン側が考え、菅に1万株(簿価は500万円)を差し上げたそうだ。したがって菅は大株主である。

   以来30年にわたってこの株を所有し続けてきたのに、12年に菅から「株を息子に渡したい」といわれ、正剛が引き継いだという。自民党が政権に復帰し、菅が官房長官になる直前のことだったそうである。

   なぜ菅は株の処分を急いだのだろう。文春によれば、07年に、自分が代表を務めている自民党第二選挙区支部と後援会が、菅が所有しているビルに「主たる事務所」を置きながら、05年分の政治資金報告書に約1956万円の事務所費を計上していたことが明るみに出てしまった。

   そのため「政治資金の一部がみずからの資産形成に使われた」と批判され、官房長官に横滑りするはずがダメになってしまった。そのことが、菅をして「身辺の断捨離」に向かわせたのではないかというのである。

   正剛が、菅の秘書を経て東北新社に入ったことは説明を要しないだろう。しかし、彼が父親から渡された株には「贈与税」がつくから、もし払っていなかったとすれば脱税になる。

破産した弟をJR東日本の子会社に押し込む

   三歳下の実弟・秀介にも菅は救いの手を差し伸べている。繊維商社グンゼ産業を15年務めた後に脱サラして、菓子販売業を始めた。東京駅構内の一等地に出店したが、これも菅の"威光"があったからであろう。

   総務省は菅の天領とまでいわれるが、政務官を務めて以来、国交省にも強い影響力を持っているのである。

   瞬く間に事業は軌道に乗り、年間売り上げは1億円を突破した。だが派手な生活と離婚、銀座のホステスと再婚するなどの放漫経営で、02年10月には秀介が破産宣告を受けてしまう。

   だが持つべきものは兄。半年後にはJR東日本の子会社に部付部長として入社し、その後取締役にまでなったという。

   菅という政治家、自分と意見の違う者は容赦なく切るが、一方で陳情には耳を傾け、メモを取り、「明日、誰々から連絡させます」というと、必ずその人間から電話が来るそうだ。

   「"断らない男"だから総理になれた」(菅を知る国会議員)。アメとムチの使い方を心得ているのである。

   正剛について菅は、「長男とは家計も別にしている。自分の政治活動とはまったく関係ない別人格」といってきた。だが、今回浮かび上がった鉄道会社から菅への政治献金、ファミリーへの特別待遇は、「自助、共助、公助を掲げてきた菅氏は、その政治力を使って、自らの家族に"公助"を与えてきたのではないか」(文春)。汚れちまった言葉だが、菅首相は説明責任を果たすべきこと、いうまでもない。

全日本私立幼稚園連合会の4億円使途不明金事件は政治絡みか

   次は新潮。全国の幼稚園が加盟する全日本私立幼稚園連合会で発覚した4億円を超える使途不明金事件は、不可解極まりない。

   NHKのスクープだが、当初、香川敬前会長と当時の事務局長による単純な詐欺事件かと思ったが、どうやらそうではなく、政治絡みのようである。

   連合会とその系列のPTA連合会が刑事告訴に踏み切ったが、代理人の大濱正裕弁護士によると、「警察が捜査しないと全容が判明しない」というのが告訴の理由だそうだ。

   警視庁捜査二課が担当することになったが、受理までの時間も早すぎると疑問が出ている。新潮によれば、その裏には香川前会長が山口県で幼稚園を経営しながら、同時に県の公安委員に就いていたことが影響しているそうである。

   警察庁は詳細な情報を把握できていて、その結果、警視庁に刑事告訴させる方針が決まったという。動いたのは警察庁出身の杉田和博官房副長官と菅の秘書官もやっていた警察庁ナンバー2の中村格次長だというのである。

   この案件が菅官邸の意向で、政治家までいかないようにしたからだと、大手紙の社会部記者が解説する。

   「かりに東京地検特捜部が捜査することになれば、連合会のブラックボックスに斬り込むことになる。かりに森(喜朗元首相=筆者注)さんを筆頭とする自民党の文教族議員に裏金工作が及んでいたなんていう話になったら大変です」

   また森がらみの不祥事なのか。この問題を追及している立憲民主党の牧義夫代議士は、「金の使途はあくまで不明なのです。なのに、告訴容疑に業務上横領が入っているところに、前会長と元事務局長にすべての責任を押しつけて終わらせる意図が見え隠れしているように思います」と、疑問を呈している。

   香川前会長は1億5000万円をすでに弁済したという。連合会サイドは、そのほかは使途不明金で済ませようと考えていたところ、NHKに報じられてしまったようだ。

   連合会にとっての悲願は、幼児教育無償化だったが、一昨年10月にスタートさせることができた。そのための政界工作資金として使われたのではないのか。

   横領で幕引きといわれていることに香川前会長は異を唱えているそうだ。PTA連合会の会長である河村建夫元官房長官は、6年前に連合会にパーティ券30万円分を買ってもらっていたことが、新潮の取材で明らかになっている。森元首相を筆頭に、文教族議員たちにカネが配られていた。そう考えれば、この事件は腑に落ちるのだが。

オムロン副社長が突然退任した事情

   また、有名企業の副社長が、W不倫と部下へのパワハラで、退社させられてしまった。

   「オムロン」といえば京都財界の中心会社である。今はヘルスケアだけではなく、IAB(インダストリアルオートメーションビジネス)といわれる工場のオートメ化支援事業が主力だそうだ。

   その「オムロン」の宮永裕副社長(58)が3月22日の人事で、突然退任となったのだ。

   宮永が口汚く部下に浴びせる罵詈雑言がたまらず、優秀なベテラン社員が次々に辞めていっているという。同社の関係者がこう話している。

   「ネチネチと文句を言い始めて、大阪弁で"死ねボケが!""なんで目標が達成できないんや""ここから飛び降りろや""生きる価値ないやろ、お前はハエや"などと罵倒するのです」

   このいい方もひどいが、追い出す決め手になったのは、課長級職員だった40代前半の女子社員とのW不倫だろう。コロナ禍の中でも毎週金曜日の夜は2人してディナーに出掛けていた。新潮は、相合傘で仲良く歩く2人の姿をモノクログラビアに載せている。

   宮永は次期社長候補で、愛人を課長級から4階級特進のマーケティングセンタ長にしようとしていたそうだ。

   現社長の山田義仁は、こうした宮永の行為を知りながら黙認してきたという。同社の関係者は、「退任理由であるパワハラや女性問題は公表されず、自身の責任を免れるために、社長がこれらを隠蔽したと言われているのです」と批判している。

   そうした社内の不満が、新潮に情報を提供することに結び付いたのであろう。

東京五輪は"特命"案件

   さて、東京五輪の開会式で、渡辺直美を豚に見立てようという案を出したことを文春に報じられ、電通出身のCMクリエイター佐々木宏が謝罪して辞任した。

   だが文春によると、諸悪の根源は佐々木と電通同期で、MIKIKOの排除を主導した高田佳夫電通代表取締役(66)で、彼がいる限り組織委の体質は変わらないと報じている。

   電通社長の五十嵐博が高田より5つ年下なのに、なぜ高田が代表権を持っているのかというと、東京五輪が「余人をもって代え難い"特命"案件だから」(組織委幹部)だそうである。

   高田は森喜朗と同じ六本木の超高級マンションに住み、家族ぐるみの付き合いだそうだ。

   元電通専務で組織委の高橋治之にいわせると、五輪が電通の収益に貢献するのは間違いなく、売上高の1割は超えると見ている。

   したがって演出チームにも厳しい縛りをかけているという。「すべての商流は電通から」「他広告代理店系のスタッフはNG」というように。

   社命を背負っている高田は、次第に、現場を管理・監督するようになり、MIKIKOを排除し、佐々木を全面に出していく。

   昨年11月、彼女は辞表を提出することになるのだが、その前の10月16日に、自らに降りかかった出来事を克明に記したメールを電通幹部に送っていたそうだ。

   そこには、「高田さんより、『今までの労いと共に、佐々木さん体制の報告を会長の口から受ける』と伺ってトリトンに出向く」とある。

   そこで森会長はこう告げたという。「引き続き、オリ開会式はMIKIKOさんにお願いしたい」。佐々木体制への変更を覆すような発言をしたというのである。

   同席していた高田は、訝る彼女を別室に連れて行って驚くべき発言をした。

   「森会長はボケているから、今の話は事実と違うから」と、佐々木体制で行くと念押しされたそうだ。

   電通幹部の説明だと、森会長はMIKIKOの能力そのものは買っていた。だが高田は、佐々木ならば意のままに動かせるし、電通の利益にも適うから、森発言をなかったことにする必要があったというのである。

   今朝(3月25日)から聖火リレーが始まった。何としてでも東京五輪を開催したい菅首相と、五輪を食い物にして儲けようという電通の"利害"が一致した、汚れた祭典が走り出した。

   だが、聖火ランナーが後ろを振り返っても、そこに国民や選手たちの姿はない。たとえ開催したとしても、後々まで、「コロナを克服できなかった五輪」として世界中に記憶されることになるはずだ。(文中敬称略)

元木 昌彦(もとき・まさひこ)
ジャーナリスト
1945年生まれ。講談社で『フライデー』『週刊現代』『Web現代』の編集長を歴任。講談社を定年後に市民メディア『オーマイニュース』編集長。現在は『インターネット報道協会』代表理事。上智大学、明治学院大学などでマスコミ論を講義。主な著書に『編集者の学校』(講談社編著)『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)『現代の“見えざる手”』(人間の科学社新社)などがある。