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大手マスコミはなぜ記者会見開放に反対するのか
記者クラブ問題座談会(上)

   2009年夏の政権交代で永田町や霞が関は大きく変わった。その一例が「記者会見のオープン化」だ。閣僚や党首の会見が記者クラブ以外のメディアにも開放されていくなか、記者クラブという日本独特のシステムの弊害が露わになった。なにが問題で、今後どう展開していくのか、J-CASTニュースの記者が話し合った。

鳩山首相の最初の「公約違反」

「記者会見オープン化」の先陣を切った岡田外相の会見風景
「記者会見オープン化」の先陣を切った岡田外相の会見風景

A   この1年マスコミ界の最大の話題といえば記者会見のオープン化だったね。注目が集まるようになったのは、いつごろからだろう?


B   「政権交代」が実現した総選挙の少し前からだ。09年5月に民主党の小沢一郎前代表が西松建設問題で辞任して、代わりに鳩山由紀夫代表が就任したころだ。そのときの会見で鳩山代表は、フリージャーナリストの上杉隆さんに「政権を取ったら記者会見を開放するのか」と質問され、「私が官邸に入った場合、上杉さんにもオープンですのでどうぞお入りいただきたい」と答えた。


C   それまで首相会見は、内閣記者会という記者クラブに所属している記者しか参加できない決まりだった。しかし鳩山政権になれば、クラブ以外のフリーやネットの記者も会見に参加できるようになる。鳩山首相はそう公言したわけだ。


A   ところが鳩山政権が誕生しても「公約」は実行されなかった。


B   大きな節目は9月16日。鳩山首相の就任会見だった。記者クラブ以外では、一部の外国特派員と雑誌・専門紙誌の記者の出席が認められたものの、フリーやネットメディアは入ることができなかった


C   鳩山政権の最初の「公約違反」だ。上杉さんがコラムで非難するなど、ネットでは大きな批判が巻き起こった。だが記者クラブの中にいる新聞やテレビはこの問題を報道しなかった。


A   既存メディアが伝えないのは、自分たちの既得権益にかかわる問題だから世間に知られたくない、ということかな?


C   そういう側面もあるだろうが、そもそも首相会見は政府ではなく、記者クラブが主催しているというのが大きい。つまり、会見のオープン化を拒んでいるのは記者クラブ自身だ。そういう自らの閉鎖性を暴露する記事は書きにくいということだろう。


B   ただ、記者クラブの幹事社に取材したら、「民主党側からネットメディアにも会見を開放してほしいという要望はなかった」という返事だった。

オープン化を阻んだ「犯人」はだれか?

B   どうやら民主党のほうも記者クラブに気を使って、首相会見の開放を強く要求しなかったようだね。特に、政権のスポークスマンである平野博文官房長官は、開放を阻止するために動いたと言われている。


A   なぜ、平野官房長官は記者クラブに配慮したのか。


C   既存のマスコミの力はまだまだ大きく、政権交代はマスコミが作り出した世論で実現したという部分もある。平野官房長官としては「新聞やテレビを敵に回したくない」という思いがあったのではないか。


A   鳩山首相自身はどう考えていたんだろう? この問題でも揺れていた?


C   民主党の代表や幹事長の会見は以前からオープン化されているが、開放を進めてきたのは元代表の岡田現外相で、鳩山首相の手で実現したわけではない。実はそんなに積極的ではなかったのではないか。


A   でも鳩山首相自身は「オープン化したい」と思っていた節もある。元秘書が起訴された12月24日の釈明会見で「来年からもっと記者会見を開放するようにする。このことに関して決意は変わっていない」と発言したんだよね。


B   この釈明会見は官邸ではなくホテルで開かれたので、我々のような外部のメディアも参加できたが、あの発言にはびっくりした。近くにいたフリーやネットの記者たちはみな喜んでいた。「首相は意外と本気なのかもしれない」と感じたよ。


A   そうなると、首相自身は記者会見をもっとオープンにしたいと望んでいたが、記者クラブの抵抗で開放されなかったということになる。なぜ記者クラブは会見オープン化に反対するのだろうか。

記者クラブがオープン化に反対する理由

B   記者クラブの幹事社に聞くと「外部の記者が入ってくると、記者会見の運営に支障が生じる恐れがある」というあいまいな答えが返ってくる。


C   それは「トンチンカンな質問が出ると困る」ということかもしれないが、そのような問題は会見時間を長めに確保したり、進行役がきちんと仕切ったりすることで解決できるはずだ。


B   実際、鳩山首相の釈明会見では、記者クラブの記者に混じってフリーやネットの記者が何人か質問していたが、特に混乱は生じていなかった。


A   ほかに記者クラブが反対する理由としてよくあがるのが、セキュリティの問題。ニューヨークタイムズの記事によると、毎日新聞の記者が「もし記者会見で焼身自殺をする人が出たら、だれが責任をとるのか」と言ったというが、過剰反応ではないか。


C   さすがに焼身自殺というのは、言いすぎだろう。ただ、かつて新聞社で働いた経験からすると、セキュリティの問題というのは確かにあると思う。これは冗談で言われていた話だが、某大手新聞には「宮内庁の記者クラブにはエキセントリックな記者は入れない」というルールがあると聞いたこともある。一種の身元調査をやっているということだね。


A   会見場のキャパシティの問題もあるから、「誰でも記者会見に入れろ」というのは現実には難しい。問題はどこで線を引くかだ。


B   メディアの数が限られていた昔は、記者クラブに所属している記者にだけ会見参加を認めるというルールも合理性があったのかもしれない。しかしメディア環境が大きく変わった今では、時代遅れの感が強い。


A   「記者会見をもっとオープンにしろ」という要望はだいぶ前からあるが、記者クラブはオープン化に消極的だ。そこには、セキュリティやキャパシティ以外の理由があるのではないか。

記者クラブの「既得権益」とはなにか

C   本音でいえば、既存メディアが持っている「既得権益」を侵されたくないということだろう。たとえば、ニコニコ動画などが記者会見をネット中継してしまうと、新聞やテレビよりも早く、会見の情報が外部に流れることになる。そうなると速報性を売りにしている通信社などは困ってしまうというわけだ。


A   新聞社にとっても外部の記者が入るのは迷惑なようだ。


B   元産経新聞の記者だった福島香織さんはツイッターで「(記者クラブの)秩序を乱されては、新聞社的にはとっても困るよ。はっきりいって既得権益だから」と書いている。彼女は「権力側に対して直接、公の場で質問する、これはメディアにとって最大の権利だから人にはゆずりたくないだろうなあ」とも記している。実際、いまも多くの大臣会見では、記者クラブ以外の記者は「質問権」を認められていないが、それはまさしく既得権益だからだ。


C   内部にいる者からみれば、記者クラブというのは「取材拠点」としても非常に便利なシステムだ。記者クラブにはいろんな情報が集まってくるし、役所の各部署へのアクセスも容易なので、効率的に取材をこなすことができる。


A   役所には記者クラブ用の部屋が確保されていて、所属の記者はそこで取材したり記事を書いたりしているが、部屋の家賃を払っていないと聞く。これは記者クラブへの便宜供与といえるだろう。


B   その点については、外務省の記者会見で質問が出たことがある。09年10月の会見で岡田外相は記者クラブの部屋について聞かれ、「賃貸契約はなく、無償で部屋を提供している」と答えている。他のクラブの現状を詳しく調べたわけではないが、おそらく同じような状況だろう。


C   特に霞が関の場合は、都心の一等地に無料のレンタルオフィスがあるようなもの。このメリットは大きいが、その原資は国民の税金から支出されている。今後は「無償提供」の正当性や公平性が問われる可能性もあるね。