J-CAST ニュース ビジネス & メディアウォッチ
閉じる

山里亮太編集長、千葉ジェッツ島田慎二代表インタビュー 「バスケを5万人がチケットを求めるスポーツに」

千葉ジェッツふなばし代表取締役社長 島田慎二氏(右)、J-CASTニュース名誉編集長の山里亮太(南海キャンディーズ)
千葉ジェッツふなばし代表取締役社長 島田慎二氏(右)、J-CASTニュース名誉編集長の山里亮太(南海キャンディーズ)

   こんにちは。J-CASTニュース名誉編集長の山里亮太です。

   今回の取材テーマは、2015年4月に発足した日本男子プロバスケットボールリーグ「B.LEAGUE(Bリーグ)」です。

   千葉ジェッツvs.新潟アルビレックスBBの一戦を初めて観て「なんなんだこれは!」と心底感動し、試合後の富樫勇樹選手にチームのこと、Bリーグのこと、そしてバスケットボールプレーヤーとしての思いを聞きました。


<これまでの記事>

(1回目)山里亮太編集長「Bリーグ」観戦レポ 「アイドルのライブ前の高揚感とそっくりだ」
(2回目)山里亮太編集長、富樫勇樹選手インタビュー 「東京五輪でプレーする姿をファンに見てもらいたい」



   次は、この"盛り上がり"を作った仕掛け人、株式会社千葉ジェッツふなばしの島田慎二代表取締役社長に、千葉ジェッツの魅力や、Bリーグのこれからを聞きます。

チームの強化、集客力、会場の楽しさ

山里: 開場する1時間ほど前から、取材がてら船橋アリーナのまわりを歩いていたんですけど、いたるところでジェッツのTシャツを来た家族連れを見かけました。中高生だけじゃなくて、おじいちゃん、おばあちゃんもジェッツカラーのTシャツを着てすごく楽しそうでした。
バスケットの試合って昔は「観る人だけが観る」ものだったのに、今はショーを観に行くテンションですよね。

島田: うちは去年、3年連続で観客動員数日本一になりました。お客さんがたくさんいらっしゃると、歌手を呼ぶこともできるし、プロジェクションマッピングもできるし、エンタメに力を入れられる。するとまたお客さんを呼び込めるんです。
試合中もにぎやかでしたでしょ? フリースローが入ったら、スポンサーのサウンドロゴが流れたりして。バスケって、色んな局面で動きが多いので、スポンサー向けのアクティベーションと言いますか、効果を提供する場面も多いんです。
大事なのは、「チームの強化」「集客力を高める」、そして「会場の楽しさ」の3点セット。これでジェッツはいい波に乗れました。

山里: そういう手法って、他のチームは参考にしているんですか?

島田: どこも同じように努力していると思いますよ。ただ結局"鶏と卵"になりますが、お客さんがたくさんいるから盛り上がるのか、盛り上げたからたくさん人が入るのか――。どのタイミングで経営をどう回していくかは、簡単ではないですよね。

山里: 三位一体となったところが千葉ジェッツの魅力?

島田: うちには上昇志向があります。設立7年くらいの若いクラブなんですけど、所属するリーグを変えたり、決算数字とかもディスクローズしたり、有言実行で観客動員数の記録を伸ばしたり。「攻めている」っていうのは大きな魅力だと思います。
あと、スポーツチームの社長って普通は顔が見えないじゃないですか。でも私はどんどんメディアにも出ていますし、スタッフもキャラ化しています。
試合中で言えば、選手だけじゃなくて、床をモップで掃除するモッパーまで、衣装をつけてやっているんですよ。2020年の東京五輪に、うちからスタッフを送るのが目標です。

山里: そこかしこにエンターテインメントを散りばめるって、海外のプロレスみたいですね。

島田: 結構散りばめまくっていると思います(笑)。

山里: まるでテーマパークみたいですけど、その中でも富樫勇樹選手はやっぱりスターですよね。富樫選手の獲得というのは大きかったですか。

交渉はすさまじかった

富樫勇樹選手(千葉ジェッツ)
富樫勇樹選手(千葉ジェッツ)

島田: 会社の成長段階はいろいろありますが、彼の獲得は確かに千葉ジェッツの成長の大きなファクターです。

山里: NBAの選択肢もあり、競合も多い中で、千葉に興味を持ってもらうって大変じゃないですか?

島田: むちゃくちゃ大変でしたね。彼は、単に試合に出られればいいというわけではなく「優勝したい、強いチームでやりたい」という思いもあったはず。そのうえで、お客さんが多い、スポンサーがちゃんとついている、経営がうまくいっている。だからチームを勝たせる状況を整えていってくれるだろう――。うちのそういうところを信用してくれたんじゃないかと思います。私の人柄とかではなく、ビジネスとしてちゃんとやってくれる球団だと評価してくれたんでしょう。
ビジネスとしてやってきた結果、彼が決断してくれたのは大きかったですね。彼の契約を勝ち取った交渉はすさまじかったですから。

山里: どんな風に?

島田: 最初に動き出したときは、ちょうど富樫が「選択」するときでした。2014年NBAの契約を勝ち取ったものの試合には出られず、2015年は、イタリアのセリアAの「ディナモ・バスケット・サッサリ」と契約を結ぶも、開幕の直前で足首を怪我してレギュラーシーズンの契約は結ばなかった。
あの時海外で挑戦するか、日本に一旦戻るかの選択の中で、うちだけじゃなくて有力敏腕のクラブが複数手を挙げていたんです。 ちょうどその時は、Bリーグ開幕の1年前、前身である「NBL」というリーグのラストシーズンの開幕1週間前でした。彼が欲しいのはどこも一緒ですが、当然チームは出来上がっていて練習もやってきているので、このタイミングで彼を獲得してしまったら、今まで作り上げてきたチームが大きく変わるとか、それによって出場機会を失う選手が腐るかもしれないという不安もあり、なかなか判断がつかない状況でした。
うちもその時すでに強力なポイントガード陣を抱えていたので、とても迷ったんですが、一旦チームがぐちゃぐちゃになっても、ここは攻めるべきだという決断ができた。当時のジェッツの規模からすると年俸も高額でしたが未来に向けた決断でしたね。

山里: 反発はありましたか?

島田: そりゃありますよ。ジェッツで骨をうずめる意気込みで来てくれたポイントガード陣がすでにいるのに、しかも彼らを口説いたのも私なのに。開幕の直前でそりゃないよね、と。

山里: どうやって理解してもらいチームを作り直していったんですか?

島田: もう最初はひたすら謝りました。ただこれはもう決まったことで、ポイントガードというポジションは3人から4人になったけど、そこはプロだから競争してくれ、頑張ってくれ、と。その年は、監督も配慮して、バランスは保てましたが。
獲得したのは、開幕のちょうど1週間前だったんですけど、誰にも言わず、いきなり入団のリリースを出しました。するとツイッターで「富樫、千葉入り」と、ものすごく拡散されまして。でも、その日がちょうど福山雅治さんが入籍された日だったんです。

山里: え!! あの日ですか!?

島田: そう。その日のツイートランキングは、「福山雅治」「富樫千葉入団」がデッドヒートしたんです。最後は負けて2位だったけど(笑)。

山里: いやそれ、大健闘ですよ。

島田: 福山雅治さんの入籍と戦うだけでもよくやったと思って(笑)。

ブースターが首脳陣のよう

山里: アリーナのまわりを歩いていたら、ある男性のジェッツファンが声かけてくれたんですけど、「今日ここは満員。何千人も入っているんだよ。でもなー、もうちょっと会場大きくしないと駄目だよな」っておっしゃっていて。もう、ブースターおひとりおひとりが首脳陣みたいなトークをするんですよ(笑)。

島田: みんな私に「アリーナ作ってくれ」って言うんです。一体いくらかかると思っているんですかね(笑)。

山里: それだけ期待が高まっているんですね。これからの千葉ジェッツの目標、Bリーグの目標を教えてください。

島田: 会場がもうこういう状況なので、アリーナを作ることも視野に入れてはいますが、今日明日作るということではないです。100億以上するものですから簡単な話ではありません。ただ、夢としては目指していきたいですよね。
その夢の実現までには、アリーナに3万人くらい来たいという人がいて、5000人が入るという状況にしたい。我々は、あくまで集客ビジネスやっているので、その観点からいくと、ジャニーズのアーティストのように、「ドーム公演を何回やってもあっという間に埋まる」っていうのは、本当にすごい。うちはバスケ界では観客動員数1番とか言ってはいますが、多分6000~7000人くらい観たい人がいて、5000人が入っている感じなので、まだまだです。
ジェッツの商品価値や魅力をさらに上げていき、3万人とか5万人の人が来たいと思って、瞬時にチケットが売り切れるようなクラブにしたいですね。

山里: それくらい集客できるスポーツといったら、今の日本では野球とサッカーくらいですよね。そこにバスケも全然入れる自信があると。

島田: あります。1試合の観客動員数だけを見たら、野球は5万人、サッカーも2万人、バスケは多くても5000人。そこの数だけで勝負したら勝てないんですけど、例えば、バスケの試合を見たい人が増加して、関心が高まればTV放映した時に視聴率が上がりますよね。それは観客動員に寄与していなくても、視聴率が高ければ、メディアや放映に興味がある人にとっても価値あることだと思うんです。

山里: なるほど。

島田: こういう時代、少子化になっていくなかで、箱ものビジネスだけでは難しいと思います。テクノロジーを使って新しいビジネスモデルで勝負していけるようにならないといけない。ただ、そういう展開も、人気がないとだめなので、目指す次元にいけるように努力していきたいなと思います。

(続く)


(プロフィール)
島田慎二

1970年新潟県生まれ。日本大学法学部卒業後、旅行代理店を経て、2001年に海外出張専門の旅行会社ハルインターナショナルを設立。10年、コンサルティング会社リカオン設立。12年、千葉ジェッツ(現千葉ジェッツふなばし)を運営する株式会社ASPE(現株式会社千葉ジェッツふなばし)の代表取締役に就任。NBLへの転籍、地域密着の強化など、独自路線を打ち出し、組織を活性化。千葉ジェッツを天皇杯連覇、年間観客動員数トップなど、Bリーグを代表するチームに導く。
近著に『オフィスのゴミを拾わないといけない理由をあなたは部下にちゃんと説明できるか? 最強の組織を作るマネジメント術』(アスコム)などがある。