こんにちは。J-CASTニュース名誉編集長の山里亮太です。
今回のテーマは「高知」で、高知県知事の尾﨑正直さんと「高知愛」について語り合っています。(前回:山里亮太編集長、高知県知事と高知愛を語り尽くす<よさこい編>)
前回は、よさこいを2020年東京オリンピック・パラリンピックの開会式で披露できないか。NHKの朝ドラにぴったりじゃないか! と、よさこいの未来について話し合ってきました。
今回は「酒飲み」についてです。高知に来るとだいたい朝まで飲み明かすんですが、知事もそうなのかな...?
山里: 昨夜は高知の友だちと飲みに行きまして、結局7軒。朝4時まで飲みました。友人が予約してくれた居酒屋さんでスタートして、そこから「ひろめ市場(いちば)※」、その後も次々と。(※編注:数十店舗の飲食店がひしめきあう屋内型の屋台村)
尾﨑: 山里さんが「ひろめ市場」へ行ったら、大騒ぎになって大変じゃないですか?
山里: むしろ楽しいです。いつも知り合った方々と飲んでいます。
尾﨑: みんなお酒を注ぎに来るでしょう?
山里: はい、本当に。刺身をお箸でつまんで食べようとしたところに、お酒を注ぎに来てくださる方がいたのでちょうだいし、次に食べようとしたら別な方が注ぎに来てくださったのでちょうだいし。それがずーっと続いて、結局、お刺身は乾いてカピカピになっちゃう。そんなことが「ひろめ市場」では日常です。どうして高知の方は、あんなにオープンマインドなんでしょう?
尾﨑: 歴史的理由があると私は思っています。高知は昔から手酌厳禁で、しかも差す順番が決まっています。後輩が先輩にまず差して、先輩が飲み干して、後輩に返してくれる。これが「献杯」、「返杯」です。
山里: 昨日も友だちの先輩で一人、とっても飲ませ上手な方がいて、その方と何度も「献杯」「返杯」ってやりました。
尾﨑: 普通の宴会の場合、先輩が最初に「まー、おまえも飲め」と言って後輩に注ぎますよね。高知は、後輩から先輩のところに差しに行っていいんです。これなら、誰でも先輩、後輩関係なく一緒に飲むことができます。つまりお酒が大変貴重だった時代に、農家の四男坊が庄屋さんと一緒にお酒を飲むことができたんです。
「いつもありがとうございます」と献杯に行けば、必ず庄屋さんが返してくれた。それでみんなが平等に飲めた。その精神が今も生きて、分け隔てない飲み文化になっているんだと思うんです。
山里: ひろめ市場のこと、僕は「酒のディズニーランド」って呼んでいます。地元の方も観光客も来るフードコートというのが一般的な説明でしょうけど、酒を日本一楽しめる場所ですから。
尾﨑: 誰とでも飲めるし、話しやすいでしょう。
山里: そうです。あんなに知らない人と仲良くなれる場所って、珍しいなって。
尾﨑: 今日から始まる「土佐の『おきゃく』2019」のイベントは、中央公園や商店街のアーケードが酒場になるんですよ。
山里: 中央公園はさっき、行ってきました。この後も飲みに行きます。アーケードにはコタツが並ぶんですよね。そっちも行きたかったんですが、来週は仕事で来られず、残念です。
尾﨑: 高知は明るい酒飲みの街で、食べ物もおいしい。じゃらんリサーチセンターというところが毎年、「宿泊旅行調査」を実施しています。テーマ別・都道府県魅力度ランキングに「地元ならではのおいしい食べ物が多かった」部門があり、高知県は過去10回のうち1位に6回、2位に2回選ばれています。
山里: 選ばれる理由は分かります。もちろん素材はいいですけど、最後は高知の人たちが調味料としてめちゃくちゃうまくしてくれる気がします。日本酒とか東京ではあまり飲まないですけど、こっちではおいしく飲んじゃうんですよ。
尾﨑: 土佐人はある意味、おもてなしのプロですから。例えば、お笑い芸人さんは「ここにある茶碗でお茶を飲む」というだけで、人を笑わすことができますよね?
山里: まあ、しろと言われたら。
尾﨑: それが芸人さんの技ですよね。おもてなしをすることにとてつもない情熱を持っている土佐人は、そのための技を持っているんです。どうしても盛り上がらない宴会でも、この技を出せばいける、というものがありますから。「菊の花」というものをご存じですか?
山里: あー、存じておりますよ。とてつもなく恐ろしいと言っていいかわかりませんが、すごいですね、あれは。
尾﨑: 唄いながら、テーブルの上に伏せられたおちょこを順番に返していくんですね。中に一つ「菊の花」が隠されていて、それを当てた人がすべてのおちょこに注がれたお酒を飲み干すという。
山里: 「ときわ」っていう大好きな店があって、そこのお父さんが高知の飲み方をいろいろ教えてくれて、『菊の花』のことも知りました。
尾﨑: 「ときわ」に行かれるんですか? 私もあの店大好きで、大学生の頃から行っています。急な階段の2階があって、ちょっと「志士の隠れ家」みたいな雰囲気で。
山里: 大将がけっこう飲みながら料理していて、後半ベロッベロになるところもまた、いいんですよね。
尾﨑: あそこのワタ天は食べられましたか? マグロのワタをちょっと衣で絡めて。
山里: それは食べたことないです。あ、でもひょっとしたら食べているかもしれないです。高知で何か食べると「こんなおいしいもの初めて食べた」っていつも思うんですけど、たくさん飲んで忘れているから「初めて」になるのかも。
昨日、飲みながらそういう話をしていましたが、いつだって新鮮な気持ちで「じゃらんリサーチセンター1位」を味わえるってことですよね。
尾﨑: 「ときわ」のようなディープな世界まで、入っていただいているんですね。ありがとうございます。
山里: 僕みたいなものがまるで地元のように語れるパワーが、高知にはあるんです。
尾﨑: 「地産地消」でなく「地産外商」と言っています。産業振興となると「企業誘致」と言われますが、それは都会に近いところに向いた施策です。高知はそうではないですから、無いものねだりをせず、強みを生かそうと。
例えば、山里さんが好きになっていただけるような、素晴らしい「食」があります。それを県外に持っていったり、高知へ来ていただいたりして、高知にとっての外貨を稼ごうというのが「地産外商」です。そのためのお手伝いとして、銀座一丁目に高知県のアンテナショップ「まるごと高知」があります。
山里: 何回も行っています。ミレービスケットを買いに行くんです。
尾﨑: オープン当時は、商品が1400アイテムしか集まりませんでした。それが今は、絞りに絞って2500アイテム。事業者さんも当初は35社ほど、今は189社。皆さん、外に向かって売っていこうとしています。
山里: 昨日飲んだ居酒屋に、友だちの先輩が「ヌタ」というのを持ってきてくれました。ブリの刺身はこれで食べるのが一番だと、家で作ってきてくれたんです。ニンニクの葉を刻んで、すりつぶすんだそうですね。それが最高においしくて、商品化したらいいんじゃないかって話していたんです。
尾﨑: そういう方すでにいますよ。おじいさんのところで食べておいしかったけれど店では売ってない、だったら自分でヌタの商品を作ろうと起業したんです。「第3期高知県産業振興計画」のPR版パンフレットの55ページに「葉ニンニク加工品」として載っています。
山里: やっぱりもういらっしゃるんですね。「葉ニンニク加工品」、確かに載っていますね。あ、須崎市じゃないですか。6月に須崎市でライブやるんですよ。なんか、うれしいなー。
尾﨑: そんなに高知を大好きでいてくださる山里さんに感謝です。素朴でいいものに付加価値をつけて、売っていこうとみなさん頑張っています。だから発信力がほしい。その面で山里さんに助けていただいているのは、本当にありがたいです。
山里: お手伝いできることあれば、なんでもやらせていただきますんで。
尾﨑: 私はこの後、「土佐のおきゃく2019」の開会宣言をして、会場で飲みますので、よろしかったらご一緒にどうですか?
山里: ありがとうございます。そしたら地元の友だちと相談して伺います。って地元じゃないですけど。
尾﨑: お酒強いんですよね?
山里: まあまあ飲むんですけど、こちらの方々にはかないません。
尾﨑: こちらには、神さまがいますからね。
山里: べろべろの神さまですね。中央公園で、お祈りしてきました。だから、今晩はきっと大丈夫ですね。
(終わり)
プロフィール
尾﨑正直(おざき・まさなお)
1967年生まれ。高知県高知市出身。1991年、東京大学経済学部を卒業後、大蔵省(現財務省)に入省。外務省在インドネシア大使館一等書記官、財務省主計局主査などを歴任。2007年10月財務省退職。同年12月より高知県知事に就任。現在3期目。