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岡田光世「トランプのアメリカ」で暮らす人たち
「トランプ支持者」は今、何を思っているのか(前編)

   米大統領選で「バイデン勝利」の報道(2020年11月7日現地時間)に全米の半分が湧き、「敗北宣言」しないトランプ大統領をメディアが激しく非難するなか、トランプ支持者たちは今、何を思っているのだろうか。

  • ニューヨーク市(マンハッタン)のトランプタワー前で1人、警察支持の旗を振る男性(2020年11月、筆者撮影)
    ニューヨーク市(マンハッタン)のトランプタワー前で1人、警察支持の旗を振る男性(2020年11月、筆者撮影)
  • ニューヨーク市(マンハッタン)のトランプタワー前で1人、警察支持の旗を振る男性(2020年11月、筆者撮影)

「トランプ勝利に200ドル賭けた」

   この連載の前回の記事「『バイデン勝利』クラクション鳴り響くNY」(11月8日公開)で、「バイデン勝利」を主要メディアが報道した日の様子を伝えた。1日中、ニューヨークの街のあちこちで叫びと拍手、クラクションの音が湧き起こった。人々は鍋やスプーンなど音が出るものを手に外に飛び出し、踊り歌い、見知らぬ人同士で喜びを分かち合った。

   ニューヨーク市は、民主党支持者が圧倒的に多い。街中を歩き回ってそんな様子を見ながら、「他人同士が気さくに笑顔や言葉を交わす、私の大好きなニューヨークに久しぶりに戻った」と胸が熱くなった。

   そして同時に、これまで出会ったトランプ支持者たちや、トランプ支持の私の友人たちは今、どこで何を感じているのだろうか、という思いが頭をよぎり続けた。

   私が今いるアパートで働くドアマンの1人、エディ(56、プエルトリコ出身)は、4年前に続いて今回もトランプ氏に投票した。今回、選挙の勝敗を友人と賭け、トランプ氏に200ドルを投じた。

   「投票日(11月3日)は仕事?」と、その数日前に彼に聞くと、「そうだ。トランプが勝ったら暴動が起きるから、ここでみんなを守らないとな」と両手を突き出し、ボクシングする真似をした。

   「バイデン勝利」の報道後、彼を見かけた時、「200ドル、失っちゃった?」と聞くと、辺りを見回して「他の人にわかっちゃうだろ」と声をひそめた。

   「大統領を選ぶ選挙なのに、金を賭けるなんて聞こえが悪いからな」。

   「今、どんな気持ち?」と尋ねる私に、エディが言った。

「僕はトランプに投票した。そして、バイデンが『勝利』した。僕はバイデンを支持した上司に、『おめでとう。僕は、国民に選挙で選ばれた、僕らの新しい大統領を支持しますよ』と伝えた。上司は4年間、トランプを支持した僕を馬鹿呼ばわりし続けた。僕は、そういうことはしない。これからはバイデンが大統領として、この国の舵取りをうまくやってくれるように、神に祈るんだ」

   いつもジョークばかり言っている彼が、「神」を口にしたこともそうだが、彼の切り替えの速さに驚くとともに、その思いに感銘を受けた。

新しい大統領の支持呼びかけるユダヤ教聖職者

   ペンシルベニア州のトランプ支持者集会に一緒に行った正統派ユダヤ教徒のデビーも、トランプ氏に投票した。「バイデン勝利」に街中が湧き立ったあの日、どこで何をしていたか、聞いた。

   「家にいたけど、この辺りは静かなものだったわ」という。

   デビーら正統派ユダヤ教徒は同じ地域に集まって暮らす。ユダヤ教徒全体ではトランプ氏を支持していない人たちも多いが、正統派ユダヤ教徒の9割はトランプ氏を支持しているとも言われ、デビーの夫も4人の娘たちも皆、トランプ氏に投票した。

   だから、その辺りはお通夜のようだったのかと思いきや、あの日は土曜日で、前夜からその夜まで安息日だったのだ。安息日には電気を使わないので、テレビも携帯電話も見ない。

「その夜、『大統領は決まったのかな?』『ああ、バイデンになったのね』。それで大統領選についての会話は終わりだったわ。選挙は生活のごく一部で、生きていくためにほかにいろいろやることがあるのよ。これも神の計画でしょう。ラビ(ユダヤ教聖職者)も、『新しい大統領を支持しよう』と呼びかけていたわ」

   あまりにあっさりしているので、拍子抜けしてしまった。

   中西部ミネソタ州に住む、トランプ支持者の知人アンドリューとも話した。

「今回の結果はとても残念だけど、票を数え直しても結果は変わらないと思う。最高裁に持ち込まれて、万が一、これが逆転したら、混乱が起きることを恐れて、共和党系の判事でも反対票を投じる人が出てくるだろう」

   4年前のトランプ大統領の就任式をテレビで一緒に見たロブ(フロリダ州在住)は、「日本に移住したいよ」と笑った。

「この結果には、とてもがっかりしているよ。いろいろな情報が飛び交っていて、正直、何を信じていいのか。不正が行われたかどうかは、わからない。ただ、トランプに投票した人たちのためにも、法的に闘うことは支持したい。
もし何らかの問題があったとしたら、それを正すことは、今回の結果に変わりはないとしても、これから先の大統領選のために必要なことだ。トランプが勝つ可能性は、かなり低いと思う。楽観できるのは、少なくとも上院は共和党が過半数を維持するのではないかということ。そうなれば、極左の意見は通りにくいだろうと思う」

「駄々をこねずに、敗北を認めたらいいのに」

   投票日の翌日、首都ワシントンで知り合ったキリスト教徒のもう一人のデビー(テキサス州ダラス在住)はその後、「不正がたくさん行われているし、メディアの報道はウソばかり。でも神は『盗まれたもの』をすべてを正してくれるわ」とメッセージを送ってきた。

   デビーについては、この連載の「『祭り』と『不正』で分断される大統領選」(11月7日公開)で触れた。

   別のトランプ支持者の知人は、大統領選の「不正」を報じる保守系のニュース報道のリンクを、何も言わずにひたすら私に送り続けてくる。

   トランプ支持者たちは、選挙前の数週間ほどニューヨーク市内でも大規模な集会を開いていたが、投票日以降、それらしき人をほとんど見かけなくなった。「バイデン勝利」報道の翌日、トランプタワー前に立ち、たった1人で警官支持の旗を振る男性に出会った。

   トランプ支持者の集会に一緒に行ったデビーは、「トランプは駄々をこねずに、敗北を認めたらいいのに。でも、彼はファイター(闘う人)だからね」と言った。

   しかし、トランプ支持者の中には、トランプ氏とともに勝利を手に入れるまで闘い続けようと燃える「ファイター」も少なくない。

   また、「メディアが大統領を決めるのか」「次々に既成事実を積み上げ、私たち国民が後戻りできないようにしている」などと今の流れに強く反発する人たちも多い。

   次回(11月15日公開予定)以降のこの連載では、なお「バイデン次期大統領」を認めない人たちの声を取り上げる。

++ 岡田光世プロフィール
おかだ・みつよ 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。米中西部で暮らした経験もある。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計40万部。2019年5月9日刊行のシリーズ第9弾「ニューヨークの魔法は終わらない」で、シリーズが完結。著書はほかに「アメリカの家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。