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「僕の世代で政治をまじめに語る人がいない」 トランプを応援した22歳大学生YouTuberの愛国心

<米大統領選とYouTuber・後編>

   2020年の米大統領選では、デマや陰謀論が数多く飛び交い、分断や対立が加速した。

   その舞台の一つとなったのが、動画共有サイト「ユーチューブ」。世間の関心の高まりを受け、日本では "政治系ユーチューバー"が次々と誕生し、中には視聴数を稼ぐためにプロパガンダ(政治宣伝)に加担するような投稿者もいた。

   トランプ前米大統領の支持者で、ユーチューブで数万人のチャンネル登録者数を持つインフルエンサーに、「情報戦」の裏側を聞いた(前編から続く)。

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大学生ユーチューバー、祖父きっかけに政治に興味

   大学生の佐倉匠太さん(仮名、22)は、2020年からユーチューブで政治の話題を発信している。

   チャンネル登録者数は当初伸び悩んだものの、作家の百田尚樹氏がツイッターで紹介してくれたことが起爆剤となり、現在は1万人を超える。

   始めたきっかけは、新型コロナウイルスの流行だった。「大学を卒業したらすぐに世界一周しようと計画していましたが、コロナですぐに世界一周するのは難しくなり、ステイホームで時間もあり、さらに今の保守言論界を見ていて(政治の話題は)若い人が伝えることで若い人に聞いてもらえると思いました。この3つが組み合わさったためです」

   なぜ「政治」をテーマに選んだのか。これには家庭環境が強く影響している。

「祖父母が華道や茶道などの免状を持っていて、日本文化に触れる機会の多い環境でした。中でも祖父は民族主義的な考えを持つ、一般的に極右と呼ばれる偏った思想を持っていて、冗談もありましたがそうした教えを受けました」
「しかし、学校では日本が戦争中に行ったことは非常に悪いことだと教えられ、いったいどちらが正しいのか、小学校の高学年くらいから中学にかけて悶々(もんもん)としていました。そこから自分なりに勉強したり、海外を旅したり、世界の様々な人と話すうちに、祖父が言っていることは大きく間違えていない、民族的に日本人が一番だというのはおかしいですが、日本人は最低な民族ではないし、それぞれの国の人たちは自分の国を愛し誇りを持っている。日本人もそうするべきだしそうすればいい。それで今のユーチューブの方針に行きつきました」

   自身は保守派を自認し、動画にもその思想が色濃くにじむ。視聴者の主な年齢層は40~70代で、「僕くらいの世代でこんなにまじめに政治を語る人がいないから、祖父母が孫を見るみたいな感じで応援してくださっている方が多いのかな」と分析している。

   ただし、佐倉さんが動画を真に届けたいユーザーは、政治に興味のない同世代の若者という。

「おそらくそちら(保守的な考えを持つ年配者)をターゲットにしたほうが再生回数は稼げると思います。ですが僕の目的はユーチューバーで成り上がりたいわけではなく、若い人たちに(日本の魅力や自分たちの置かれた状況を)伝えたいのが一番の目的です」
「今の保守言論界は自己満足で終わっています。内輪で盛り上がって、外部に伝えられていない。本気で日本の危機を伝えたければ、もっと違うやり方があるのではと中学時代から思っていて、今のやり方ではいけないとの思いから研究もしてきました。ユーチューブでどれだけ若者に伝えることができるかが勝負だと思っています」

虎ノ門ニュースは「極力毎日チェック」

   佐倉さんも例に漏れず、米大統領選関連の動画を多数投稿した。情報収集で最も役立ったメディアは、インターネット番組「虎ノ門ニュース」(DHCテレビ)だった。

「自分の動画でも言っていますが、何かをうのみにすることはないようにしています。誰か一人が言っていることが絶対に正しいというのはありません。メディアについても同じです。なので、すべて8割程度で見るのを心がけていますが、これまでの経験から大きく間違っているわけではないと考えているのが虎ノ門ニュースです。極力毎日チェックするようにしていました。大統領選前後で信頼度が少し下がることはありましたが」

   同時に、自らの経験や海外の友人からの情報も大切にし、「大統領選に関して無責任なことを言ったつもりはありません」と語気を強める。

   リベラル系も含めた大手メディアは「好んでは見ませんが、全く見ないわけではありません。真逆の意見も聞きたいので。そうでないと(大手メディアの報道姿勢と)同じになってしまうのでちょくちょく確認はします。特に大きな事件があった時の報道の仕方、新聞であれば図書館で朝刊を並べて書き方の違いを比べます。例えば朝日新聞であれば、自分が論破できるのか、論破できないならば正しい可能性もあるとの目線で見ています。少し趣味みたいなところはありますね」

   前編で話を聞いた政治ユーチューバーの須田利秋さん(仮名、57)は、メディアへの不信感を口にしていた。

   佐倉さんも「政治が関わるとなぜかイデオロギー的な偏りを感じます」と不満はあるものの、「基本的にはメディアは僕たちよりもプロだと思うのでその手腕で情報をまとめてくださっているという点ではメディアを信頼しています」と一定の評価をしている。

視聴者は情報リテラシーが不可欠

   影響力のある発信者として、ユーチューブで陰謀論が広まった状況をどう見ていたか。

「正直に言うと何が陰謀論だったかは明言したくありません。いまだに『トランプさんがここから巻き返す』と言う発信者もユーチューブ上にはいます。その人に『まだ言っているのか』とは思っていません。基本的に僕はトランプさんを応援したいので、勝ってくれるならそれに越したことはありません。そうした願いはありますが、それは受け手としてはありでも、確証なく発信してしまうのは良くない」
「なので、僕の動画では本当に事実として起こったことだけを扱いました。不明確な事柄に関してはわからないとの態度を貫いていたと自分では思っています。真偽がいまだにわからないものはわからないと言いたいです」

   仮に発信側が真偽の判断を保留したとしても、受け手が真に受けてしまう可能性もある。佐倉さんの動画のサムネイルでは「米民主主義崩壊 絶対に諦めない」「(バイデン氏は)勝利宣言取り消さなくて大丈夫???」などと扇情的なものが散見される。コメント欄でも感情的な書き込みが少なくない。

   この点については「トランプさんたちが言っていることをすべて陰謀論として片づけるのは違和感が拭えません。そうした思いを伝えるつもりでやっていました。それを早とちりして変に受け取ってしまった視聴者もいたかもしれません。それによってデマを拡散したユーチューバーと捉えられたとしたら仕方ないかなと思っています」との見解だ。

「すべての情報を100%精査するのはできないはずです。だから発信者としてのハードルというか、この情報を出していい、出してはいけないと基準は設けておくべきだと思っています。ハードルの決め方は発信者それぞれですし、よく言われていることですが視聴者にも責任はあると思っています。もちろん発信者が一番慎重でなければならないです」

上の世代の分断解消は不可能

   米大統領選では、米国はもちろん、日本国内でも分断と対立が深まった。なぜ異国の選挙が日本にまで大きな影響を与えたのか。

「まったく不正が絡まなかったとしても、バイデンさんかトランプさんかでいうと、特に日本の国防レベルで考えるとトランプさんが良いというのが元々あり、今回はそこが複雑になってしまっています。中国からの脅威に対するトランプさんの存在、不正選挙、ディープステート(影の政府)の3つの要因が複雑になって、バイデン支持者は元凶をトランプさんのせいにしてしまっているし、トランプ支持者はすべてを解決するのはトランプさんの勝利だと結びつけて神格化している部分がある」
「大統領選だけでなく今まで積み重なってきた要因が大統領選に重なってしまったことで複雑になり、善悪という二元論で多くの人たちが判断した結果、こんなことになってしまいました。バイデン支持派が必要以上にトランプ派を否定したことも責任の一端だと考えており、その意味ではすべてが悪いと思っています」

   最後に、分断を乗り越える方策を聞いた。

「少し無責任な発言になるかもしれないですが、今の分断された世界というのは僕から言わせれば全部上の世代がやっていることで、若者世代では左右のイデオロギー対立は今の日本において皆無に等しいです。上の世代のことはもうどうしようもないし知らんと。僕がどれだけ言っても、それを聞いてくれる人がいたなら世の中はもともとこんな風になっていないはずなので、僕が上の世代をあまり見ていないのはそういう意味もあります」
「僕らの世代かそれより下の世代で、僕の思っていること、愛国心ではなくてもせめて僕と同じように共感してくれる人が増えてきて欲しい。若者はその辺をトレンドにしやすいので、『政治を冷静に見ている俺かっこいいんだぜ』ブームみたいなのが、自分のチャンネルを機に起こって、そこに日本文化や日本の良さを同時にのっけていければ情報を冷静に見て日本を愛せる世代を作れるのではないかと思っています。今の分断をまとめるのはやりたくありません。正直できないと思っています。だから下を見ています」

(J-CASTニュース編集部 谷本陵)