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「入会はウェブ、解約は電話のみ」WSJ日本版サブスクに読者不満 規制進む「ダークパターン」

   「ダークパターン」と呼ばれるサイト設計が欧米で問題となっている。利用者をだましたり、望まない行動を導いたりするUI(ユーザーインターフェース、顧客との接点)、UX(ユーザーエクスペリエンス、ユーザー体験)を指し、米連邦取引委員会(FTC)が企業に警告する事態になっている。

   典型例は解約方法が煩雑なサブスクリプション(定額課金)サービスだ。米紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」(WSJ)の日本版も当てはまるとして、利用者から改善を求める声が相次いでいる。

  • WSJ日本版ツイッター
    WSJ日本版ツイッター
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「ゴキブリ捕獲機」

   ダークパターンは、UXの専門家である英のハリー・ブリグナル氏が提唱した。

   ブリグナル氏は「ウェブサイトやアプリで使われているトリックのことで、何かを購入したり登録したりするなど、意図しない行動を取らせるもの」と自身のサイトで説明し、12に分類している(画像参照)。下記はその一例だ。

・ゴキブリ捕獲機:ある状況(会員)に簡単になれるが、そこから抜け出す(解約)のが難しいことに後から気づく
・カートへの忍び込み:何かを購入しようとした時、意図しない別の商品がカートに入っている
・隠されたコスト:会計の最後で、配送料や税など想定外の費用が発生していることに気づく
・強制的継続:無料トライアルが終了した後、何の前触れもなくクレジットカードへの課金が始まる
ダークパターンの種類
ダークパターンの種類
ダークパターンの種類
ダークパターンの種類

   ダークパターンをめぐっては2021年1月、アマゾンの会員制サービス「Amazon Prime」の解約方法が複雑だとして、欧米の消費者団体が相次いで規制当局に苦情を申し立てた。

   3月には、米カリフォルニア州が消費者プライバシー法(CCPA)にダークパターンを禁止する規則を盛り込んだ。10月には、FTCがダークパターンを行う企業への取り締まりを強化すると発表した。「重要な契約条件を明確かつ目立つよう開示する」「十分に納得してもらったうえで契約する」「容易な解約手続きを提供する」の3点を守らない場合、法執行の対象となるとしている。

   日本でも、動画配信サービス「ディズニー+(プラス)」の退会方法がダークパターンに該当するとして問題となった(詳報:「ディズニープラス」会員から苦情 退会に十数ページかかる複雑さ...運営会社「改善に励む」)。

「いつでもキャンセル出来ます」→実は...

   J-CASTニュースが調べたところ、WSJ日本版に対し、利用者からダークパターンではないかとの苦情が複数寄せられていることが分かった。

   デジタルで展開するWSJ日本版は、日本の全国紙と同様、数千円のサブスクサービスを提供している。しかし、入会はウェブ上でできるものの、解約は電話でしかできない。

   入会ページでは「いつでもキャンセル出来ます」と喧伝するが、「よくある質問」欄を押下すると、「購読のキャンセルをご希望の方は下記フリーダイヤルにご連絡ください。メールでのキャンセルは受け付けておりませんのでご了承ください」と書かれている。電話は平日9時~17時30分のみ受け付ける。

入会ページ
入会ページ

   SNS上では利用した人から「解約ハードル高いらしいので気が重い」「解約しようかと方法を探したら電話でしか受け付けないという驚愕の事実が判明」「購読してたことありますけど、電話でもすんなりいかず面倒でした」といった書き込みが多数見つかり、不満を覚える生活者は一定数いるとみられる。「典型的なダークパターン」との指摘もあった。

実際に解約を試みると

   記者は11月29日昼、実際に解約を試みてみた。

   電話をかけると自動音声が流れ、希望の応対言語、対象サービスを番号で選ぶよう指示された。すると呼び出し音が一度鳴り、すぐに音楽に切り替わった。約1分40秒続き、なぜか一方的に切れてしまった。

   ふたたび電話をすると、ダイヤル後に「ただいま、すべてのオペレーターは他のお客様の対応をしていますので、次のオペレーターが空くまでお待ちください」とアナウンスされ、1分後に「おそれいりますが、カスタマーサービスの担当とお話しになるまで、しばらくお待ちください」と同様の報告があった。

   さらに1分後、「ただいま、日本語カスタマーサービスへの電話が大変混み合っております。英語をご希望の場合は1を、留守番電話にご用件をお残しになる場合は2をダイヤルしてください。そのほかの場合は、カスタマーサービスの担当が電話に出るまでしばらくお待ちください」と伝えられ、日本語を希望していたため何も操作しなかった。

   続けざまに「ただいま、すべてのオペレーターは他のお客様の対応をしていますので、次のオペレーターが空くまでお待ちください」とガイダンスが流れ、呼び出し音に切り替わるとなぜか英語を話す担当者が出た。記者の英語力では解約は叶わなかった。

   3度目では、すぐに日本語を話す担当者が対応してくれた。最初にメンバーシップID(12桁)または注文番号(15桁)を伝えるよう指示されたがいずれも把握しておらず、ホームページで確認できるとの案内に従った。

   次に、氏名と解約理由を伝え、ようやく解約できた。オペレーターに解約がウェブ上でできない理由を尋ねると、「弊社のポリシーとしては、契約の手続きはすべて電話で行っております」(発言ママ)と答えた。具体的には「お客様の個人情報の確認となるため、確認のためには電話でのご連絡が必要になります」とした。

運営会社の見解は

   WSJを発行するダウ・ジョーンズ社に29日、解約を電話に制限する理由などを問うと、WSJ日本版の編集長から12月2日に返事があり、以下の記事をもって回答とするとした。

   「Subscription Companies Rethink Irksome Cancelation Practices」(21年12月1日公開、編集部訳:サブスク企業はやっかいな解約方法を再考する)

記事ツイート
記事ツイート

   記事では、FTCがダークパターンを厳しく取り締まる中、オンラインで解約できる企業が増えていると紹介している。

   ダウ・ジョーンズ社のサブスク責任者のコメントも掲載されており、「『購読者の好みを管理するために、より柔軟なアプローチを提供する新しい方法』をテストしており、今後数ヶ月のうちにそれらを拡大する予定である」としている。

(J-CASTニュース編集部 谷本陵)