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「障害あるから仕事できない」決めつけないで 手足3本失った僕、障害者雇用を経て思う「心のバリアフリー」

   20歳の時に手足を3本失った山田千紘さん(30)は、障害者雇用制度による再就職で厳しい現実に直面した。その経験から「障害の有無だけで判断せず、もっといろんな可能性を見てもらいたい」と強く思う。

   そのためには「障害者と企業がお互いに情報を発信し、理解を深めていく」ことが大事だと考えている。障害者と会社を取り巻く「心のバリアフリー」について、山田さんが思いを語った。

   【連載】山田千紘の「プラスを数える」~手足3本失った僕が気づいたこと~ (この連載では、身体障害の当事者である山田千紘さんが社会や日常の中で気づいたことなどを、自身の視点から述べています。)

  • 左手1本でパソコン作業する山田千紘さん
    左手1本でパソコン作業する山田千紘さん
  • 左手1本でパソコン作業する山田千紘さん
  • 仕事中の山田千紘さん

インプットだけでなくアウトプットもやっていい

   障害者雇用の就職活動や、実際の仕事をしてきて強く思うのは、「障害の有無だけで判断せず、もっといろんな可能性を見てもらいたいな」ということです。

   できないことより、できることに目を向けてほしいなと思います。僕は物凄いエネルギーのある障害者とたくさん会ってきました。障害者を雇用するにあたり、「障害があるから仕事ができない」と最初から決めつけていないか。入り口を狭めていないか。もっと柔軟な対応ができればいいなと思います。

   そのためには、会社が障害者を知ろうとするのと同時に、僕たち障害者から会社に知ってもらおうとすることが大事です。たとえば、僕は今YouTubeを使って「手足が3本ないけどこういうことができる」と発信していますが、これも身体障害を知る1つの資料になるはずです。

   会社側としても、インプットだけでなくアウトプットもやっていいと思っています。たとえば、いろんな会社がウェブサイトなどで「うちではこういう人が働いている」と事例を紹介する。会社によっては従業員の資料を公開できるかは分からないけど、もし発信できれば、障害者にとっても障害者を雇用する会社にとっても、入社後のことを想像しやすくなります。

   障害者と企業がお互いに情報を発信し、理解を深めていくことで、心のバリアフリーが広がり、距離が縮まっていくのではないか、お互いに良い形での働き方ができるのではないかと思います。

会社には本当に良い人が多い

   僕自身もかつて、障害者雇用の待遇の低さにガッカリし、「自分は人と違うのか。障害者は大人しく暮らしていくしかないのか」と、社会復帰を諦めかけた経験があります。選択肢が少なすぎて「人生お先真っ暗じゃん」と思ったのも事実です。

   僕は当時、周囲の支えがあってもう一度奮起できたけど、同じ状況に直面して諦めてしまった障害者がいるかもしれません。「障害があるだけ」で不利益を被ってはいけないはずです。可能な限り、健常者も含めたみんなと同じ入り口で受け入れてくれる企業が増えてほしいなと願います。

   一方、僕が勤める会社には本当に良い人が多いです。同僚や先輩、上司の気遣いをすごく嬉しく思うことが多々あります。たとえば台風や強風で、まともに義足で歩いて帰れなくなった時。前の会社も今の会社も、僕の体を心配してくれて「山田、危ないから早く帰ったほうがいいよ」と言ってくれます。「車で送っていこうか」と言ってもらったことや、朝から大雨なら臨時で在宅勤務にさせてくれたこともあります。

   この連載でも以前、雪の日に上司に助けてもらった話をしましたが、こうした心遣いは本当にありがたいです。僕自身も恩返ししたいと思います。

   ダイバーシティの考えが本当の意味で社会に浸透するには、まず個人個人の意識が大事です。受け入れる姿勢が1人1人に広がっていくことで、きっと会社が変わり、社会が変わっていくと思います。そのためには僕たち障害者も、できること、できないことを理解してもらう努力が必要です。

   歩み寄りを個人個人が積み重ねていかないと、社会全体は変わらない。そう考えるから、僕はみんなに知ってもらうために発信を続けています。

(構成:J-CASTニュース編集部 青木正典)