J-CAST ニュース ビジネス & メディアウォッチ
閉じる

「抜けられてよかった」逮捕された元暴露系ユーチューバーの懺悔 栄光から転落までの5年

   2023年2月ごろから多発した「寿司テロ騒動」で、「暴露系インフルエンサー」が一躍注目された。

   特集記事の第一回では「内紛、釈明、活動休止...『暴露系インフルエンサー』に異変 『正義のヒーロー』の実像は?当事者が告白する」と題し、彼らの正体に迫った。

   第二回では、暴露系ユーチューバーとしてかつて人気だった、よりひと氏(29)に話を聞いた。名誉毀損などで有罪判決を受け、現在は「攻撃した人には申し訳ない」と過ちを認めている。活動が先鋭化するまでにどんな過程があったのか。

  • よりひと氏
    よりひと氏
  • よりひと氏

笑いを誘うつもりが「炎上系で数字が取れてしまった」

   よりひと氏は高校卒業後、理学療法士になるため専門学校に進んだ。しかし芸人に憧れ中退、福岡県内で職を転々とする日々を送る。食費と交際費がかさみ借金は200万円あった。

   転機は2014年、バラエティー番組「ダウンタウンDX」だった。6秒のショート動画アプリ「Vine」で注目の人物が出演しており、「動画を見てみたら自分の方が面白い」と感じてVineを始めた。それまでネットとの接点は全くなかったが、お笑いライブの集客に苦戦していたため、ユーザーが多く集まる場は魅力的に映った。

   太陽光発電の営業職をする傍ら、睡眠時間を削って「ネタ系」動画の投稿にいそしんだ。その後、ユーチューブも始め、徐々にファンを増やしていった。

よりひと氏のユーチューブ開設初期の動画
よりひと氏のユーチューブ開設初期の動画

   初の「大ヒット」は別の投稿者と口喧嘩をする動画だった。これまでと毛色の違う内容だったものの、想定外の100万再生。よりひと氏は「意識的には芸人だったが、物申す、炎上系で数字が取れてしまった」と振り返る。

   視聴数を意識し、人気のインフルエンサーを攻撃する動画を増やしていった。ユーチューバーのシバター氏がすでに同様のコンセプトで活動していたが、「若い人をターゲットにした物申す系は僕が初めてだった」。

動機は「つまらない人が売れているのが許せない」

   ユーチューブを始めて3か月で50万の広告収益を手にした。仕事の収入を超え、このタイミングで会社を辞めた。

   動画投稿者として成功したいとの野望はなかった。突き動かしたのは「つまらない人が売れているのが許せない」と一部のユーチューバーへの憎しみと、借金返済という切迫した事情だ。

   視聴者はほとんどが10代で、男性が6割と多かった。ファンとの交流会(オフ会)では不登校やニートの若者が目立ち、「『僕の動画を見るとストレス発散になる』とよく言われました」。

   人気のインフルエンサーを標的にするだけにバッシングは避けられなかったが、「お金が入ってくるから何も思わなかった」と意に介さなかった。

   収入は右肩上がりで増え、借金はすぐに完済した。ヒカル氏、東海オンエア、カジサック氏など人気ユーチューバーとのコラボも相次ぎ、「とんでもない勢い」で登録者数が増えていった。2018年には50万人を突破する。視聴者から「これを動画にしてほしい」と情報提供は絶えず、ネタにも困らなかった。

   この時期に、福岡から上京した。1人では手が回らなくなり、ユーチューバーのマネジメント会社と提携した。

   投稿のモチベーションとなっていた「憎しみ」はもうなかった。「コラボをしていくうちに、ユーチューバーも人間なんだなとわかった」ためで、次第に罪悪感を覚えるようになった。ストレスに弱い同業者は少なくなく、「エゴサーチ」をして自らの評判を気にしてしまう人が数多いた。

よりひと氏の過去のコラボ動画
よりひと氏の過去のコラボ動画

良心痛むも「仕事と思いやりは別にしよう」

   そこで、TikTokに目をつける。2018~19年頃は「めちゃくちゃ治安が悪かった」といい、「寿司テロ」騒動で問題となったような動画を投稿する一般人をターゲットに変えた。

   しかし、暗雲が立ち込める。ユーチューブが過激動画の規制を厳しくし、広告が配信されないケースが増えてきたためだ。違反警告でアカウント停止寸前までいったこともあった。

   このあたりから「何のためにやっているのか」迷いが生じる。やりたかったお笑い、ネタ系の動画も投稿していたが、全く見られなかった。オフ会を開くと100人以上が集まったが、有料のお笑いライブを開いてみると10人も来なかった。都市伝説、漫画考察など100回以上も路線変更を試みたこともあるも結実しなかった。

   よりひと氏は「有名人をネタにすると良心が痛み、一般人をネタにすると動画が規制で消さるようになり八方塞がりになった」と顧みる。

   心機一転するため別の投稿者とコンビを組んで活動を始めるが、トラブルなどでそれも上手くいかず解散した。

   そこで、闇金業者を主題にした人気漫画に触発されて「仕事と思いやりは別にしよう」と吹っ切れる。ふたたびインフルエンサーを取り上げるようになり、「動画が消されまくるうちに、規制のラインがわかってきた」と一般人も槍玉に挙げた。

俳優の伊勢谷友介氏が大麻取締法違反(所持)で起訴、釈放された際、突撃して批判を集めたこともあった(写真はPasya、アフロ)
俳優の伊勢谷友介氏が大麻取締法違反(所持)で起訴、釈放された際、突撃して批判を集めたこともあった(写真はPasya、アフロ)

   真偽不明の情報も勢いに任せて発信した。「基本的に裏取りはしなかった。しない方が見られたので。話題になったら本人が『裏取り』すればラッキーだなと考えていた」。いざこざも絶えず、裏では当事者に謝罪やフォローをしていたと明かす。

逮捕ですべてを失う

   それでも「人の名前を使ってあら探しや晒したりしてお金を稼ぐのはストレスで...過食になったり眠れなくなったりうつのような状態が続いた」。

   よりひと氏のファンが動画に刺激され、取り上げた人物を誹謗中傷することもあり「それも本当に嫌だった」と打ち明ける。

   再生数を失えば実入りがなくなる。過去に路線変更の失敗体験もある。暴露はやめたくてもやめられず、「逃げられなかった」という。

   逮捕は自縄自縛のさなかだった。インフルエンサーのいじめ疑惑を執拗に話題にし、21年10月に名誉棄損などで逮捕、2022年3月に懲役2年6か月、執行猶予4年の有罪判決を受けた。

   このインフルエンサーの所属する事務所からは事前に警告があったが、よりひと氏が弁護士に確認したところ「民事になるから、裁判してもいいなら(追及を)続けてもいいんじゃない。ただ1年くらいかかるし、出費も30万くらい」との旨の助言を受けた。費用対効果を考えて投稿を止めなかった結果、民事ではなく刑事事件として起訴され、有罪が確定した。すべてを失い、裁判の過程で1500万円の借金を背負った。

有罪判決を報告する動画(右側は弁護士、訴訟の代理人弁護士は別の人物)
有罪判決を報告する動画(右側は弁護士、訴訟の代理人弁護士は別の人物)

   有罪判決から1年がたった現在は、TikTokを中心に活動している。ライブ配信のギフト(投げ銭)や動画のコンサルティングで生計を立て、「自分のやりたいことを今はできている」と話す。

   当時を振り返り、「攻撃した人には申し訳ない」と謝罪する。逮捕されていなければ暴露系を続けていたか問うと、「続けていたでしょうけど、ガーシーさんも逮捕されてもう時代じゃないのかな」「(プラットフォームの)規制が今は厳しく、どのみち辞めざるをえなかったでしょうね」との見解だ。

   暴露系インフルエンサーは「いじめていい人を、『この人いじめていいですよ』と言っているだけ。僕もその意識でしたが、いじめと変わらない」と指摘し、「抜けられてよかった。超危ない橋なので」と漏らす。

   こうした存在への風当たりが強まることで、資金源となっている広告主が撤退したり、これまで泣き寝入りしていた被害者の法的措置が増加したりして「今後淘汰されるんじゃないか」と予想している。

   【予告】連載の第三回は、晒された側の視点で暴露系インフルエンサーを論じます。5月6日10時の公開を予定しています。