読むべき本、見逃していない?

「知性の叛乱」は今も続いている

  • 書名 近代日本一五〇年
  • サブタイトル科学技術総力戦体制の破綻
  • 監修・編集・著者名山本義隆 著
  • 出版社名岩波書店
  • 出版年月日2018年1月20日
  • 定価本体940円+税
  • 判型・ページ数新書・320ページ
  • ISBN9784004316954

 著者の山本義隆氏と、出版社の岩波書店の組み合わせを意外に思う人がいるかもしれない。片やかつては東大全共闘議長として「知性の叛乱」を叫び、一方は出版界の「知性」の総本山。だからこそ本書『近代日本一五〇年――科学技術総力戦体制の破綻』は興味深いというべきか。

 明治維新150年ということで、それに関した本が次々と出版されている。しかしながら、著者が異色なだけに、類書の中でも異彩を放つ。

『磁力と重力の発見』で復活

 山本氏は伝説的な人物だ。幼少時のときから、いわゆる「神童」だったといわれる。東大理系の博士課程に在学中は、京都大の湯川秀樹研究室にも出入りしていたという話を聞いたことがある。将来はノーベル賞を取るかもしれないと期待されていたにもかかわらず、闘争に深入りし、世界的な研究者の道から外れてしまい、駿台予備校でコツコツと物理を教えていた。そのテキストの内容があまりにスゴすぎて、いわゆる受験参考書の域を超えている。普通の受験生はまったく歯が立たない。しかし、「東大理3レベル」の受験生は「これこそ自分たちにふさわしい」と大絶賛、ロングセラーにもかかわらず評価が極端に分かれているという風評も耳にしたことがある。

 幕末にたとえれば、いわば脱藩者の私塾のような予備校というマイナーな場所で長く在野生活を続け、いくつかの科学翻訳書を出すぐらいでメディアに登場することはほとんどなかった。ところが2003年、『磁力と重力の発見』全3巻(みすず書房)を出版したところ、第1回パピルス賞、第57回毎日出版文化賞、第30回大佛次郎賞を次々と受賞して再びスポットが当たる。本書はそうして「復活」した山本氏が、「岩波新書」という、やはり在野の知の総本山を舞台に展開する「150年史」だ。

ペリーの献上品

 冒頭から、なかなか刺激的だ。山本氏はペリー来航、いわゆる「黒船」の「手土産」に注目する。ペリーたちの一行が1854年、二度目に来日したとき、幕府への献上品は「蒸気機関車の模型」と「有線電信の装置一式」だった。「それは当時の最先端ハイテク機器であり、ほかでもない西欧近代におけるエネルギー革命の直接的な産物であった」。黒船によって科学技術や産業文明に関する鎖国もこじ開けられ、一気に「近代化」が始まったのだ。

 この二つの手土産は何を意味するか。「機械における蒸気動力の使用は・・・それまでは暖房や調理にしか使われていなかった熱が、物を駆動し、物を持ち上げる能力を有することを示したのであり、そのことによって、熱と動力に汎通的なメタ・レベルの能力としてのエネルギー概念の発見に導くものであった。そのエネルギー概念は、さらに電気が動力のみならず照明や暖房や通信の能力を持つことの発見によって確立されたのである」「したがって蒸気と電気の使用は、動力革命をこえるエネルギー革命であり、こうして人類は、19世紀中期にその意味でのエネルギー革命を達成したのである」

一貫して経済成長を追求

 ペリーの献上品に注目し、そこから「人類のエネルギー革命」まで敷衍する。目の前の現象の奥底に潜む構造的、本質的な要因を抽出し開陳する能力は、やはり「物理の俊才」に違いない。加えて、電気、熱、エネルギーなどを串刺しにしてひとまとめに論じる豪胆な腕力も、科学全般に通じているという自信の表れだろう。工学部系の研究者なら、それぞれの専門分野でチマチマたどることになる「150年史」が、山本氏の手にかかると、快刀乱麻のごとく切り口も鮮やかに、根っこでつながっていることが提示される。政治学者らがこだわる「敗戦」も山本氏にかかれば、簡単に突破される。

 「この日本近現代史について、明治からアジア・太平洋戦争における敗戦までの大日本帝国憲法の時代と、戦後の日本国憲法の時代に分けるのが普通のようだ。しかし日本は、明治期も戦前も戦後も、列強主義・大国主義ナショナリズムに突き動かされて、エネルギー革命と科学技術の進歩に支えられた経済成長を追求してきたのであり、その意味では一貫している」

 こうして山本氏は、本書において、「欧米との出会い」「資本主義への歩み」「帝国主義と科学」と時代を追い、最終章の「原子力をめぐって」にたどりつく。紙幅の関係で、あっさりした記述も少なくないが、全体を貫いているのは副題にある「科学技術総力戦体制の破綻」という視点だ。そして東大闘争こそが、その「科学技術総力戦」に「ノン」を突き付け、その負の本質を摘出したのだという著者の自負はゆるぎない。「知性の叛乱」は今も続いているのである。

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