読むべき本、見逃していない?

SFを現実に――テスラ創業者が挑む宇宙と地下交通

  • 書名 イーロン・マスク 世界をつくり変える男
  • 監修・編集・著者名竹内一正 著
  • 出版社名ダイヤモンド社
  • 出版年月日2018年1月25日
  • 定価本体1400円+税
  • 判型・ページ数B6判・222ページ
  • ISBN9784478102848

 電気自動車(EV)などの製造・販売で知られる米テスラを設立し、最高経営責任者(CEO)を務めるイーロン・マスク氏は、米国内でばかりか世界で最も注目される起業家という。手がけた事業を次々に成功させ、いま取り組んでいるのは、電気自動車のほか「火星移住計画」や、リニアより速い次世代交通システムだ。

 本書「イーロン・マスク 世界をつくり変える男」(ダイヤモンド社)は、米企業での勤務経験もある経営コンサルタントの著者竹内一正氏が、マスク氏の規格外のスケールに感心し、彼が何者であるか「正体」を明かしたもの。日本ではあまり知られていない同氏が描く「奇想天外」な未来は、SF小説より奇なり―なのだ。

ピストン輸送で火星移住計画

 マスク氏はテスラ設立の前年の2002年、宇宙ロケット開発会社「スペースX」を起業。「人類を火星に移住させる」とぶち上げた。ロケット開発にしても、移住にしても国家レベルのプロジェクトであり、ベンチャー企業が簡単にできるものではない。環境破壊や人口の爆発的増加などの問題の解決策として地球外への避難を考えたというが、着手すらできないだろうとみられていた。

 マスク氏の計画はまず「ロケットの開発コストを従来の100分の1」に抑え、また「ロケットを何度も再利用する」というもの。宇宙産業の常識からすれば実現不可能であり、話が大きすぎて真に受ける人はほとんどいなかった。

 ところが、スペースX設立からわずか6年で商業用ロケット「ファルコン1」の打ち上げに成功。民間主導で新規開発されたものとしては世界初の例だった。そして2010年には、ファルコン1の9倍の推進力をもつ「ファルコン9」の打ち上げにも成功。100億円を超えるとされる同規模ロケットの打ち上げ価格より3割以上安くするなど低コスト化が図られた。12年にはファルコン9によって打ち上げられた宇宙船「ドラゴン」が民間機として初めて国際宇宙ステーションとドッキングを成功させるなど、着々と常識破りを積み重ねている。

 さらに15年には打ち上げたファルコン9の1段目ロケットを着陸させることに成功。17年6月には3日で2回の打ち上げを行い、並行して1段目ロケットの再利用とその着陸と回収を実現させた。

 著者は、アップルのスティーブ・ジョブズ氏、アマゾンのジェフ・ベゾス氏、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ氏ら「世界を一変させたビジネスリーダー」たちを引き合いに出し、マスク氏の前には彼らの偉業も霞んでしまうほどだと述べる。日本ではEV「テスラ」の生みの親として知られる程度で、それ以前の事業歴や、テスラと並行して取り組む宇宙事業や新交通システム、エネルギー事業について知られていないこともあり、ジョブズ氏やベゾス氏らに勝るとも劣らない存在という指摘は多くの読者には意外だろう。

ペイパルをebayに売却し億万長者に

 マスク氏は1971年南アフリカ生まれ、89年に母親の母国であるカナダに移住。同国で大学入学後、米ペンシルベニア大学に編入し同大ウォートン校で経済学の、教養学部で物理学の学位を取得した。95年、名門の米スタンフォード大学大学院で応用物理学と物質科学の博士課程をスタートしたが2日後に退学し、企業家の道を選んだという。

 ソフトウエア会社のZip2(ジップツー)を共同創業したが99年にコンパック(後にヒューレット・パッカードに吸収合併)に売却。マスク氏は2200万ドル(1ドル=105円換算で約23億1000万円)を手にした。同じ年にオンライン決済のペイパルの前身X.com(エックス・ドットコム)を設立。2000年に別の会社と統合してペイパルとなり、02年にネットオークションのebay(イーベイ)に売却。このペイパルの売却ではマスク氏は約1億7000万ドル(同約178億5000万円)を得て、30歳そこそこで三桁の億万長者になった。

 これを資金にスペースXやテスラを設立。また太陽光パネルの設置会社を買収してテスラの子会社にし、人工知能(AI)の研究団体を立ち上げ、16年にはAIに関連した技術開発企業ニューラリンクを共同設立している。同年にはさらに、トンネル掘削会社、ボーリングカンパニー設立。同社が手掛けているのは、自動車を最高時速200キロで移動させる地下トンネルの建設だ。

 その移動システムの仕組みはこうだ。道路の路肩に台車が用意された専用パーキングスペースを設け、ここに駐車した自動車は台車ごと地下に運ばれる。地下にはトンネル網が整備され自動車は台車に載ったまま最高時速200キロで目的地に運ばれるというもの。すでにカリフォルニア州で地下に試験走行用のコースを建設するなど具体的に動き出しているという。

 マスク氏は高速移動についてはほかに、最高速度が時速1200キロを超す次世代交通システムハイパーループ構想を13年に発表。減圧されたチューブ内に高速で列車を走らせるというもので、16年に公開テストを実施している。約600キロ離れたロサンゼルス-サンフランシスコ間を結ぶ路線を想定。航空機で約1時間20分かかる両都市間を30分で行き来できるようになるという。

 マスク氏はいずれも遠大なプロジェクトを、言うだけではなく具体的に計画を始動させている。スタンフォードの大学院を2日で見切りをつけ、起業家を目指してすぐさま結果を出してみせた。その実績を突き付けられれば、SFの世界だけで可能と思われた宇宙事業、新交通システムを目撃、あるいは体験できるかもしれないと期待が高まってくる。

オンライン書店で詳しく見る(購入もできます)

デイリーBOOKウォッチの一覧

一覧をみる

アクセスランキング

DAILY
WEEKLY
もっと見る

当サイトご覧の皆様!

おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!

出版社の皆様!

御社の書籍も、
BOOKウォッチに
掲載してみませんか?

sub