読むべき本、見逃していない?

田中金脈研究「オレがやらせた」という男

  • 書名 田中角栄研究全記録(上)
  • サブタイトル金脈研究・執念の500日
  • 監修・編集・著者名立花隆 著
  • 出版社名講談社
  • 出版年月日1982年8月 9日
  • 定価本体695円+税
  • 判型・ページ数文庫・435ページ
  • ISBN9784061341685
BOOKウォッチ編集部コメント

 2年ほど前にとつぜん田中角栄ブームが起きて、関連本が何冊も出た。石原慎太郎さんの『天才』がミリオンセラーになったのが大きかった。名言集なども売れた。平成の閉塞感を打ち破る何かを求めた人が多かったのだろう。

 実は今年が生誕100年なのだが、意外なほど盛り上がりがない。あのときの熱気はどこへやら。この5月4日は誕生日なのだが、静かだ。

坂道を転がるきっかっけに

 多数の角栄本の中で、1冊だけ取り上げるとしたら、やはり立花隆さんの『田中角栄研究全記録』(講談社)ということになるだろう。今太閤として持ち上げられ、総理大臣となって得意の絶頂にあった田中角栄氏が、坂道を転がるきっかっけになったからだ。

 本書は「全記録」と銘打たれている。上巻は「金脈研究・執念の500日」、下巻は「ロッキード事件から田中逮捕まで」と副題が付いている。

 上巻では「文藝春秋」1974(昭和49)年11月号に掲載された「田中角栄研究――その金脈と人脈」がメーン。加えて「『田中角栄研究』の内幕」「『田中角栄金脈の結着』に異議あり」「新星企業"金脈商法"の疑惑をついに追い詰めた」「"田中金脈"裁判傍聴記」などが収められている。下巻はロッキード事件関連のほか、「新・田中角栄研究」などもある。上下合わせて900ページ近い。

 1918年に生まれた田中氏は、家庭の事情もあって中学進学を断念、上京。大変な苦労の末、土建業で成功して政界に躍り出る。72年、総理大臣になり、世論調査の支持率は70%を超えたが、74年10月初めに「文藝春秋」の「田中角栄研究」が出て、12月に総辞職。76年2月にロッキード事件が発覚、7月逮捕。なおも「闇将軍」として君臨するが、85年、脳梗塞で倒れて93年死去した。

 経歴からも分かるように、人生の「光と影」、「栄光と屈辱」、「得意と失意」をとことん味わった。

「チーム立花隆」支えた100人の名前

 立花さんが鋭く指摘したのは、田中氏の「錬金術」だった。田中氏は当時「日本列島改造論」を推進していたが、関連企業やぺーパーカンパニーを使った「土地ころがし」の実態を暴き、角栄神話がぐらつく。その後のロッキード事件が追い打ちをかけた。盤石を誇った集票組織「越山会」も今は昔、新たな盟主を擁することなく解散した。

 石原慎太郎さんの『天才』と、立花隆さんの『田中金脈研究』。その内容の大きな違いについては、J-CASTが「田中角栄元首相は『名誉回復』! 本当か?」というタイトルで掲載している。「真実」はどちらにあるのか。本当に「天才」なのか。なぜ人気があるのか・・・。

 本書が興味深いのは、関係した編集者や取材記者の全氏名が掲載されていること。延べ100人以上もいて壮観だ。もともとは月刊文藝春秋でスタートしたが、その後、文春側の腰が引けたこともあり、発表の舞台を「月刊現代」など他の複数の媒体に移した。そんなこともあって、「全記録」も講談社からの刊行になっている。

腕利きが集められた

 本書はいくつかの意味で画期的だったといえる。雑誌の論文が首相を引きずりおろしたというだけではない。雑誌の取材で異例の大きな取材班を組んだ。いわゆる「チーム取材」。上述のメンバー表をながめると、のちにノンフィクション作家として大宅賞などを受賞したり、数々の単行本を書いて有名になったりした人物が何人も出ている。それだけ腕利きが集められていたのだろう。

 この取材で、毎日のように登記所に通って謄本を取ったというメンバーの一人から話を聞いたことがある。同じように謄本を取る人物がいるので、それとなく探ったら、「東京地検」の人だったそうだ。謄本を取る、という作業がマスコミの基礎取材の一つとして定着したのも、この「角栄研究」からではないか。

 「あとがき」で立花さんが面白いことを書いている。この取材班に名前が入っていないのに、「あれはオレがやった」「オレがやらせた」と吹聴している人物が、「私の知る限りでも少なくとも一人以上いる」。あるいは、「あれは福田派のしかけによるものだ」などと触れ回っている人物もいたそうだ。立花さんは明確に否定している。「フェイク」を語る人物は、いつの時代にもいるものだと、笑ってしまった。

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