読むべき本、見逃していない?

「中野学校というのはね、恐ろしい学校なんですよ」

  • 書名 僕は少年ゲリラ兵だった
  • サブタイトル陸軍中野学校が作った沖縄秘密部隊
  • 監修・編集・著者名NHKスペシャル取材班 (著)
  • 出版社名新潮社
  • 出版年月日2016年7月15日
  • 定価本体1300円+税
  • 判型・ページ数四六判・224ページ
  • ISBN9784104056071
BOOKウォッチ編集部コメント

 陸軍中野学校といえば、小野田寛郎さんを思い出す人が多いだろう。中野学校出身。戦争を終わった後も1974年までフィリピンのルパング島でゲリラ戦を遂行した、という「美談」で語られている。帝国軍人の鑑というわけだ。

 もっとも、その美談はのちに少々揺らぐ。小野田さんの「手記」のゴーストライターを務めた人が「懺悔の書」を出したからだ。「手記」では事実を書けず、後ろめたかった、小野田さんは現地住民30人を殺しており、島民の復讐を恐れてジャングルから出るに出られなかったのでは、と書いている。

日本軍の二大秘密組織

 真実はいずれにあるのか。ともあれ中野学校は、731部隊の通称で知られる関東軍防疫給水部本部とともに、戦前の日本軍の二大秘密組織だったとされる。したがって、今もなお実像が定かではないところがある。

 本書『僕は少年ゲリラ兵だった――陸軍中野学校が作った沖縄秘密部隊』(新潮社)は、そうした中野学校の活動ぶりを、沖縄という現場をもとに徹底的に追究したものだ。2015年にNHKスペシャルが放送した「あの日、僕らは戦場で~少年兵の告白~」という番組の取材班が、改めて単行本として書きおろした。

 戦況が悪化した1944年9月以降、42人の中野学校卒業生が沖縄入りする。「沖縄が玉砕した後も、遊撃戦を続けよ」という過酷な任務を指示された。本島に配属された卒業生は青年学校などに通う14~17歳の約1000人を「護郷隊」として組織し、米軍とのゲリラ戦に投入、このうち162人が亡くなった。生き残った人の多くも深い「心の傷」を背負うことになった。

 BOOKウォッチではすでに、この番組制作に協力した研究者、名護市の市史編さん係嘱託職員の川満彰さんによる近著『陸軍中野学校と沖縄戦』(吉川弘文館)を紹介ずみだ。

 二つの本は、内容的に重なるところもあるが、Nスペ版は、ジャーナリストによるノンフィクション。川満版は学究によるアカデミックな本という性格の違いがある。なかでもNスペ版の本書では、取材を拒否しようとする中野学校関係者へのねちっこい肉迫ぶりが光る。その結果、敗戦で風のごとく沖縄から消えたはずの中野学校関係者の戦後の足取りなどがあぶりだされている。

「中野は語らず」の掟

 もちろん取材は簡単ではなかった。まず中野学校の掟がある。「中野は語らず」。中野学校の卒業生は、何もしゃべってはならないという掟だ。しかも、ほとんどが鬼籍に入っている。

 例えば沖縄の離島に教師の名目で派遣され、住民のゲリラ工作を担当していた卒業生がいる。現地の女性との間に子供も作るほど溶け込んだが、敗戦でいつのまにか島から消えた。偽名で活動していたから、探そうにも探せない。戦友会にも顔を出していない。取材班は追い続け、この人物が戦後、関西に住み、すでに亡くなっていることをつかむ。師範学校から中野学校に送り込まれたので、本土に戻ったあとは、教職に就き、最後は校長になっていた。戦後結婚した妻や子供にも「中野」の話は一切していなかった。

 取材班は、肉声が残るテープを入手する。校長先生としての朝礼の挨拶だ。「明日から夏休みに入ります。そこでお話しておきたいことは・・・命を大事にするということです。命を落とす、命を亡くす、これほどお父さん、お母さん、先生方が悲しむことはありません」。取材班は、さらにこの男性が、師範学校の卒業30周年アルバムに寄せた一文を入手した。「軍隊生活、中でも沖縄での敗戦や収容生活が強烈すぎて...この30年は虚仮(こけ)の半生だったと悔やまれます」とつづられていた。

 教員を志していたのに、中野学校に入れられ、沖縄で秘密裏の工作活動。そこから帰還し、過去を隠しての教員生活。「虚仮」という言葉に、仮面を重ねることを強いられた人生の苦渋がにじむ。

腹を括って語りだした

 本書ではさらに、本土決戦に備えた中野学校の工作も明かされる。約500人の卒業生が全国に散り、ゲリラ戦の準備をしていた。生き残る関係者ら約50人に接触を試みる。壁は厚かったが、腹をくくった何人かと会えた。

 そのうちの一人は、「中野学校というのはね、恐ろしい学校なんですよ」と語る。取材時は92歳、京都大出身のインテリ。当時の教本をめくり、あるページで目を止めた。「致死量」と書いてある。「どれだけの薬を使えば、人を殺せるかという研究です。サリン事件みたいなことだよ。私ら、謀略部隊だから、悪いこと、何でも許されるという教育だから」。

 Nスペ取材班が、中野学校は何を求めていたのかと聞く。「国のために、死ね。それだけだ」。では、国は中野学校に何を求めたのかと追い打ちをかけると、「要するに、国のために悪いことをやってくれ、ということかねえ――。国のため」。そしてこう付け加えた「国もいい加減なもんだね。国民を台無しにする...」。

 中野学校の卒業生は2500人もいたというから、いつどこで何をしていたか、それぞれによって体験は違うだろう。しかしながら、教本が伝える教えや、本書で何人かが語った証言は、なかなか貴重だ。少なくとも「美談」からは遠いと感じた。

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