読むべき本、見逃していない?

藤井ブームの陰で、うつ病と闘う有名棋士がいた!

  • 書名 うつ病九段
  • サブタイトルプロ棋士が将棋を失くした一年間
  • 監修・編集・著者名先崎学 著
  • 出版社名文藝春秋
  • 出版年月日2018年7月15日
  • 定価本体1250円+税
  • 判型・ページ数四六判・190ページ
  • ISBN9784163908939
BOOKウォッチ編集部コメント

 将棋の先崎学九段と言えば、「週刊文春」などに連載をもつ「将棋界の広報マン」的な存在の棋士として知られた。小学5年のときに米長邦雄永世棋聖門下で奨励会入会、17歳でプロデビュー。酒とギャンブルをよくする豪快な性格で、ファンに愛されてきた。「そういえば最近あまり名前を見ないな」と思っていたら、本書『うつ病九段』(文藝春秋)の刊行を知り、驚いた。以前、日本将棋連盟に出入りし、元気なころの先崎さんを知っている評者にとって、驚愕の出来事。発症から回復までの日々を本人がつづった手記だ。

 先崎さんが体調を崩したのは2017年6月23日、前日が47回目の誕生日だった。疲れが取れず、頭が重い状態が数日続いた。「不正ソフト使用疑惑事件」の収拾や自身がかかわった将棋がテーマの映画「3月のライオン」の取材対応などに追われ、多忙な毎日が続いていたという。

 7月に入ると、対局でも集中力がなくなり、どれも無残な惨敗。不眠、自殺念慮の症状もみられ、7月26日に精神科医の兄のすすめもあり、慶應大学病院精神神経科に入院した。

 本書は、このあとの日々を淡々とつづっている。病院の雑誌コーナーで、かつて12年も連載した「週刊文春」を買ったが、1分も読むことが出来なかったという。

灰色の日々も精彩をもって描く

 その頃、世間は中学生棋士、藤井聡太四段(当時)の快進撃に湧いていた。入院患者が、先崎さんが棋士とは知らずに将棋の話をする。「藤井ブーム」が起きていることを知らない先崎さんは「世界が反転して裏側の国にいるような衝撃だった」と書いている。

 9月ころ、詰将棋の問題を解こうとしたが、アマチュア向けの7手詰が解けず、「死ぬより辛かった」という。食事も喉を通らなかったが、「うつ病になって以来、ひとつの物事にこれほどまでに集中したのははじめてだということ」に気がついたそうだ。

 小学生のころは瞬時に解けたレベルの5手詰からはじめ、解けるようになった。次は若手と将棋を指した。そして徐々に良くなっていく。「将棋でうつを直した」と記している。

 だが、すんなりと回復したわけではなかった。何より勝負に大事な「感性」が戻らなかった。直感を重んじる先崎さんにとっては大きな問題だった。そこで、精神科医の兄のすすめもあり、2018年の1月13日から文章を書き始めた。だから本書は、うつ病回復期末期の患者がリハビリを兼ねてリアルタイムで書いた本ということになる。そして6月、先崎さんは順位戦で復帰を果たした。

 最後のページに「うつ病を、ひたすら将棋を指すことで切り抜けた」と先崎さんは書いている。欣快の至りだが、うつ病が高じて命を失う人が少なくないのも事実である。著者はプロ棋士という厳しい勝負の世界に身を置き、盤上で生死を賭けた闘いを日々繰り返している。だから一般の人の治療にどれだけ参考になるかは分からないが、一種異様な迫力に満ちている本書から何かを感じ取ってもらえばいいと思う。長年、週刊誌のコラムを連載していた著者の筆力は、灰色の日々をも精彩をもって描いている。    

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