読むべき本、見逃していない?

感覚の研ぎ澄まされた世界を描く短篇集

  • 書名 ぼくらは夜にしか会わなかった
  • 監修・編集・著者名市川 拓司 著
  • 出版社名株式会社祥伝社
  • 出版年月日2014年7月30日
  • 定価本体670円+税
  • 判型・ページ数文庫判・369ページ
  • ISBN9784396340476

 本書『ぼくらは夜にしか会わなかった』(祥伝社)は、市川拓司の短篇集。11年に祥伝社から単行本として刊行され、14年に文庫化された。「白い家」「スワンボードのシンドバッド」「ぼくらは夜にしか会わなかった」「花の呟き」「夜の燕」「いまひとたび、あの微笑みに」の6作品を収録。

 市川拓司と言えば、ミリオンセラーとなった『いま、会いにゆきます』(小学館、03年)がよく知られている。夫と息子と、彼らの元に戻ってきた死んだはずの妻の物語で、中村獅童・竹内結子出演で04年に映画化された。

 また、16年に『ぼくが発達障害だからできたこと』(朝日新聞出版)を刊行。自身が、発達障害の1つで知的障害を伴わない「アスペルガー症候群」(「自閉症スペクトラム」と総称)であることを公表している。作家と発達障害という、一見結びつけづらい側面を併せ持つからか、本書を読み始めて間もなく、独特な世界に入り込んでいった。

 表題作「ぼくらは夜にしか会わなかった」は、15歳のぼくとクラスメイトの女子・早川の物語。早川は、赤道儀室で女の幽霊を見たと言う。ぼくは早川を引き寄せるために嘘をつき、自分も植物園で男の幽霊を見たと言う。以来2人は、夜にたびたび落ち合うようになった。

 「夜の暗闇の中のほうが自由でいられる。昼間はなにもかもがあからさまで過剰だった」「彼女の固く凝った心を融かしていって、世界には気を許してもいい場所があるんだってことを教えてあげたい」。本来は人と深く関わらないぼくが、クラスでも家庭でも傷ついている早川を好きになった。ぼくの気持ちは早川に届くのか、そして女の幽霊の正体は――。

 「花の呟き」は、27歳の蓉子と、植物園で出会った男の物語。男はひどく痩せていて、一心に絵を描いていた。恋をしたことのない蓉子だが、その男に一目で惹かれ、彼の後をつけていった。

 「同じ匂いを持つ誰かと出逢えば、そのときはきっと気付くはず。...それは魂に刻まれた符牒なのだから」。行く当てがないと言う彼を、蓉子は大胆にも自宅に招き入れる。彼は、自分が以前住んでいた村も植物園も「花たちの呟き」に満ちていて、それを聞き、故郷の風景を描いているのだと言う。蓉子は「彼の無垢な魂を守りたい」「彼の故郷になれたら」と願う。どこか掴みどころのない男と、蓉子は心を通わせられるのか――。

 作品全体を通してベールがかかっていて、淡く、触れようとしても触れられない感覚になる。繊細で、儚く、瑞々しい、独特な世界が広がっている。あまり体験したことのない読後感を味わった。本書の解説で作家・小手鞠るいは、著者を「詩人」と表現している。

 著者の市川拓司は、1962年東京都生まれ。インターネット上で発表した小説が注目され、2002年『Separation』(アルファポリス)でデビュー。他の著書に『そのときは彼によろしく』(小学館)、『私小説』(朝日新聞出版)などがある。

BOOKウォッチ編集部 Yukako)

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