読むべき本、見逃していない?

新宿二丁目のごみ袋から「見たくない物」が出てきた

  • 書名 ごみ収集という仕事
  • サブタイトル清掃車に乗って考えた地方自治
  • 監修・編集・著者名藤井 誠一郎 著
  • 出版社名コモンズ
  • 出版年月日2018年6月 6日
  • 定価本体2200円+税
  • 判型・ページ数四六判・261ページ
  • ISBN9784861871504
BOOKウォッチ編集部コメント

 何かをちょっと体験する。そして記事にする。マスコミ関係者がよくやる手口だ。本書『ごみ収集という仕事―― 清掃車に乗って考えた地方自治』(コモンズ刊)もパターンとしては同じだ。しかし違うところもある。著者の藤井誠一郎さんはマスコミ人ではなく、学者。大東文化大法学部の准教授だ。さらに体験期間がハンパではない。何と9カ月間も収集作業をやっていたというのだ。

学者が9か月もごみ収集をしていた

 藤井先生が清掃服姿に変身して、収集車に乗って走り回っていたのは東京・新宿の歌舞伎町や新宿二丁目だ。歌舞伎町は日本一の歓楽街。馳星周さんの小説『不夜城』でも知られる。日本人だけでなく、中国や韓国、台湾など多数の国の人が入り乱れる。新宿二丁目は通称「二丁目」、ゲイの聖地ともいわれる。どうしてそんなところで体験収集を? ごみ出しのルールがどのていど徹底しているのか。

 藤井さんは1970年生まれ。専門は地方自治。大学は違うが、ごみ収集の現場に飛び込んで研究した早稲田大学の故・寄本勝美教授の仕事に影響を受けた。「現場主義」。その精神を藤井さんも受け継ぎ、人づてに場所を探し、新宿区の清掃部門で働くことになった。

 もちろん学者だからテーマが先にある。「自治体職員と地方自治の活性化――名もなき職員の大きな貢献――」。藤井さんも、そうした「名もなき職員」になりきって、現場を体験することにしたのだ。当初は2016年の6月から2か月の予定だったが、「お客様待遇」に飽きたらず延長をお願いし、結局9か月間も働くことになった。

 夏の暑い日から冬の寒い日まで。ごみの量がピークを迎える年始の三日間は連続で作業した。こうして、清掃行政について語る「権利」を多少は得られたのでは、との自負をもとにまとめたのが本書となっている。

歌舞伎町は見違えるようにきれいになった

 さて、新宿二丁目。先生の採点は極めて低い。「ごみ出しに関しては無法地帯」。一日中、ごみが出され続ける。ごみの中身を調査する「破袋調査」をすると、避妊具、下剤、人糞、注射器などが出てくる。「自分の店の中だけきれいになればよい」「みんなが投棄しているから自分も投棄してよい」という人や事業者の集まり。

 「儲けるためにはルール無視」「散乱するごみは無責任で自己中心的な人間の具現化でもある」「清掃職員はこうした人間の醜さを寛大に受け止め、それにふたをするがごとく、無言でごみを回収している」

 ゲイ・バーのママにはぜひともきちんと受け止めていただきたい苦言だ。テレビ局が人気のゲイ・タレントを案内役に、同行ルポでもすれば、覚醒効果があるかもしれない。

 歌舞伎町はどうか。ここもかつてはひどかったが、2015年に31階建の新宿東宝ビルがランドマークとしてオープンして以来、様変わりしたという。そこには区を挙げての、不適正に出されたごみへの徹底した対策があった。ごみ集積所を各ビルの前に設置、ビルごとにごみを出している事業者を把握し、ごみ袋にシールの添付を徹底した。そうした努力の結果、現在では繁華街としてはあり得ないくらいの美観が保たれ、衛生的な環境になった。

 新大久保はどうか。新宿区は区民の12%が外国人。中でもこの付近に集中する。生活習慣の違いから、ルールは守られていない。ごみからは、勝手にシェアハウスが作られ、短期滞在の外国人が少なくないことがわかる。

業務委託の問題にも言及

 ごみ収集には一定の危険が伴う。袋に何が入っているか分からない。小さなボンベが爆発したりすることがある。特に怖いのはとがったものによる切り傷だ。対策として職員は破傷風のワクチン接種をしているそうだ。

 何年か前、関西の清掃センターで駐車場の一角を勝手に仕切ってトレーニングジムにしていたことが分かり、問題になった。清掃職員の勤務中のトレーニングが怠慢のように受け止められたのだ。藤井さんは実際の作業で、収集作業は重いものを持つので腰に負担がかかることを実感した。「何らかの自己防衛策を講じる必要がある」としている。

 「業務委託」の問題についても言及している。今ではどこでも、「正規職員」だけでなく、「下請け」の会社が作業を請け負っている。労働条件はよくない。そうした「非正規」の作業員とも話す中で、下請け化でワーキングプアが生まれていること、作業員がしょっちゅう入れ替わるなどで、「清掃指導」が崩壊していることなどを指摘している。コストを重視した安易な業務委託が本当に納税者のためになっているのか、考えさせられる。

 学者や行政の立案者は「現場」から離れ、実務に疎くなりがちだ。本書は学者が現場に、それも長期に入り込んで、問題点を再確認したという点で貴重だ。これがマスコミの場合なら、行政が受け入れなかっただろう。その意味ではマスコミにとっても、本来は自分たちがやるべきことを代行してもらったという意味で貴重な報告だ。

オンライン書店で詳しく見る(購入もできます)

デイリーBOOKウォッチの一覧

一覧をみる >

当サイトご覧の皆様!

おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!

出版社の皆様!

御社の書籍も、
BOOKウォッチに
掲載してみませんか?

sub