読むべき本、見逃していない?

物議かもした「芥川賞候補」新人、「貧困」テーマに再デビュー

  • 書名 蹴爪(ボラン)
  • 監修・編集・著者名水原涼 著
  • 出版社名講談社
  • 出版年月日2018年7月26日
  • 定価本体1700円+税
  • 判型・ページ数四六判・208ページ
  • ISBN9784065123065
BOOKウォッチ編集部コメント

 水原涼という名前に聞き覚えがあり、本書『蹴爪(ボラン)』(講談社)を手に取った。水原涼は2011年、近親相姦を描いた衝撃的な小説「甘露」で文学界新人賞を受賞した。当時21歳。男性最年少の芥川賞候補となったが、スキャンダラスな内容が酷評され、その後名前を見る機会はなかった。評者も当時読み、表現は悪いが「反吐が出る」思いがした。それから7年、これが初の小説集となる。

 表題作「蹴爪(ボラン)」と「クイーンズ・ロード・フィールド」の2作を収めている。 前者の舞台はフィリピンで、後者はスコットランド。「異国の少年の物語だけど、これは、"ぼくたち"の姿だ」というキャッチコピーの意味は読みすすむうちに理解できた。

 「蹴爪(ボラン)」の主人公は11歳のベニグノ。闘鶏所の胴元をつとめる父親が、悪魔から村を守る祠をつくる責任者となった日から、ベニグノの周囲は少しずつ変わり始める。ガールフレンドで裕福な家の娘グレッツェンの大切な鶏が殺され、島で殺人事件が起こる。さらに地震で祠が倒壊した後のトラブルが原因で、父親は胴元や管理人の職を追われる。それから不穏な暴力が少年たちを襲う。

 もう一つの作品「クイーンズ・ロード・フィールド」は、スコットランドのサッカー3部リーグのチームのサポーター男女4人の物語だ。13歳で出会った4人が39歳になるまでの出来事が描かれる。苦難を抱えた3人と一緒にいるため、主人公の「ぼく」は嘘をつき続けている。甘酸っぱくてやるせない青春小説だ。

 評者は海外小説が苦手なので、日本人の作家があえて海外小説の形を借りて書く意味が最初わかりかねた。二つの作品に共通するのは貧困問題だ。日本にも貧困はあるのに、なぜ海外を舞台にする必要があったのか。仮に「蹴爪(ボラン)」を日本で翻案したとすると、場所はどこ? 地名はどうする? ポリティカル・コレクトネス(PC)対策は? など設定上、さまざまな困難が予想される。東南アジアだからこそ、ひりひりするような熱気と狂気がリアリティーを生む。実際、著者はフィリピンを旅行中に本作を着想したらしい。

 著者は毎日新聞のインタビュー(2018年5月12日付)に答え、「あのデビューは自分には早すぎたのかもしれない。今は『再デビュー』の感覚」と語っている。ネットを見ると、著者は前作での衝撃的なデビュー以降、個人的にさまざまな困難に直面したらしい。貧困という切実な問題を、舞台を海外に設定することで書ききった著者の力量を評価するとともに再デビューを祝いたい気分だ。

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