読むべき本、見逃していない?

日本では「本当の古典」はこの4冊だけ

  • 書名 書物と権力
  • サブタイトル中世文化の政治学
  • 監修・編集・著者名前田 雅之 著
  • 出版社名吉川弘文館
  • 出版年月日2018年8月17日
  • 定価本体1700円+税
  • 判型・ページ数四六判・224ページ
  • ISBN9784642058735
BOOKウォッチ編集部コメント

 『書物と権力』(吉川弘文館)という物々しいタイトルを見て、検閲は中世から横行していたのか、と早合点した。日本の場合、検閲が制度化されたのは1722(享保7)年の「寅年の禁令」とされているので、中世に検閲はなかった。木版印刷が盛んになったのは江戸時代中期以降だ。識字率の低い中世ではその必要もなかったのだろう。本書が扱っているのは検閲ではなく、権力と教養とのかかわりなのだった。

『万葉集』や『枕草子』は?

 著者の前田さんは、中世文学を専門にする国文学者で明星大の教授だ。他方で今年1月に亡くなった西部邁さんが顧問を務めた保守系論壇誌『表現者』(廃刊)の編集委員でもあった。余談だが、同誌には意外なところで、元文科官僚の寺脇研さんも執筆したことがある。寺脇さんは森友・加計問題が浮上した際、テレビにたびたび登場、安倍政権に辛口のコメントを呈したことで有名になった。

 朝廷(家系)と幕府(武力)の対立。そういった視点で日本の歴史を見るのが一般的だ。しかし、前田さんは和歌・漢詩を中心とする教養が、中世、近世を一貫して、支配層に受け継がれ、権力支配を権威付け、体制維持に大きな役割を担ってきたという。教養のなさと非論理性こそが内外指導者の専売特許になった現代とは、大変な隔たりようではある。

 この権威に裏打ちされた教養を通した人脈を、前田さんは「古典的公共圏」と呼ぶ。貴族、武士、僧侶から成る権力のソサエティーだ。本書は、権力構造が変わっても、教養が支配層に脈々と息づいてきた事実を通して、「古典的公共圏」が継続・拡大してきたことを紹介している。

 では中世で「古典」とは何だったのか。枕草子や徒然草は当然含まれているだろうと思うが、そうではないと前田さんは言う。藤原定家(さだいえ、平安末から鎌倉初期)が多くの異本を校訂して基幹本文になった古今和歌集、伊勢物語、源氏物語。さらに漢詩と和歌の子供向け入門書である和漢朗詠集を加えた4書だけが古典だと認定されていた。『万葉集』や『枕草子』、『方丈記』、『徒然草』などが古典になるのは江戸時代以降だという。

 古典が限定され、それを中心に学ばれたのには理由がある。本歌取りを旨とする和歌にとって、本歌の収蔵庫は古典だった。そのため、きちんとした注釈本がなくてはならなかった。注釈の作成には、藤原教長(のりなが、同)や歌僧・顕昭(けんしょう、同)を始めとする多くの学者がかかわってきた。それでも異本が多く整理が難しいなどの理由で、注釈がそろっていたのは長い間、4書だけだったのだそうだ。

武家社会になってますます重視

 教養が権力者層に求められたのは、古典が成立した後のことではない。それ以前でも必要とされた。古典は中国の官吏に漢詩を自在に作る能力が求められ、科挙に詩文の暗記が必要だったのと同様に、日本の宮廷での作法にも和歌などについての知識が求められた。

 

 『源氏物語』の少女(21帖)にこんな記述がある。光源氏が息子・夕霧を大学寮に入れるかどうかを巡って義母・三条大宮と対立。自分は才(教養)がなくて困った。「才をもととしてこそ、大和魂(和魂)の世に用ゐらるる方も強うはべらめ(学問を基礎にしてこそ、こころの働きが世間に認められる所もしっかり致しましょう)」として、大学寮に入れることが決まった。

 教養が大事であるという考えは、権力が武家に移って以降、古典が成立してさらに強まったのだそうだ。

 教養の重要さについては、こんな出来事も紹介されている。「日本無双の才人」とされる室町時代の公卿で古典学者の一条兼良(かねよし、15世紀)にまつわるエピソードだ。主著は『連珠合璧集』。連歌用語907語の分類と関連を解説した作歌の参考書だ。907語と言えば当時最大の参考書の語数の2・2倍で圧倒的な分量となる。これを応仁の乱(1467~77年)の最中に完成させている。その一方で、乱を挟んで『源氏物語』の宮中講義を断続的に開いた。兼良はもちろん受講した人たちも含め、学問への熱意、底なしと言うほかない。

 これらのほか
 ・出版が一般化する江戸時代まで、書物は非常に高価だった
 ・書物の流通には日本初の職業文筆家である連歌師が中心になっていた
ことなども紹介されている。

 前田さんの類書には『なぜ古典を勉強するのか』(文学通信)、『アイロニカルな共感』(ひつじ書房)などがある。

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