読むべき本、見逃していない?

明治元年、早くも「中絶」が禁止されていた

  • 書名 維新旧幕比較論
  • 監修・編集・著者名木下 真弘 著、宮地 正人 編
  • 出版社名岩波書店
  • 出版年月日1993年1月18日
  • 定価本体900円+税
  • 判型・ページ数文庫・331ページ
  • ISBN9784003318911
BOOKウォッチ編集部コメント

 不勉強にて、こういう史料があることは知らなかった。『維新旧幕比較論 』(岩波文庫)。要するに明治になって、日本の社会がそれまでの幕藩体制と何がどう変わったか、対比する形で詳述している。

 これを書き残したのは当時、太政官官吏として政治の中枢に身をおいていた木下真弘(1824~97)。明治新政の具体的諸成果を,旧幕府の実態と一つ一つ比較しながら明らかにしている。岩倉具視の命を受けて執筆されたものらしく、維新当時の民衆の実態に接近できる一級史料だという。

「庶人の氏を称するを許す」

 ためしに「明治元年」というところを見ると、いくつもの新しい動きが記されている。「人材」については「庶民の才幹あるもの、大官に上るを得せしむ」。これに対して江戸時代は、「庶民、官に就き国政に与かるを得ず、士も亦大任せらるるを得ず」。学問などに秀でていれば下級の武士出身でも大出世できる新しい時代になったことを高らかに示す。ちょっと歴史に詳しい読者なら、そうした実例をたちどころに何人も思い出すだろう。

 「元号」については「一世一元の制を定む」。これが江戸時代は、災害や「将軍薨(こうずる)を以て元を改む」。実に簡潔に、時代の変化とセットになった元号の意味を伝えている。

 「名前」については、「庶人の氏を称するを許す」。これに対し江戸時代は「単に名を署し、氏を具せず。庶民同名最多し、便と為さず」。

 先日本欄で紹介した『日本人の名前の歴史』(吉川弘文館)に書いてあったが、江戸時代の農民の名前は、「左衛門」「右衛門」「兵衛」などが大半を占めていた。たしかに、同じ名前だらけで、判別がつかない。

 「諸侯」と呼ばれる上層の人々の名前も変わった。江戸時代は「異族の大小名、本氏を称せず、多く松平氏を署せしむ」だったが、明治になって「官名上に藩名を冠するを停め、基本氏を署せしむ」と変わった。

松本清張が所蔵していた

 このように、時代の変化が、項目ごとに短行で整理され、実にわかりやすい。「中絶」についても書かれている。明治政府は「厳に堕胎を禁ず」。それが江戸時代は「朔日丸、月経早流等を公売するを禁ぜず」。朔日丸、月経早流というのは、避妊薬や堕胎薬だ。どういう理由で明治になって堕胎禁止になったのかわからないが、明治政府というものが、庶民生活の意外なレベルまで「御一新」を図っていたことを知る。それも明治元年に早々とここまで細かくやっているということに驚く。

 本書を残した木下真弘は熊本の出身。兄は儒学者、弟は衆議院議員。時代は下がるが、一族からは「夕鶴」などで知られる木下順二も出ている。当時としては知的エリート層の出身のようだ。

 解説を書いている歴史学者の宮地正人さんによると、太政官正院は当時の政治・行政のすべてが集約される場だった。本書の原本は役所の用紙に書いているので、公務として執筆されたものだろうとみる。執筆されたのは明治9年ごろらしい。維新の政策が一区切りした時期に、その成果を振り返ったのだと思われる。

 もともとは単に「新旧比較表」とだけ記されていたそうだ。どういう経緯かわからないが、この興味深い文書を所蔵していたのは作家の松本清張だったという。史料発掘では有名な人だけに、さすがに目の付けどころが鋭い。ピンポイントで「優品」「掘り出し物」を入手していたのだなと感心した。

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