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人生100年時代...カネばかりではない大切な「資産」とは?

LIFE SHIFT(ライフ・シフト)

 2016年秋に日本語版が発行された本書『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』(東洋経済新報社)は、17年夏には14万部、さらに18年には32万部を突破するベストセラーになった。18年のさまざまなヒット商品番付でも大関や前頭にランク入りし、「ロングテール」ぶりを誇示している。

 このヒットの理由の一つは「100年時代の人生戦略」という日本語版に付けられたサブタイトルのうまさにあるだろう。もともとの原題は「THE 100-YEAR LIFE」だから、「人生100年」という意味。原題にない「ライフ・シフト」という耳慣れない造語をタイトルにして興味をひき、さらに「100年時代の人生戦略」と補足することによって、インパクトを与えている。

 ちょうど日本ではこの間、寿命がさらに延びそうだとして、年金支給開始年齢の引き上げや定年のさらなる延長などが議論されていた。「70歳まで働かないといけないのか」「65歳までの定年延長で限界だ」などの声が聞える中、100歳まで生きるとしたらどうしよう、という強迫観念を本書が刺激したのではないだろうか。

 著者の一人、リンダ・グラットンさんは、ロンドン・ビジネススクール教授で、来日しテレビにも出演したので覚えている人も多いだろう。人生が短かった時代は「教育→仕事→引退」という3つのステージの生き方で問題なかったが、寿命が延びると、もっと多くのステージを経験するようになる、というのが主張の要旨だ。

 たとえば、幅広い針路を検討する「エクスプローラー(探検者)」や小さなビジネスを起こす「インディペンデント・プロデューサー(独立生産者)」。いくつかの仕事や活動を並行する「ポートフォリオ・ワーカー」といったステージだ。

 さらに、AI時代の働き方や長く生きる分の資金をどう工面するか、新しい時間の使い方など多岐にわたり、さまざまなシナリオを検討している。ジャック、ジミー、ジェーンら外国人のケースを想定した本編は、正直言って長くて退屈な部分もある。気の短い評者は「日本語版への序文」を読み、いくつか示唆を得た。その部分を引用しよう。

日本の若者、起業せよ

 
「いまこの文章を読んでいる50歳未満の日本人は、100年以上生きる時代、すなわち100年ライフを過ごすつもりでいたほうがいい」
「家庭でパートナーの両方が職をもつことのメリットは明らかだ。二人が同時に働く形態もありうるし、互いのキャリアを支えるために交互に職に就く形態もありうる」
「いま30歳未満の人には、すぐに給料のいい職に就こうとばかり考えないようアドバイスしたい。じっくり時間を取ってさまざまなキャリアの選択肢を検討し、世界について学び、労働市場の未来をよく理解したほうがいい」
「60歳以上の人は突如、長寿化の恩恵を手にすることになる。新しい機会が開ける反面、若い頃に想像していたより高齢になるまで働き、収入を得続ける必要が出てくる」

 本書を読みながら、若くして起業し成功している幾人かのカリスマの顔を思い浮かべた。ある人は海外放浪して仕事のヒントを得たり、ある人は有名大学を中退して好きな仕事に没頭したり。著者も日本の若者の安定志向を批判し、起業力と機会を認知するスキルが低いのは日本の弱みだと指摘している。

 新卒一括採用という日本型雇用システムはすでにガタがきているし、それ以外の採用を多くの企業が始めている。逆に学生は単に大学を出たというだけでは会社に入ることができない(多くのヨーロッパ諸国ではすでにそうなっている)厳しい時代が到来する日も近いだろう。

 著者は「長く生産的な人生を送るためには、スキルと知識に投資することが不可欠だ。学習と教育は大きな金銭的恩恵をもたらす」と書いている。生涯を通じて学び続けることが長寿時代のカギになるということだ。

 グラットン教授は来日時にインタビューに答え、AI時代にはリ・スキルつまり、それまでの仕事とはまったく異なる仕事に転換することも必要だ、と説いている。たとえばトラック運転手から介護士への転職というケースだ。教授は安倍政権の「人生100年時代構想会議」の委員を委嘱された。本書の主張はしごくまともなだけに、政府にとって都合のいいところばかりをつまみ食いされないか、少し心配だ。

 資産の少ない人はどうしたらいいかと悩んでしまうが、健康状態や人間関係、柔軟にキャリアを転換できる能力など「無形資産」も重要だ、と書いてあるのを読み、安心した。それならなんとかなりそうだ。   

  • 書名 LIFE SHIFT(ライフ・シフト)
  • サブタイトル100年時代の人生戦略
  • 監修・編集・著者名リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット 著 池村千秋 訳
  • 出版社名東洋経済新報社
  • 出版年月日2016年11月 3日
  • 定価本体1800円+税
  • 判型・ページ数四六判・414ページ
  • ISBN9784492533871
 

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