読むべき本、見逃していない?

60年変わらずに1億台売れたスーパーマシン

  • 書名 スーパーカブは、なぜ売れる
  • サブタイトル世界で一億台!驚異のベストセラー
  • 監修・編集・著者名中部 博 著
  • 出版社名集英社インターナショナル
  • 出版年月日2018年12月14日
  • 定価本体1500円+税
  • 判型・ページ数四六判・256頁
  • ISBN9784797673678
  • CコードC0095
BOOKウォッチ編集部コメント

 夜が明けるころ、どこからともなくブーンというエンジン音が聞こえてくる。新聞配達のバイクの音だ。日中は、街中で真っ赤な郵便配達のバイクをあちこちで見かける。そんな働くバイクの代表格が本田技研工業株式会社(以下HONDA)の小型バイク「スーパーカブ」だ。なんと、世界累計で1億台以上売れている。まさしくスーパーマシンだ。本書『スーパーカブは、なぜ売れる』(集英社インターナショナル)は、スーパーカブの誕生から現在まで、なぜ売れているのかを綴った労作。

 本書の著者は、元週刊誌の記者でスーパーカブの取材歴25年という中部博さん。HONDAに関する著作も多い。
 2017年にスーパーカブが販売台数1億台を突破した時、各社の報道で大きく伝えられたが、なぜ売れているのか、スーパーカブの実力などを深掘りした記事が少ないと感じたのが本書執筆のきっかけだったという。取材歴の積み重ねもあるが、中部さんのスーパーカブへの熱い思いが全編にわたって伝わってくる。

メカニズムも造形もほぼ発売時のまま。

 スーパーカブの発売は1958年。当時の価格は5万5000円。セダン車が75万円という時代に登場している。
 発売から60年を経た今でも、メカニズムや造形などはほぼ発売時のままだという。開発時に基本設計やデザインが考え抜かれていた証だが、その詳細は本書に詳しい。

 スーパーカブの開発のきっかけは、自転車にエンジンを付けた格好のHONDAのヒット商品「カブF型」の販売が国内経済の不景気で不振に陥った際、一国の景気に左右されない、世界市場で販売できる国際戦略車を開発しようとしたことだという。スーパーカブは国際戦略車だったのだ。
 本書によると、当時、本田宗一郎氏は大型バイクを構想し、藤澤武夫氏は50ccの小型バイクを望んでいた。そのような中、ヨーロッパ視察の往きの飛行機内で藤澤氏が本田氏を説得し、本田氏はヨーロッパに到着するまでに小型バイクであるスーパーカブの基本構想をまとめていたそうだ。

コンシューマーを徹底的に意識したコンセプト

 スーパーカブは、乗る人の生活や仕事について考え、コンシューマーの感情にも響くものとして設計された。
 スーパーカブが設計された当時、小型オートバイのエンジンは2サイクルが主流だった。しかし、スーパーカブは4サイクルエンジンを採用している。
 本書中では2サイクルと4サイクルのメカニズムについては割愛されているので、多少補足したい。2サイクルエンジンは燃焼のサイクルが、おおまかに(1)圧縮(2)燃焼・給排気の2工程。一方、4サイクルエンジンは(1)吸気(2)圧縮(3)燃焼(4)排気の4工程である。出力は燃焼時に得られるから、同じ排気量なら2サイクルエンジンの方が燃焼頻度は2倍であり出力も高い。また、2サイクルエンジンは、構造が4サイクルエンジンに比べて単純で軽量というメリットがあった。
 しかし、2サイクルエンジンは、ガソリンにエンジンオイルを混合させる必要があり、排気ガスが4サイクルエンジンに比べて汚く、排気筒からススもそれなりに出た。また、4サイクルエンジンに比べて燃費が悪かった。そのような中、スーパーカブは、2サイクルエンジンに比べて排気ガスがきれいで燃費が良い4サイクルを選択したのだ。
 現在、新車販売されている公道を走れるバイクで2サイクルエンジンの機種は存在しない。2サイクルエンジンでは環境基準を満たすのがコスト面等で困難だからだ。スーパーカブは、時代を先読みしていたというか、未来に通用する設計だったということだろう。しかも、設計を工夫し、4サイクルエンジンを積みながらも車体は競合車と比較して軽かったという。
 軽量という部分では、発売当時、バイクを家の土間にしまう家庭も多かったことから、敷居を超えられるという部分も意識していたそうだ。
 燃費については、1リットルで90キロメートルを走れる性能を誇った。ガソリンが高かった時代、コンシューマーのコストを意識した設計だった。このほかにも、靴を傷つけない変速ペダルや、クラッチの半自動化によって左手を自由にしたことや、デザインの工夫など、本書にはそのしっかりした基本設計の数々が紹介されている。

偏見を払拭することの大切さ

 スーパーカブが売れた理由は、プロダクトの高性能だけではない。顧客サポート面や宣伝の功績も大きいという。本書ではいくつかのエピソードに触れているが、印象的だったのは南ベトナム(当時)でのエピソード。南ベトナムでスーパーカブを販売開始したのは1967年。中部さんは、当時を知る田中清二さんに取材している。田中さんは南ベトナム駐在員事務所の初代所長。田中さんが南ベトナムに赴任して最初に見たものは、街のあちこちで不調をきたすスーパーカブの姿だったそうだ。
 長くフランスの植民地だった南ベトナムでは、ヨーロッパの2サイクルエンジンの小型バイクも多かったため、スーパーカブを買った人も、2サイクルエンジン用の混合ガソリンを4サイクルエンジンであるスーパーカブに入れていたのが不調の原因だった。
 このままでは、スーパーカブの信頼性が失われ、悪い偏見が広がると思い、田中さんは日本から技術者を呼び2万台のスーパーカブの総点検を実施する。そして、当時10紙あった現地の新聞全紙に連日のように4サイクルエンジンの使い方を啓蒙する折込み広告を行ったそうだ。その努力の甲斐もあり、スーパーカブは人気を集め、田中さんは1968年の2月からの半期で3万7000台のスーパーカブを南ベトナムに輸入している。そのような地道な営業面のとりくみもあってこそのベストセラーなのである。

 本書の中で、2017年のスーパーカブのモデルチェンジで開発責任者を務めた亀水二己範さんの話が出てくる。
 亀水さんは、スーパーカブは「働いて忙しい人たち」のもの。オーナーの多くは毎日同じ道を、同じ荷物を積んで走っている。モデルチェンジして、旧型より乗り辛くなったという迷惑はかけられないと語っている。
 発売から60年を過ぎた今もなお、コンシューマーの生活を大切に考え続けている姿勢こそがこのスーパーカブのスーパーなところなのかもしれない。

 なお、本欄では、スーパーカブと女子高生の成長の物語『スーパーカブ』(KADOKAWA)も掲載している。

オンライン書店で詳しく見る(購入もできます)

デイリーBOOKウォッチの一覧

一覧をみる

アクセスランキング

DAILY
WEEKLY
もっと見る

当サイトご覧の皆様!

おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!

出版社の皆様!

御社の書籍も、
BOOKウォッチに
掲載してみませんか?

sub