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1888年、「画像送信」を予言した天才日本人がいた!

  • 書名 清々しき人々
  • 監修・編集・著者名月尾嘉男 著
  • 出版社名遊行社
  • 出版年月日2018年12月 1日
  • 定価本体1600円+税
  • 判型・ページ数B6判・239ページ
  • ISBN9784902443448

 本書『清々しき人々』(遊行社)の著者、月尾嘉男さんは1942年生まれ。65年に東京大学工学部を卒業し、名古屋大、東大教授などを経て東大名誉教授。2002~03年総務省総務審議官。コンピュータ・グラフィックス、人工知能、仮想現実、メディア政策などを研究してきた。

 その一方でカヌーとクロスカントリースキーを愛し、知床半島塾、羊蹄山麓塾、釧路湿原塾、信越仰山塾、瀬戸内海塾などを主宰。地域の有志とともに環境保護や地域振興に取り組んでいる。たまにマスコミでお名前を見かけるが、カバーするジャンルが広く、いろいろなことをやっているユニークな人だ。

経済同友会代表幹事と同じ問題意識

 本書は、その月尾さんの雑誌連載を単行本化したもの。アイヌ人と親密に付き合った松浦武四郎、日露戦争の情報戦で活躍した明石元二郎、関東大震災を警告した地震学の先駆者・今村明恒など、知る人ぞ知る歴史上の人物23人が登場する。主に中高生向けの読み物という感じだ。

 先端技術に詳しい月尾さんがなぜこんな、ちょっと古臭い人物列伝本を書いたのか。「まえがき」にその理由が記されている。

「世界の上場企業の時価評価総額の上位二〇社のうち一五社が日本企業であった一九八〇年代の栄光の時代と比較すると、現在は跡形もなく、五〇位以内に一社しか登場しません。八〇年代から九〇年代には、スイスのシンクタンクの発表する国際競争力で毎年一位であった日本は最近では二五位前後を低迷しています」

 あれれ、同じ話を最近見たぞ、と思った。2019年1月30日の朝日新聞「オピニオン面」で経済同友会代表幹事、小林喜光さんがロングインタビューで語っていた。小林さんによると、30年前、世界の企業の株価時価総額トップ10のうち8割を日本企業が占めていたが、現在はトヨタ自動車が40数位に顔を出す程度。米国のグーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンという「GAFA」とアリババ、テンセントなど米中のネット企業が上位を占めている。テクノロジーの世界はさらに悲惨で、半導体、光ディスクなど日本が手がけて高いシェアを誇ったものがいつの間にか中国や台湾、韓国などに席巻されており、「もはや日本を引っ張る技術がない状態」と嘆いていた。

 小林さんは、経済3団体のひとつのトップであり、月尾さんも、東大教授や総務省審議官を経験しているエリート。その二人がともに、同じような指標をもとに、今の日本を嘆いている。

「世のため、人のため」の意識が低下

 低迷の理由について月尾さんは、情報化社会への対応が遅れたことを挙げているが、それ以上に、次々と発覚する企業や官庁による不正など、官民ともに利益本位や出世主義が横行し、国家のため、社会のため、人々のためという精神が弛緩してきたことが影響しているとみる。したがって今の若者たちに、日本再建のため、目先の利益ではなく、遠方の目標をめざしてもらう一助として、本書で過去の「清々しき人々」を紹介したという。

 冒頭で紹介した松浦や明石など登場人物の半数ぐらいは、それなりに知られた先駆者たちだが、名前がほとんど消えてしまった人もいる。一例が、志田林三郎だ。

 1856年肥前生まれ。武士階級の出ではなかったが、地元では有名な神童で、士族の教育機関で学ぶことを許された。さらに東京の工学寮(のちの工部大学校、東大工学部)に一期生として入学。ここでも抜群の成績を修めて国費留学生に選ばれ英国・グラスゴー大学で学ぶ。帰国後は27歳で工部大学校教授になり、1888年には電気学会を創設。33歳で初代逓信省工務局長に就任している。そのころの逓信大臣は、科学全般に明るく、幕末、新政府で重きをなした榎本武揚だった。

後輩も仰天する「天才」

 月尾さんが志田を高く評価するのは、その傑出した未来予測能力だ。電気学会雑誌の第一号に詳細が記録されている。

・「一本の電線で一分に数百語の音声を数通同時に送受可能になる」・・・現在の高速多重通信技術を予測。
・「電線を使用せず数里の距離を自在に通信通話できる」・・・無線通信の到来を予測。マルコーニが無線通信技術を実用化したのは1895年。
・「音声伝送の利便が進歩し、大阪や長崎どころか上海や香港のような遠方で演奏される音楽を東京で鑑賞することも間近になっている」・・・ラジオの海外放送も予言。実際のラジオ放送が実現したのはアメリカで1900年、日本では1925年。
・「ナイアガラ瀑布で発電した電気をニューヨークに送電し、日光の華厳の滝で発電した電力を東京に送電して電灯を点灯する」。
・「陸に電気鉄道、海に電気船舶が増加し、輸送手段から黒煙や蒸気が排出されない時代が到来する」・・・環境問題に配慮。
・「電機や磁気の作用で光を遠方に輸送し、相手を相見ることも可能になる」・・・画像通信に言及。

 残念ながら志田は激務もあって36歳で亡くなった。後輩の月尾さんも仰天する「天才」だった。もし志田が長生きしていたら、画期的な開発のいくつかは日本がリードしていたかもしれない。19世紀ニッポンのハイテク・イノベーター。今風に言えば、ゼロからイチを生み出せる人だった。

 本欄では関連で、『この歴史、知らなくてすみません。』(PHP文庫)、『太陽を創った少年』(早川書房)、『江戸の科学者』(平凡社)、『江戸時代のハイテク・イノベーター列伝』(言視舎)、『アイヌ人物誌』(青土社)、『榎本武揚と明治維新』(岩波ジュニア新書)、『維新と科学』(岩波新書)、『近代日本一五〇年』(岩波新書)、『科学者と軍事研究』(岩波新書)なども紹介している。

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