読むべき本、見逃していない?

「高田馬場には青春の屍が埋まっている」 早稲田大出身なら読まずにいられない

  • 書名 高田馬場アンダーグラウンド
  • 監修・編集・著者名本橋信宏 著
  • 出版社名駒草出版
  • 出版年月日2019年3月16日
  • 定価本体1500円+税
  • 判型・ページ数四六判・334ページ
  • ISBN9784909646125

 「高田馬場には青春の屍が埋まっている」という書き出しにひかれて、本書『高田馬場アンダーグラウンド』(駒草出版)を手に取った。著者の本橋信宏さんは、風俗や事件を得意ジャンルとするライターだが、私小説的な手法に定評がある。本書は、『東京最後の異界 鶯谷』、『迷宮の花街 渋谷円山町』、『上野アンダーグラウンド』、『新橋アンダーグラウンド』と続く本橋さんの「東京の異界」シリーズの第5弾。早稲田大学出身の著者にとって高田馬場は庭のような存在だが、さらにディープな因縁、奇縁で結びつけられていた街でもあった。

エロ出版社はなぜ高田馬場に集中

 プロローグで高田馬場にまつわる、いくつかの謎を提示している。

 
 『神田川』はいかにしてフォークの聖地となりしか。
 エロ出版社はなぜ高田馬場で栄華を極めたのか。
 政財界人御用達と言われた高田馬場の「伝説の風俗店」とは。
 陸軍の街として栄えた土地にいまも残るミステリーとは。
 高田馬場で殺された悲劇の女優とは。
 私の父はいったいこの街で何を夢見て、何を隠していたのか。

 各章でこれらの謎を解き明かしてゆく。私事で恐縮だが、著者と1歳違いで学生時代に高田馬場近くに住んでいた評者は、本橋さんが明かす私小説的な記述に、まずのめり込んでしまった。

重箱の隅を突くワセダの入試問題

 高田馬場と言えば、早稲田大学がまず思い浮かぶ。70年代後半から早稲田の人気は沸騰し、倍率は大きく跳ね上がった。本橋さんは昭和一ケタ世代の作家や文化人、野坂昭如、五木寛之、永六輔、大橋巨泉ら早稲田OBの活躍があったからではないか、と推測する。

 たしかに五木寛之の『青春の門』にあこがれ、早稲田を記念受験する私大文系の受験生はうんかのごとく存在した時代だった。

 早稲田の入試問題は重箱の隅を突く難問、奇問、悪問が多いとされた。本書でも実際に本橋さんが受けた問題がいくつも披露されている。たとえば、日本史のこんな問題。

 
 流れ行く われはみくづと成りぬとも 君しがらみと なりてとどめよ
 「君」とはだれをさすか、答えよ。
 答えは宇多法皇
 サシテ行笠置ノ山ヲ出シヨリアメガ下ニハ隠家モナシ
 この和歌を詠んだ人物と戦乱の名称を選べ
 答えは後醍醐天皇、元弘の乱

 こうした難問にもかかわらずほぼパーフェクトの出来だったという。小学生の頃から「信宏は早稲田大学に行けよ」という父、「行けたらいいねえ」という母のやりとりを聞いて育った本橋少年は、期待にこたえ早稲田大学政治経済学部に合格する。父母は高田馬場から延びる西武鉄道関連の会社で出会い、埼玉県所沢市に所帯を構えた。高田馬場は二人にとって東京の玄関口だった。

 学生時代からライターの仕事をしていた本橋青年は、卒業後、ある男から雑誌の編集長をやらないか、と誘われる。ビニ本、裏本というエロ本を全国展開で制作発売していた北大神田書店グループの首領、地下経済界で「会長」と呼ばれた男だった。

 「フォーカス」を真似た新雑誌の名は「スクランブル」。高田馬場に急造の編集部を起ち上げた。26歳の本橋編集長は奮闘したが、10号で休刊となった。スポンサーだった「会長」の会社に警察の捜査がおよび、金が入らなくなったからだ。逮捕された「会長」はその後、村西とおる、という名前で黎明期のAV業界に革命をもたらすAV監督となる。

高田馬場は「ヘアバレー」

 高田馬場にはエロ本を発行する小さな出版社が集まっている。神田の古本屋街(ビニ本を扱う某有名書店があった)に地下鉄東西線に乗れば一本で行けるほか、版下・印刷・製本の業者も早稲田かいわいに多かったからだという。本橋さんは「シリコンバレー」にならって、高田馬場を「ヘアバレー」と名付けた。そのほかにもさまざまな風俗店も多い。このあたりの事情は第5章「野心ある若者たちはヘアバレーを目指した」、第6章「性と死が織りなす街」に詳しく描かれている。マンションヘルス、ファッションヘルス、性感ヘルス、ブルセラ、ハッテン場、愛人マンション......。

 新宿・歌舞伎町の歓楽街と池袋の歓楽街の谷間にあって、独特の磁場をつくってきたのが、高田馬場かもしれない。

 本書では手塚治虫、江戸川乱歩ら高田馬場にかかわるさまざまな有名人の人生にも触れながら、最終章「父の点鬼簿」で、ささやかな父の秘密にたどりつく。本橋家の「ファミリーヒストリー」も大団円を迎える。

 エピローグに著者は「高田馬場は私にとって、東京という氷壁に登坂する際の金属製のくさび、ハーケンだった。思い入れはどの土地よりも深い」と書いている。この地を40年追い続けてきた人だから書けた本だ。評者も長く封印してきた高田馬場の記憶を呼び起こし、40年ぶりに足を向けてみよう、と思った。  

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