読むべき本、見逃していない?

プーチン大統領も学んだ特殊な記憶術とは?

  • 書名 KGBスパイ式記憶術
  • 監修・編集・著者名カミール・グーリーイェヴ、 デニス・ブーキン 著、 岡本麻左子 訳
  • 出版社名水王舎
  • 出版年月日2019年2月 1日
  • 定価本体1600円+税
  • 判型・ページ数四六判・360ページ
  • ISBN9784864701143

 KGB(ソ連国家保安委員会)。何となく不気味でコワモテ。米国のCIAと並ぶ世界最強の諜報機関として有名だ。かなり手荒なことをする連中というイメージが付きまとう。

 本書『KGBスパイ式記憶術』(水王舎)は、そのKGBが教える手法で記憶力を開発し、ビジネスに生かそうというのが狙い。著者の一人、デニス・ブーキン氏はサンクトペテルブルク工科大学卒の経済学者で心理学者。コンサルタント会社の経営者でもある。もう一人の著者のカミール・グーリーイェヴ氏は写真家。本書は世界13か国で続々刊行中のベストセラーだという。日本でも早くも5刷になっている。

訓練でどこまで記憶力はアップするか

 諜報機関員(スパイ)といえば007などを思い浮かべる。派手なアクションや様々な小道具。女性にはモテまくり、いざとなれば銃をぶっ放す。本書によれば、それらは映画の見過ぎによる間違ったイメージのようだ。スパイで最も重要なのはスパイ本人の頭脳であり、中でも大事なのが記憶力だという。

 というわけで本書はいかにして記憶力を高めるか、それは訓練によってどこまで可能になるか、ということを述べている。

 本書はかなり変わった構成になっている。二つのことが同時並行的に進む。一つは、どうすれば記憶力を高めることができるか。それを具体的な方法に基づいて説明する。もう一つは、過去に起きたとされる事件(1954年ごろ)がフィードバックされ、それを題材に別のストーリーが展開する。前者のノウハウを使いながら、主に後者の事件の様々なディテールやポイントがどれだけ記憶できているか、数ページごとに読者に問いかけが行われるのだ。それを解きながら読み進めていくという構成になっている。

解散しても同種の活動が続く

 KGBは正確に言うと、かつてのソ連にあった諜報機関だ。ペレストロイカで1991年に解散の憂き目にあっている。ソ連の最高指導者を務めたアンドロポフは、長期にわたってKGB議長だったし、現在のロシアの最高指導者プーチン大統領もKGB出身として知られる。鋭い目つき。サンボや柔道の達人でもある。油断ならないプーチンの雰囲気は昔日のKGB要員をほうふつさせる。本書『KGBスパイ式記憶術』(水王舎)は「あのプーチンも学んだ、命がけのビジネススキルでミッションを遂行せよ!」と帯にある。

 ソ連やロシアで権力を握るには、KGBの掌握が必要だと言われてきた。解散しても同種の活動はなくならない。後継の別組織でまた類似の諜報・謀略・工作活動が行われているようだ。トランプ大統領のロシア疑惑や、英国でのロシア人ジャーナリスト謀殺事件でも関わりがうわさされる。 本書で紹介される記憶術は、ページをめくるごとに高度になっていく。複雑な記憶術を覚えること自体が大変な作業になる。したがって職務として命じられた、特殊な任務に就く人以外は、ちょっと難しすぎるのではないかと感じる方法が多い。設問はおおむねオーソドックスだが、評者は第1問で早速つまずき、諜報員になるのは無理だと悟った。

騙したり、騙されたり

 こうした諜報機関員向けの特殊な記憶術については、どの国でも行われていたようだ。陸軍参謀だった瀬島龍三氏は、特に優れていたという話が残っている。彼も訓練で能力をアップさせたということを何かの本で読んだことがある。したがって、今回は「KGB」がメーンになっているが、主語を「CIA」や「中野学校」にしても類似の本ができそうだ。

 本書で興味深かったのは、並行して進む、1954年ごろに起きたとされる事件の展開だ。モスクワで起きた謎の事件。その調査に、モスクワ大学を出たばかりの新人の要員があてられる。この事件はどうなっていくのか。この新人が解決できるのか。その推移は、本書内で「部外秘」と銘打たれた報告書が、捜査の進展に応じて少しずつ公開されることによって、次第に明らかになっていく。

 「あとがき」に何か詳しいことが書かれているのかと期待したが、「あとがき」自体がなかった。そしてもういちど、「まえがき」を読んだら、意外な注釈が・・・。

 本書は著者らの経歴自体もイマイチ判然としない。KGBの元メンバーというわけでもない。本当にKGBでこんな教育が行われていたのか? 騙したり、騙されたり。諜報や情報工作とはそういうものだということを念頭に置いて本書を読むと、より参考になり面白味が増すかもしれない。

 本欄では関連で『太平洋戦争 日本語諜報戦――言語官の活躍と試練』(ちくま新書)、『陸軍・秘密情報機関の男』(新日本出版社)、『武器としての情報公開』(ちくま新書)、『ドローン情報戦――アメリカ特殊部隊の無人機戦略最前線』(原書房)、『フェイクニュース――新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)、『陸軍中野学校――「秘密工作員」養成機関の実像』(筑摩選書)、『僕は少年ゲリラ兵だった――陸軍中野学校が作った沖縄秘密部隊』(新潮社)、『機密費外交--なぜ日中戦争は避けられなかったのか』(講談社現代新書)なども紹介している。

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