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定時で帰る主義?! お仕事小説の新しいヒロイン像

わたし、定時で帰ります。

 朱野帰子(あけのかえるこ)さんの『わたし、定時で帰ります。』(新潮文庫)がどこか新鮮に感じられるのは、仕事がバリバリできそうな女性が定時で帰ると宣言しているからだろうか。本書の主人公・東山結衣は、お仕事小説の新しいヒロイン像だ。

 シリーズ第1弾『わたし、定時で帰ります。』と今年(2019年)3月に単行本として刊行された第2弾『わたし、定時で帰ります。ハイパー』は、吉高由里子さん主演でドラマ化(TBS系)され、今月(4月)スタートする。ちょうど今月から働き方改革関連法が順次施行されることもあり、タイムリーだ。

仕事観、働き方は各人各様

 本書は「第一章 皆勤賞の女」「第二章 スーパーワーキングマザー」「第三章 会社に住む男」「第四章 期待の新人」「第五章 仕事が大好きな人」と、仕事観も働き方も異なる5人が登場する。

 東山結衣は32歳、新卒でIT系企業に入社。会社から徒歩5分の上海飯店のハッピーアワーは、18時半までに注文すればビールの中ジョッキが半額になる。結衣は入社以来、どんなに繁忙期でも必ず定時に帰ることにしている。ところが、ベンチャー企業から転職してきた新しいマネジャー・福永清次の最初の仕事となる案件で、結衣はチーフを任される。この福永という男が、とんでもないブラック上司で......

 「皆勤賞の女」の三谷佳菜子は、とにかくまじめで有給休暇もとらない。他の人がとるのも許せない。「スーパーワーキングマザー」の賤ヶ岳八重は、双子を出産してわずか6週間で職場復帰。保育園に入れるまで夫が育休を取得。「会社に住む男」の吾妻徹は、仕事の進め方が非効率。仕事が終わらず、タイムカードを押した後もサービス残業をしている。「期待の新人」の来栖泰斗は、結衣のアシスタント。問題にぶつかるとすぐ「辞める」と言っていたが、徐々に戦力になりつつある。「仕事が大好きな人」の種田晃太郎は、結衣のチームのサブマネジャー、結衣の元恋人。福永に恩義があり、福永の無茶ぶりに応えてしまう。

 ブラック上司、個性の強い同僚に囲まれ、結衣はチーフとして数々の難局をどう乗り切るのか。果たして、定時に帰る主義は貫けるのか――。

「社畜体質がいまだに染みついていて・・・」

 著者の朱野帰子さんは、東京都生まれ。2009年『マタタビ潔子の猫魂』でダ・ヴィンチ文学賞大賞を受賞。13年『駅物語』がヒット。15年『海に降る』が連続ドラマ化された。新潮社ホームページ内の本書の特設ページでは、朱野さんのインタビューが掲載されている。最初に勤めた会社での職場環境や小説家になってから感じたことを、朱野さんは率直に語っている。

「会社員時代の社畜体質がいまだに染みついていて、フリーになってからも抜けていないです。会社を離れて自由になったはずが、どうしたら多くの人に読んでもらえるか考え過ぎて、昔よりも自分を追い込んでいたり......」
「でも、24時間体制で書いてもいいものができるとは限らない。もしかしたら休まないのは自分への言い訳なのかなと思ったりもします。これだけ働いてダメだったんだからダメでも仕方ないと言えるじゃないですか」

 登場人物の個性がくっきりと浮かび上がり、台詞も行動もリアルに感じられるのは、朱野さんの実体験が反映されているからだろう。「私も何が正解なのか分からないからこそ、この小説を書いたのかもしれません。...ずっと探し続けることで理想に近づいていけたらいいですね」と朱野さんは締めくくっている。

 職場のルール、上司、同僚に対する不満は、働く人の数だけある。結衣が物語を動かしていくように、一人一人が主人公になり、現実を少しずつ変えていくことはできるのではないかと思えてくる。本書は、1度読んだら本棚におとなしく収まる小説ではなく、読者が職場に新しい風をもたらすことを応援してくれる小説だ。

 本書は18年に新潮社より単行本として刊行され、今年文庫化されたもの。

  • 書名 わたし、定時で帰ります。
  • 監修・編集・著者名朱野 帰子 著
  • 出版社名株式会社新潮社
  • 出版年月日2019年2月 1日
  • 定価本体590円+税
  • 判型・ページ数文庫判・360ページ
  • ISBN9784101004617
 

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