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奇妙な味わいの音楽ミステリー

  • 書名 綾峰音楽堂殺人事件
  • 監修・編集・著者名藤谷治 著
  • 出版社名ポプラ社
  • 出版年月日2019年6月10日
  • 定価本体1600円+税
  • 判型・ページ数四六判・314ページ
  • ISBN9784591163221

 「音楽ミステリー」というジャンルがあるかどうか分からないが、本書『綾峰音楽堂殺人事件』(ポプラ社)は、音楽にかかわる人たちが登場するミステリーである。

 東京から数時間の綾峰市にある綾峰県立音楽堂の最終公演で殺人事件が起こる。小説家のフジツボ・ムサオは旧知の音楽評論家討木穣太郎の誘いで公演を訪れ、事件に遭遇する。

最終公演で起きた殺人事件

 最終公演の演目は、以下の3曲で構成されていた。

ベルリオーズ作曲 序曲「ローマの謝肉祭」作品九
ブラームス作曲 ピアノ協奏曲第一番 ニ短調 作品十五
ハイドン作曲 交響曲第四十五番 嬰ヘ短調「告別」

 フジツボは、このプログラムに不穏なものを感じていたが、それは現実のものとなる。「ローマの謝肉祭」は、二管編成で総勢71人だったが、続くブラームスのピアノ協奏曲第一番では46人に減り、最後の曲になると登場した音楽家はわずか18人だった。そしてそれは音楽堂を本拠とする綾峰フィルの正規メンバーのほとんど全員だった。

 さらに「告別」が始まると、音楽の途中から楽団員はロウソクを吹き消し、一人また一人と立ち去っていく。最後は指揮者のほかには、たった二人のヴァイオリニストだけが残るのみであった。その時、遠くから悲鳴が聞こえた。殺されていたのは、音楽堂の取り壊しをラジオの番組で唱えていたDJの吉見祐哉だった。

 ここから第二章になり、フジツボが調べた事件の背景が、時間をさかのぼり小説風に記述される。本職が大学の英文学教授である討木が、綾峰フィルの特別顧問を引き受けた事情や音楽堂の取り壊しと綾峰フィルの廃止に反対した経緯がつづられる。また被害者の吉見が東日本大震災を機に、綾峰に戻り、ラジオのDJに転身したことや音楽堂廃止をキャンペーンのように取り上げたことが説明される。

 音楽堂は取り壊され、数年後からの開催が計画されている「あやみねトリエンナーレ」に合わせて、美術家のための巨大アトリエを主とした複合文化施設がつくられることになっていた。

地方の文化行政の現状

 後半は綾峰における地方政治家の確執や被害者のDJ吉見祐哉の屈折した「野望」や楽団員との恋愛なども明かされる。地方自治体における文化行政や市民運動のあり方にも目が向けられる。綾峰という架空の地方都市が舞台になっているが、本書で書かれている地方の実情は、全国どこでも共通のものだろう。

 そして最後に明かされる狂気に背筋がぞくっとする。音楽が舞台となる殺人事件には、音楽への深い理解が背景にあったのだ。奇妙な味わいの音楽ミステリーが誕生した。

 著者の藤谷治さんは、2003年に『アンダンテ・モッツァレラ・チーズ』でデビュー。ほかに『船に乗れ!』、『世界でいちばん美しい』(織田作之助賞受賞)などの著書がある。

 

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