読むべき本、見逃していない?

東西の「京」を結ぶ最初の鉄道は「中山道ルート」のはずだった!

  • 書名 ふしぎな鉄道路線
  • サブタイトル「戦争」と「地形」で解きほぐす
  • 監修・編集・著者名竹内正浩 著
  • 出版社名NHK出版
  • 出版年月日2019年7月10日
  • 定価本体950円+税
  • 判型・ページ数新書判・302ページ
  • ISBN9784140885925

 東京と京都を結ぶ鉄道がもしも中山道沿いの山中に最初につくられていたら、日本の近現代史はどうなっていただろうか? 「そんな疑問は馬鹿げている。現に東海道線が敷かれているではないか」と思うだろう。しかし、明治16年(1883)、政府は東京と京都間の鉄道として、中山道幹線の建設を内定していた。ところが群馬・長野県境の碓氷峠など難所が目白押しであることがわかり、東海道ルートが逆転・浮上したのは、その3年後のことだった。

陸軍がルートに口出し

 本書『ふしぎな鉄道路線』(NHK出版新書)は、そんな鉄道敷設にまつわる歴史的経緯を解き明かした本だ。特に陸軍が国防的な見地からルート選定に大きな影響力を持っていたことを各地の事例で紹介しているのが興味深い。

 著者の竹内正浩さんは1963年生まれ。地図や近現代史をライフワークに取材・執筆をしている文筆家、歴史探訪家。

 本書によると、陸軍大学校教官として来日したドイツ陸軍のクレメンス・メッケル少佐は、海岸防御の観点から、東京から名古屋までの経路が中山道経由から東海道経由に変更したのを非常に悔やんだという。神奈川県の藤沢から小田原までと、静岡県の沼津から愛知県の豊橋までの約200キロの区間の警備が戦時には困難になると指摘した。

 陸軍参謀本部は明治21年(1888)に『鉄道論』という本を出版し、鉄道を軍用に改良することを強く訴えた。そして東京と青森を結ぶ現在の東北線(日本鉄道という「第二官鉄」が建設)の盛岡以北のルートについて、陸軍大臣大山巌は青森県の八戸を通る海岸ルートに難色を示し、代案として秋田県の大館、青森県の弘前を通る内陸ルートを主張した。

 鉄道局はこれに反対した。内陸ルートは工事が非常に困難で工費も工期も増えるとして、当初のルートを主張、陸軍への妥協策として八戸周辺で少し海岸から離れたルートに建設した。八戸駅(当時は尻内駅)が市街地から離れているのはそうした経緯があったのだ。

 東北地方2本目の幹線である奥羽線は、福島から東北線と分岐し、山形県、秋田県を通過し、青森に至る路線だ。竹内さんは「徹底して内陸を通る路線であることがわかる。江戸の仇を長崎でという気がしないでもないが、陸軍は真剣だった。清国をはじめとした、対外的脅威を深刻にとらえていたということだろう」と書いている。

渋沢栄一が秋田の海岸ルートを主張

 秋田県の秋田~鷹ノ巣間のルートについて激論が交わされたことを知り、評者は驚いた。地元でもほとんどそうした経緯は知られていなかったからである。最有力候補は「仁別線」という内陸ルートで、ほとんど人家のない山中を通るもの。陸軍次官児玉源太郎が軍事上の観点から「仁別線」に決めてほしいと大演説をぶった。これに反対したのが実業家渋沢栄一だった。物資の集散地になる可能性のある海岸の能代を通る「檜山線」を主張した。採決の結果、1票差で渋沢の主張が通った。もし陸軍の主張が通ったら、秋田の近代はまったく別の道をたどったと思うと、出身者としては肝が寒くなる思いがする。

 本書はこのほか、なぜ横須賀線はトンネルが多いか、なぜ山陽本線に急こう配の難所があるか、なぜ九州の巨大駅は幻と消えたか、なぜ新京成線は曲がりくねっているか、など鉄道と戦争の関係を史料と地図を駆使して深掘りしている。

 本書とは少し離れるが、全国各地に「鉄道忌避」伝説が残っている。駅や路線が市街地から離れたところにあるのは、蒸気機関車による火事を心配したためとか、町が寂れるのを住民が嫌がったとか伝えられている。しかし、その多くが誤りであったと各地で近年明らかになってきた。用地買収の手間がかからないよう市街地を避けたのは当然だし、できるだけ直線的にルートを選定し、あとは工事がしやすいよう地形を考慮したのである。

地形図がなかった時代

 本書の「はじめに」に竹内さんはこう書いている。

 「明治の新政府は、発足後まもなく、日本の国土に鉄道を敷設する決定をした。だが、当時の日本には、地表の形態を正確に表示した地形図すら存在しない。昨今、伊能忠敬の地図がもてはやされているけれど、あれは海岸線を記載してあるだけの図にすぎない。むろん地図の一種ではあるが、地形図ではないのだ。地形図が存在しないから、どのあたりに鉄道を敷設すればよいのかというだいたいの目星をつけることもできない。いちいち測量するしか術がないのである」

 地形図もない時代、山に踏み入り川を渡り、鉄道が敷設できるルートを一つひとつ探し歩いた先人の苦労がしのばれる。

 本欄では竹内さんの著書として、『旅する天皇――平成30年間の旅の記録と秘話』(小学館)、『天皇の旅と寄り道』(ベスト新書)を紹介済みだ。  

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