読むべき本、見逃していない?

「生きてるって言ってみろ」の歌手にして詩人、画家の詩文が文庫に

  • 書名 一人盆踊り
  • 監修・編集・著者名友川カズキ 著
  • 出版社名筑摩書房
  • 出版年月日2019年6月10日
  • 定価本体820円+税
  • 判型・ページ数文庫判・351ページ
  • ISBN9784480435842

 月遅れのお盆、それも新盆を前に『一人盆踊り』(ちくま文庫)というタイトルが気になり、本書を手にした。

酒豪の交友録

 著者は「生きてるって言ってみろ」などの代表曲で知られる歌手の友川カズキさん。詩人、画家、俳優、競輪愛好家としても知られ、多彩な顔をもつ人だ。これまでに十数冊の著書もあるが、文庫本は初めて。新旧の随筆と詩篇を精選した文庫オリジナルだから、「血だらけの魂を剥き出しにして生き抜いてきた」男を知るには、格好の本だろう。

 友川さんと言えば、自他ともに認める酒豪・宴会師である。歌い出した頃、ステージが恐くて仕様がなく酒を呑んで上がったという。「不思議と足を震えがピタリと止まり、まっすぐ歌える気がした」。

 酒を介したさまざまな交友録の趣もある。作家の中上健次とはFM番組で共演し、収録後スタッフらと新宿ゴールデン街へ流れた。一緒だった歌手の三上寛さんが「友川、今度お前のところでナベ料理パーティーやるべ」と言い出し、たちまち決まった。当日遅れてやってきた中上は三畳間に泊まり、翌朝二人でビールを飲み始め、たちまち2、3本が空になった。酒の勢いもついて徹底的に呑むことに。本棚の森敦の『月山』を指し感想を求められ、「気味悪いというか不思議な小説だったですねえ」と言うと、「よし森敦の所へ行こう」という成り行きになった。持参した自作レコードをかけてもらうなど、いちおう歓待してくれたが、なんとも居心地の悪い様子が行間から伝わってくる。その足で二人はゴールデン街へ行き、大演歌大会になったそうだ。

 コメディアンのたこ八郎とは9日間、渋谷の東横劇場で赤塚不二夫作『バカ田大ギャグ祭』の末席に出演。お互い出番のない時に呑んでいるうちに親しくなった。師匠の由利徹さんも「こら!たこ! またまた酒ばっかり呑んで、今度セリフ忘れたら承知しないからな」と叱っているうちに、自分も座に加わり、翌日は酒を差し入れてくれたという。その後親交を深め、水死したコメディアンを弔うため遺体が安置されている小田原警察署まで向かった、と書いている。

 中上健次、たこ八郎と鬼籍に入った人のことを書いているが、「私が私に殺される」と題したエッセイは「命を落とすところだった」で始まる。個展中に具合が悪くなり、一滴も酒を呑めず、何かが自分に入り込んでくるような気がした。翌朝目覚めたら、何かが取り憑いているような気がした。個展に出した「お地蔵さん」だと気が付いた。僧侶でもある歌人の福島泰樹さんに祈祷してもらった。

 「死霊を自ら呼び込み、慰め、詫び、説き、また格闘し、一歩もしりぞかぬもののようだった」

 お地蔵さんがある現場では以前火事があり、6人が焼け死んでいたのである。これで成仏したと安心し、翌日、再び線香と水をあげに行ったら、「またやられてしまった」のだ。その顛末はあまりにシリアスで、ここに書くのも遠慮したい。

生活の中心は競輪

 競輪愛好家としての文章も味がある。競輪をやるために川崎に住んだ訳ではないが、「ホームバンクの川崎は、それこそ自転車ですぐだし、花月園は隣の鶴見駅、平塚はその先、あと南武線に乗れば、ほどなく京王閣、立川であり、ちょっと沿線で足を延ばすと、小田原、大宮、松戸、千葉、伊東、取手、とまあ、ありもあったりである」。

 「いま、生活の中心は競輪である」と断言する。生活の破綻から日雇いの仕事もするようになったが、「歌とか絵の仕事で金が入るときは入るのだから、吉岡(注 吉岡稔真選手)のレースは郵便貯金でもする気で、勝負をすればいいのである。競輪がもし、私の病気なら、生涯、治らないでほしい」。

 昔、「破滅型」という言葉が文士を指してあったが、友川さんはさしずめ「生き残った破滅型」というところか。齢六十九になった。

 評者は友川さんを描いたフランスのドキュメンタリー映画『友川カズキ 花々の過失』の上映会の直後、たまたま会場近くの飲み屋で友川さんと同席し、言葉を交わしたが、実にいい酒呑みだったことを記しておきたい。

 飲み屋で一度会っただけの又吉直樹さんが「悟らず狂わず愚かであり続ける覚悟を決めた人ほど強いものはない。美しい魂。乾杯。」と帯に文を寄せている。  

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