本を知る。本で知る。

人生を本当に充実させるための知的生産術

調べる技術 書く技術

 「月に500冊読み1200ページ書く」作家の佐藤優さんが、自身の知的生産術をまとめたのが、本書『調べる技術 書く技術』(SB新書)である。

一般の人こそ知的生産術を身につけて

 佐藤さんは毎月平均2冊のペースで本を出し、コラムや連載の締め切りの数はひと月あたり約90もあるというから、上記の数字は決して大げさなものではない。評者も毎週複数、佐藤さんのコラムを目にする。

 知的生産術をテーマにした本は世にあふれているが、そうした本の著者がほかにどんな本を出しているかというと首をひねりたくなることも少なくない。知的生産術だけが自己目的化し、作品としての本が血肉化していないのだ。

 その点、佐藤さんの本のアベレージは高い。本欄でも昨年来、『友情について 僕と豊島昭彦君の44年』(講談社)、『未来のエリートのための最強の学び方』(集英社インターナショナル 発行、集英社 発売)、『いま生きる階級論』(新潮文庫)、『埼玉県立浦和高校』(講談社現代新書)などを紹介している。

 具体的なインプット、アウトプットの方法は後述するとして、なぜいま、こうした技術が必要なのか、佐藤さんはこう力説する。

 「知的生産とは社会の限られた人々だけが行うものではない」
 「問題は『知的な生産をするかどうか』ではなく、『生産活動のなかの知的な〈濃度〉を、いかに高めるか』だ」
 「知的生産の技法を磨き、さらには人間関係構築力――俗にいう『コミュニケーション能力』を高める。そうすることで、読者が人生そのものの充実度を高めていくというのが、本書の最終目的である」

 つまり作家やクリエイターといった一部の人ではなく、一般の人こそ知的生産術を身につける必要があるというのだ。分析力はどんどんAIが担うようになるから、人間は付加価値をつける総合力を鍛えなければいけないという。

新聞と高校教科書の再読がインプットの基本

 「知性の土台」になるインプットの1つは、新聞を読むこと。もう1つのインプットは、基礎的な知識・教養を身につけるためのインプットで、基本は高校の日本史A、世界史A、政治経済、数学Ⅰ・Aの教科書だ。ほかに書籍として、『試験に出る哲学』(NHK出版新書)、『もう一度読む山川倫理』(山川出版社)などを勧める。確かに最近、書店ではこうした教科書や参考書をよく目にする。学び直しをしている人が多いということだろう。

 ネットの利用は使い方によっては「鬼門」になると警告する。「NHK NEWS WEB」、新聞のWEB版、オンライン辞典・辞書の「ジャパンナレッジ」(有料)の3種類に絞ることが肝要だ。

 「何を読まないか」も大事で、ネットニュースをその代表に挙げる。閲覧歴で情報が機械的に選別され、情報を広く見渡す「概観性」が失われるデメリットがあるというのだ。つまり視野が狭くなること。

 また、SNSも時間の無駄で、止めた方がいいという。「SNSを使うか、使わないかで、生涯所得と出世が左右される」と言っても過言ではないという。

アウトプットは手書きノート1冊に

 次にアウトプットだ。すべての情報は手書きの1冊のノートにまとめるのが基本だ。メインは「日誌」。何をしたか、誰と会ったか、どこに行ったかなど、一日を振り返ることが、日々の仕事の効率アップにつながる。また行動の記録が「記憶のトリガー(引き金)」になり、過去の出来事が将来の役に立つという。知識を定着させるため、読んだ本の抜書きと、自分のコメントも大事だ。佐藤さんの場合、記録はノート、予定は手帳と使い分けている。

 また、これらのインプット、アウトプットをする前提となる「インフラ整備」としてのお金の貯め方、使い方も指南している。「自己福祉」が継続的な知的活動の基礎になるからだ。「インプットに使うのは可処分所得の10%まで」など現実的なアドバイスも多い。

 知的生産術なんて、自分とは関係ないと思っている人にこそ読んでもらいたい本だ。「知的生産のための知的生産」ではなく、「人生を充実させるための知的生産」という著者の願いに共感した。  

  • 書名 調べる技術 書く技術
  • サブタイトル誰でも本物の教養が身につく知的アウトプットの極意
  • 監修・編集・著者名佐藤優 著
  • 出版社名SBクリエイティブ
  • 出版年月日2019年4月15日
  • 定価本体800円+税
  • 判型・ページ数新書判・182ページ
  • ISBN9784797398649
 

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