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「豚もおだてりゃ木に登る」で人は育つのだ

    職場活性化で大事なのは、相手のモチベーションを高めるコミュニケーションを行うことだ。正論を言って冷や水を掛けるだけでは、マネジメント失格である。小さな成果を見つけ出し、褒め称えて、さらに大きな木に登ってもらおう。

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「お前にはできる」と励ましてくれた隣の所長

    私はサラリーマン時代、営業部門で、3カ月間「受注ゼロ」だったことがある。たまたまその前に売れていたこともあり、難易度の高い大手企業だけを担当したのが原因だったのだが、とにかく売れなかった。沈みがちな気持ちを盛り上げようと、坊主頭にしたり、東京都府中市の大国魂神社に厄除けをお願いしたりした。

    営業というと、根性と神頼みだけの職場を連想するかもしれないが、実際には理知的な人が多かった。意外にも、研究職を好みそうな東工大卒業生の就職先ナンバーワン企業だったし、MIT、プリンストン、UCバークレー卒の同期もごろごろいた。ただ彼らは、いざ成果を出すべきときには、なりふり構わないところもあり、私もそんな先輩や同僚たちに大いに影響された。

    ある日、坊主頭に驚いた二つ隣の住宅情報系部門の所長から呼び出された。その頭はどうしたのかという質問に続き、

「もう3カ月、いや、半年売れなくても、お前は営業に残れる。お前にはそれだけの存在価値がある。目先の売上ではなく、会社や職場に対して何ができるかというもっと大きなものを目指せ。お前にはそれができる」

といった主旨のことを諭された。

    直属の上司でもない、しかも別事業部の所長が何を根拠にそんなことを言い出すのだろうかと半信半疑ではあったが、それでも、自分の中で何かが弾けた気がした。それが直接的な引き金になったかどうかはわからないが、事実、次の四半期の営業成績は全国1位となった。

正論でモチベーションを低下させる上司は害悪だ

    ここで思いつくのは「豚もおだてりゃ木に登る」という言葉だ。これを組織として真顔で肯定できる部門は活性化する。正論で相手のモチベーションを低下させる上司や同僚は、マネジメント的には害悪である。そんな正論は、なんの価値も生み出さないどころか、組織の価値を低下させるからだ。「いかに相手のモチベーションを高めるか」という判断基準でコミュニケーションができる組織こそ、幼稚なのではなく、逆に成熟した組織であることを念頭に置いておきたい。

    ときには、誰もが持っている「自己評価の甘さ」、言い換えれば「前向き幻想」を利用することも考えたい。例えば新人に対し、あなたは同期で何番目くらいに優秀だと思いますか、と質問すると「みなさん優秀なので、自分は下の2割くらいじゃないかと…」と謙虚に答える。ところが、この質問を無記名のアンケート方式にすると、事態は一変する。なんと6割の新人が、自分は上位の2割に入っていると答えるのだ。

    心理学ではそういった現象を「ポジティブ・イリュージョン」と呼ぶという。こんな勘違い社員には、冷や水を浴びせてモチベーションを下げるよりも、勘違いにドライブを掛けてしまったほうがいい。私自身もそう育てられた実体験が何度もある。振り返れば、間違いなく効果的な方法だったと思わざるを得ない。

小さな成果を見つけ出して褒め、大きなものへつなげる

    人間という生き物は、たとえどんな小さくても、希望の光が見えたとたんにギアが入って、やる気がみなぎるようにできている。活性化した組織を観察すると「やればできる」と思っている社員が多数派を占めている。

    そんな職場づくりをするためには、小さな成果でも見逃さないマネジメントをすることだ。小さな成果を見つけ出し、そのことを褒め称え、さらに大きなものへとつなげていくきっかけを皆で探すことで、何らかの手ごたえが現れる。その手ごたえを重ねるうちに、「小さな光」が見えてきたような気になるのである。

    会社や商品の説明を一方的に続けるだけで、なかなか成果の上がらない新人営業マンには、ふたつのことを諭す。まずは会話の主語を、すべて相手側にすること。「御社の直近の課題感としては」「○○課長の最近の関心事の中で」などと切り出すように変えるのだ。ふたつ目は、相手に訊かれるまでは、商材の中味について話さないこと。

    少し様子をみる中で、その新人君が「今日は○○について質問された」と報告してきたら、それはソリューション営業の第一ステージに立った証拠だ。そう認めてあげることで、新人君はきっと手ごたえを感じてくれるだろう。

大塚 寿

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