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「上司のパワハラ」「顧客の無理な注文」も労災に

   労災(労働者災害補償)というと、工場での作業事故や通勤途中の交通事故が思い浮かぶが、うつ病などの精神疾患や自殺についても、原因が「職場のストレス」にあるときは労災が下りる場合がある。その労災認定をする際の判断基準が10年ぶりに見直され、新たに「パワハラ」や「違法行為の強要」などが加えられた。

10年ぶりに改正された認定基準

精神疾患による労災の申請件数は年々増えている
精神疾患による労災の申請件数は年々増えている

   仕事で強いストレスにさらされて、うつ病などの精神疾患にかかった場合、労災による療養補償や休業補償が認められる。厚生労働省によると、2007年度の精神疾患による労災の申請件数は952件。そのうちの28%にあたる268件に労災支給が認められている。

   この「精神疾患による労災」を認定するときに、労働基準監督署が用いているのが「職場における心理的負荷評価表」だ。この表には、「悲惨な事故や災害の体験をした」「退職を強要された」といった職場で強いストレスを引き起こす出来事が列挙され、それぞれの心理的負荷(ストレス)の強度が記されている。ストレス強度は1から3までの3段階で、「3」がもっとも強い。

   この「職場における心理的負荷評価表」は1999年に作定されたものが使われていたが、労働環境の急激な変化を受け、10年ぶりに改正。新しい評価表は2009年4月6日、厚労省から各都道府県の労働局に通知された。

「パワハラ」や「違法行為の強要」など12項目が追加

   今回の改正では新たに12項目がストレスの原因となる出来事として追加され、計43項目になった。目を引くのは、「ひどい嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」(いわゆるパワハラや職場いじめ)が、もっとも重い「強度3」で新設されたことだ。上司や同僚の言動が通常の業務指導の範囲を超え、人格や人間性を否定するような性質の場合はこの項目で評価されることになる。

   そのほか、「違法行為を強要」や「達成困難なノルマ」「顧客や取引先の無理な注文」なども追加された。新たに加えられた12項目は次のとおり。

 【強度3】
(1)ひどい嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた

 【強度2】
(2)違法行為を強要された
(3)自分の関係する仕事で多額の損失を出した
(4)達成困難なノルマが課された
(5)顧客や取引先から無理な注文を受けた
(6)複数名で担当していた業務を1人で担当するようになった

 【強度1】
(7)研修、会議等の参加を強要された
(8)大きな説明会や公式の場での発表を強いられた
(9)上司が不在になることにより、その代行を任された
(10)早期退職制度の対象となった
(11)同一事業場内での所属部署が統廃合された
(12)担当ではない業務として非正規社員のマネージメント、教育を行った

   今回の改正の背景について、臨床心理士でシニア産業カウンセラーの尾崎健一さんは次のように話している。

「ここ数年、パワハラやうつ病に関して労災申請して不認定となったが、裁判でひっくり返るケースが増えている。裁判所の判断との整合性を取るため、労災の判断基準も変えなければいけないということだろう。また昨今の経済環境の悪化で人権が無視されやすくなっているので、それに対応したという見方もできる」