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「生粋の遊び人」DJが語る「フリーランサーの矜持」

   以前、某ラジオ番組にゲスト出演した時のこと。ちょうど派遣切りが話題になっていたころで、打ち合わせでも自然と話がそちらに流れた。その時、雇用問題なんてとんと縁の無さそうなDJが語った言葉は、今でも忘れられない。

「城さん、今、問題になってる派遣の話、僕はメディアの論点がちょっと違うと思うんですよ。あれって、改革のせいではなくて、逆に改革が足りないからですよね」

   彼はいわゆる"フリー"のジョッキーだ。テレビのアナウンサーなどもそうだが、放送業界には局の正社員とフリーの二種類の人間がいる。自前のアナウンサーだけで固めず、あえてフリーを起用する理由は、調整弁として使うためだ。

   番組編成や予算の都合上、仕事の量は上下する。どうしても、どこかで雇用調整しなければならないが、正社員だと難しい。そこで一定程度フリーを混ぜておき、需要に応じて調整するわけだ。ついでにいえば、彼らフリーなら予算に応じてギャラも交渉できる。正社員ではそれすら難しい。

   そういう、いわば建前と本音の二重構造を身をもって経験しているからこそ、彼にはニュースや新聞に踊る識者のコメントが偽善に見えて仕方ないのだ。

非正規が「選択肢の一つ」になりえる「成熟した社会」

   仮に、一部の政党が言うように「規制緩和で格差が拡大したのだ、だから今こそ正社員で雇わせるべきだ」と企業に義務付けてしまったらどうなるか。置き換えのきかない一部の実力者は正社員として雇用されるだろうが、その他フリーランサーは一斉に切り捨てられるだろう。そして、局アナの残業がちょっぴり増えることになるだろう。同じことは、全業種でも起きるはずだ。

   彼は「勉強もろくすっぽしたことがないし、生まれてこの方、組織で働いた経験など無い、生粋の遊び人」である(本人談)。そういう人が全国紙の論説委員より鋭い視点を持っていることに、僕は少々驚いた。

   いや、ほんとは記者たちも気づいているのかもしれない。気づいた上で、蓋をしようとしているだけかもしれない。彼ら自身、そういった正規と非正規の二重構造の中で、恩恵をこうむっている身分なのだ。

   「でもあなたなら、ひょっとしたら正社員になれるかもしれないよ」と、最後に振ってみたところ、彼は笑いながらこう言った。

「勘弁してくださいよ、この年になって正社員なんて」

   考えてみれば、全員正社員でなければならない社会というのも息苦しそうだ。非正規が単なる調整弁ではなく、選択肢の一つになりえる社会こそ、本当の意味での成熟した社会なのだろう。

城 繁幸

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