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レジの金を盗んでいた「店長」 どう処分すればいい?

   お金を扱う仕事において「金額が合わない」というのは、ときどき起こることだ。理由はミスの場合もあるし、不正行為が行われている場合もある。ある会社では、店長がレジの金を横領していたことが発覚し、どの程度の処分にすべきか頭を悩ませている。

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事情を知らない他の店舗に配置転換してよいものか

――小売業の経営者です。都内に店舗をいくつか構えており、それぞれ店長に運営を任せています。ここ数か月、ある店舗の売上が下がっており、調べてみるとレジの金額が合わない日がたびたび出ていたことが分かりました。
   その店舗は店長とスタッフ3人で運営しています。彼らを疑いたくないと思いながら、期末の個別面談を兼ねて、何か知っていることはないかと聞き取りをしたところ、信じられない話が出てきました。店長以外のスタッフから、
「レジのお金が足りなくなるのは、店長が店に来た日が多い気がする」
「店長は最近、お金に困っているようだ」
という証言が次々と出てきたのです。
   そこで、店長を呼び出してそれとなく水を向けると、レジからお金を抜いたことをあっさり認めました。どうやら仕事のストレスから、ブランド品の買い物をしすぎてしまい、クレジットカードの返済に困って、魔がさして盗んでしまったということです。
   スタッフは以前から薄々気づいていたようですが、通報すると仕事がしにくくなるため、見てみぬ振りをしていたようです。このこともあってモチベーションが下がり、店の雰囲気も悪くなって、売上にも影響が出たのだと思われます。
   この店長は創業時からのメンバーで、とても信頼していたのに残念でなりません。店長のボーナスは店の業績に連動しているので、最近の借金返済はより苦しくなり、抜いた金額もだんだん大きくなっていったようです。
   当然、解雇も考えましたが、今後横領したお金を返済してもらう約束もしたので、事情を知られていない他の店舗に配置転換して働いてもらおうと考えています。ただ、本当にこれでよいのか、漠然とした不安も残っているのですが――

社会保険労務士・野崎大輔の視点
ルールに基づき厳しく処分しないと「組織」は崩れる

   今回の店長の行為は刑法上の「横領」に当たります。厳正な処分を行わないと、ルールは意味をなさなくなり、会社は大きなリスクを抱えることになります。1つめは「組織のモラル崩壊」を招くリスクです。事件を知ったスタッフが、大事な売上を盗んでも厳しく処罰されないと知ったら、「それなら自分も」と考えるようになるかもしれません。他の店に噂が広がり、真面目なスタッフが「こんなところでは働けない」と辞めてしまうおそれもあります。金額の多寡によって処分の重さを変えることも考えられますが、今回は店長という責任の重さや部下への影響を鑑み、解雇という処分が妥当と思います。信賞必罰(賞罰を厳格に行うこと)は、組織の秩序を維持するために不可欠です。

   2つめは「再犯」のリスクです。本人は反省しているようですが、借金という根本的な問題が解決しないかぎり、さらに巧妙な手口を使うかもしれません。配置転換ではなく解雇して、他の店長には経緯をきちんと説明しておく必要があるでしょう。

臨床心理士・尾崎健一の視点
横領をする人の心理を考えた「防止策」を打とう

   深刻な不況で、横領のリスクは高まっています。お金を扱う仕事には、横領を前提とした防止策が必要です。今回のケースでは、レジの金額チェックをきっかけに発覚したようですが、早期に発覚するしくみになっていれば被害額もより小さくなったでしょうし、店長も犯行を重ねなくても済んだのでは。伝票のダブルチェックや、問題が起きたときの報告ルールなどを明確にしておくことは、横領の防止につながります。

   また、横領を行う人には「動機」があります。仕事面で上からプレッシャーをかけすぎたりすると、会社への恨みを募らせ、不正な処理に拍車をかけます。業績が上がらない社員は頭ごなしに叱るのではなく、具体的な行動を指示するアプローチに変えましょう。また、私生活の変化も重要なチェックポイントです。悩みがありそうな人に声をかけて相談に乗るだけでも、事前の防止策になります。横領をした人は、急に高価な買い物をしたり服装が派手になることも多いので、注意が必要です。

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(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。