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社員からの「改善要求」 どこまで聞けば気がすむのか

   会社には、社員からの不満がつきもの。あまり気にしすぎてもキリがありませんが、放置しておくのも不安があります。ある会社では、改善を進めるたびに要求がエスカレートするような気がして、どうすればよいのか頭を抱えています。

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女子トイレを拡張し洗面台も入れ替えたのに

――テレマーケティング会社の人事担当です。他業種から転職してきたのですが、離職率が高いのに驚きました。アルバイトや派遣もなかなか定着せず、求人・採用・育成コストのロスもバカになりません。

   そこで離職率を下げるために、従業員に不満足の聞き取りをして、できるだけ要望に応えようと考えました。まずは不満の多かったトイレの改装を行い、女性トイレを拡張しました。私物などを置けるよう洗面台も入れ替えました。

   のどを酷使する仕事なので加湿器や空気清浄機を置き、水分も多く摂るのでベンディングマシンを無料にしました。正社員用に育児休業の延長制度を設けたり、勤務時間の柔軟化を図ったりしました。

   しかし、最近は要求がどんどんエスカレートしているように思えます。

「このビルは古くて空調の調整が効きにくい。別のビルに引っ越してください」
「同僚のあの人と相性が合わないので、部署を変えてください」

   しまいには「電話さえあればできる仕事なんだから、自宅でやってきていいですか」とか、品質向上のために本部が行う顧客満足度調査に対して「ハラスメントじゃないですか」などという始末。

   さすがに、その要望には応えられないと言うと「じゃあ辞めますよ」とヘソを曲げ、実際辞めていった社員やパートも1人や2人ではありません。甘やかしすぎたのかもしれませんが、こういう状態になってしまい、どこから手をつけてよいのか分からなくなってしまいました――

社会保険労務士・野崎大輔の視点
労働環境の改善だけでは不満は根絶しない

   従業員満足の向上には、2つの方向性があります。ひとつ目は、労働環境や給与の改善によって、仕事をする上での不満足を軽減する方策です。これを「衛生要因の改善」といいます。ふたつ目は、仕事の達成感ややりがいを高めることで、仕事そのものへの満足度を高める方策です。これを「動機づけ要因の改善」といいます。

   離職率の抑制には両面の取組みが必要ですが、動機づけが低いまま労働環境だけ改善されても、効果は上がりません。また、衛生要因の改善がもたらす効果には、時間によって薄れてしまうという難点もあります。

   コストのかかる改修工事はこのくらいにして、例えば、受け付けたクレームをまとめ、改善提案をフィードバックする流れを作るようにしてはどうでしょう。単なる「お客の相手」ではなく「マーケティングの一部」を担っているという意識が高まり、達成感が得られるようになるのではないでしょうか。

臨床心理士・尾崎健一の視点
コストのかからないストレス軽減策も考えてみては

   従業員満足には「動機付け要因」が不可欠ですが、非常に体力を要しストレスもかかるテレマーケティングの仕事においては、「衛生要因」も軽視できません。コストをかけないメンタル面でのストレス軽減策も取り入れるとよいでしょう。

   まず、決められた休憩時間を必ず取ってもらうようにしましょう。休憩室に甘いお菓子を置くと、ブドウ糖がイライラを和らげます。好き嫌いがあるかもしれませんが、アロマを炊いたり音楽を流したりしてもよいでしょう。身体のエクササイズやストレッチも効果的です。マッサージチェアやサンドバックを置いているところもあるようです。

   また、個人で仕事をしている人たちは、助け合いの精神が生まれにくいものです。リラックスしてお互いにグチが言えるような環境ができれば、気持ちの共有によって気が楽になるのではないでしょうか。

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(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。