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競合からスカウトしてきた本部長のやり方が古い

   グローバルな競争にさらされている業界では、人材の流動化が本格化している。しかし相性やタイミングなど不確定の要素もあり、採用した人材がすぐに成果を上げるとは限らない。そんな中、ある会社の人事部には「今すぐ結果を出す人材をよこせ」というプレッシャーが強まっているという。

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接待に明け暮れ期待外れ

――中堅製薬会社の人事です。業界を襲うM&Aの波に呑まれ、当社でも会社の合併に伴い、部門の再編を余儀なくされています。人の入れ替わりも激しくなり、同業他社からの中途入社も増えているところです。
   人事では現場からのオーダーを受け、ヘッドハンティング会社などと連携を取りながら必要な人材をスカウトしていますが、入社した社員が期待通りの成果を上げられないと、採用窓口の人事にも強いクレームが入ります。
   採用した人が幹部であれば、高給で処遇するので採用コストもバカにならず、本人も人事も成果を厳しく問われます。半年前に入社したマーケティング本部長のA氏も、厳しいチェックを受けつつあるひとりです。
   彼はライバル会社での実績と豊富な経験を買われ、鳴り物入りで入社してきました。「営業体制の革新」が課題で、会社や部下からの期待も非常に高いものでした。
   しかし、入社間もなく、部下たちから口々に不満の声が聞かれ始めました。
   彼らの言い分は、「A氏は仕事のやり方が古いのではないか」というもの。現在の製薬業界では、医師とのつながりの強さだけでなく、ユーザーである患者のニーズを喚起するマーケティングが重視されつつあります。
   にもかかわらず、A氏は大物医師との接待ばかり重視し、期待されていた広告代理店やPR会社との企画交渉が進んでいないというのです。新しいやり方を期待していた部下たちの信用は低下。しかし本人には自信があるらしく、

「僕はこのやり方で結果を出してきた。人のつながりをおろそかにすれば、結局マーケティングはうまくいかなくなる」
と言ってやり方を変えようとしません。まだ営業実績は昨年比で大きく変わっていませんが、このまま部下の不満が大きくなる前に、他の部署に異動させた方がよいような気がしているのですが、どうでしょうか――

社会保険労務士・野崎大輔の視点
本部長のような「地位特定者」は結果がすべて

   マーケティング本部長のようにポスト(役職)を特定して採用した人は「地位特定者」といい、採用時に示された業務内容や目標、役割を達成し、必要な能力や適性を備えていることが前提となります。能力が足りず適性もなく、会社の望む成果を出せそうにない場合には債務不履行となり、解雇事由になります。1年は仕事をしてもらい、結果を見て判断しましょう。一般的に目標の8割以上の結果が出ていれば解雇は難しいとされ、それ未満では異動や降格させることなく解雇が可能です。逆に成果があるのに解雇すれば、訴訟リスクが発生します。

   本部長の評価は結果がすべて。部下に人気がなくても売り上げ数値などを基に客観的に評価すべきです。今回の場合は「営業体制の革新」という課題の優先順位や手順が問題になります。短期的な利益も必要なので既存の手法をおろそかにできないと判断したのかもしれません。定期的に成果を検証し、会社側の考えをフィードバックしましょう。

臨床心理士・尾崎健一の視点
新しい人が入れば「摩擦」も起きる

   中途採用した人が期待通りの成果を上げることができない理由には、本人によるものと、受け入れ側の会社や人によるものがあります。採用時に合意した要件に対する認識が双方で異なっていたのかもしれませんし、実際に入社してみたらなぜか相性が悪くうまくいかなかったというような場合もあります。

   いきなり重要ポストに配属してミスマッチが起こってしまっては、会社の業績に悪影響も出ます。転職に慣れた「渡り鳥」のような人ほど適応が巧みでない場合には、まずは全体を見渡せる部署に配属したり、前任者の下で補助的な仕事をしたりするなど、職場に慣れて人間関係を形成できる「ならし運転」を行うことも考えられます。

   特に職人的な意識の強いベテランの多い職場では、新しい幹部が配属されると摩擦が起きやすくなります。人事はベテランと幹部双方の様子を見て、必要に応じて声をかけて、人間関係のもつれがないか聞き取るケアをすることが望ましいです。


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(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。