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「仕事は上の空」で寿退職しようとする女性社員

   社会人としての責任感が身につくと、自分の行動が他人にもたらす影響を考えるようになります。一方で、プライベートを犠牲にしすぎると個人の幸せが実現できません。ある会社では女性社員の結婚退職にあたり、調整が難しい混乱がおきたそうです。

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「有休完全消化宣言」で残務に混乱

――商社の営業部長です。このたび、入社5年目の女性営業社員Aさんが「寿退職」しましたが、最後に予想外の混乱がおきました。
   彼女は仕事もでき、在職中は大いに活躍してくれたのですが、結婚が決まってからは会社のことは上の空で、休みがちになってしまったのです。
   退職願が出たのは、退職日の1カ月半前。20日間の有給休暇が残っていて、彼女は全て消化することを希望しました。しかし営業部は、ちょうど繁忙期。彼女に抱えてもらっていた案件も多く、引継ぎも残っています。
   私たちとしては、引継ぎはきちんと完了して欲しい、そのために可能なら退職日を延期して欲しいと伝えましたが、それは個人的な理由で受け入れられませんでした。また、有休の取得をずらせないかと尋ねましたが、

「そうしたら、私の有休を全て消化することができなくなる。取得日は変えられない」
と突っぱねられました。それを聞いた課長が「君、残る者にも少しは気を使ってくれないか?」と口を挟みましたが、聞き入れてもらえません。しかたがないので、他の社員を集め、
「みなさんご承知のとおり、Aさんは退職することとなった。もう会社には、ほとんど来ないだろう。負担を強いて申し訳ないが、残ったメンバーに後任を振るから、不明な点を取り急ぎ確認して、私まで報告して欲しい」
と伝えました。その後、部下たちの活躍のおかげで、Aさんの抜けた穴を埋めながら、なんとか乗り切ることができました。
   ただ、うちの部署には他にも適齢期の女性社員が何人かおり、今後も同じようなケースが起きるおそれがあります。スムーズに乗り切るためには、どういう備えをしておけばよいのでしょうか――

社会保険労務士・野崎大輔の視点
退職時の例外として「有休の買取り」を検討する

   会社には、有給休暇請求の時季変更権がありますが、退職日が決まっていて変更の余地がない場合には行使できません。有休取得は労働者の権利ですので、Aさんの希望を通さないわけにはいかないでしょう。一方で、引継ぎ完了はAさんが円滑に退職する大前提です。退職届が出されたときに、会社側から「退職者と管理者のサインをもって引継ぎ完了を確認する」と記した様式書類を、退職時の手続マニュアルと一緒に手渡すようにします。ただし、管理者が悪意をもって退職を引き延ばすことに使ってはなりません。

   残った人たちで残務をカバーしきれない場合、Aさんに有休の「買取り」を交渉することも考えられます。買取りは原則禁止ですが、退職時に取得できず残った部分であれば問題は生じません。買取価格には法的な基準はなく、会社で決定することができます。月給の日割り額という考えもありますし、最低賃金×所定労働時間という会社もあるようです。

臨床心理士・尾崎健一の視点
いつ誰が辞めても何とかなる体制を作る

   外資系企業などでは解雇が決まると、オフィスから即刻退去が求められます。雇用の流動化が進む方向にあることを考えると、「いつ誰が辞めても何とかなるようにしながら仕事を進める」ことは今後重要になると思います。前提として、職務の範囲を明確にすることや、業務マニュアルを作成し後任にスムーズに引き継げるようにすること、記録を残しながら仕事をさせることなどがポイントとなります。私物と備品を切り分けた管理も必要です。

   また、突発的な問題が起きたときには、定型的なルールだけでなく、日頃からの部下との人間関係づくりも重要になります。上司ひとりで解決できない問題と分かっていながら、ここぞとばかり「そんなことは部長がなんとかしてください。私には関係ありません」と悪態をつく人もいるものです。今回は、頼もしい部下たちの活躍で助けられたことが多かったようですが、そういう関係づくりも「何とかなる体制」のひとつと言っていいでしょう。


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(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。