J-CAST ニュース ビジネス & メディアウォッチ
閉じる

男の「育児休業」 中小企業でも取らせるべきか

   厚生労働省が「イクメンプロジェクト」を発足させるなど、男性の育児休業を促進する動きが社会的に広がりつつある。中小企業には「そんな余裕はない」と否定的に考える人が多いが、取らせないことはできるのか。仮に前向きに取り組むとしたらどんなことをすべきなのか。

>>ヨソでは言えない社内トラブル・記事一覧

上司や同僚も納得するかどうか

――中小IT企業の人事担当です。先日、開発部門の30代男性社員が、

「半年間の育児休業を取得したい」
と申し出てきました。
   彼の奥さんが別の会社を経営しており、長期間の休みが取れないので、夫が育児の大部分を担うことにしたのだそうです。正直、「奥さんの会社優先ですか」とカチンとするところもあるのですが・・・。
   もちろん、社会的に育休の取得を促進しようという方向はわかっています。しかし当社のような中小企業では、受け入れ準備が全く整っていないのが実情で、扱いに困っているのが正直なところです。
   当社の業態は受注型で、プロジェクト単位で社員を動かします。したがって育休中はメンバーに入れなければ済むのですが、職場復帰したときにタイミングよく入れるプロジェクトがあるとは限りません。
   場合によっては、クライアントの関係で異動を伴う転勤が必要になったり、しばらく仕事がない状態が続いたりするおそれもあります。
   会社としては、仕事がない社員を雇う余力はないので、できることなら断りたいです。それでも彼が取ると主張するのなら、とりあえず、
「休業中の給料なし」「休業明けの仕事は、会社の都合に従うことを約束する」「休業日数を退職金やボーナスの算定から控除する」「休業中の評価は最低ランクとする」
あたりの条件は呑んでもらわなければなりません。
   ただ、このような条件であっても、職場の上司や同僚が納得してくれるかどうか。「みんな忙しいのに」と思うだろうなと心配しています――

社会保険労務士・野崎大輔の視点
中小企業でも育休の取得を拒否できない

   育児休業は法律で認められた権利ですので、会社が取得を拒否することは原則としてできません。休業中に無給となった場合でも、雇用保険から育児休業給付金が支給されますし、社会保険料の免除などの経済的支援もあります。これらの制度を活用して中小企業でも、男性が育休を取りやすいよう社内体制を整備することが求められます。いまのうちに諸制度を備えておいた方がよいでしょう。

   どうせやるなら、今回の男性をテストケースとして、育休の前後も業務に差し支えない範囲で勤務日や勤務時間を柔軟にしたり、テレワーク(自宅勤務)が可能な環境を整えたりと、いろいろ工夫してみることも考えられます。もちろん、勤務態度がルーズになってしまわないようにするマネジメントも必要になるでしょう。これが成功すれば、育休以外の人にとっても働きやすい環境になるでしょう。就業時間に机に張り付いていれば給料がもらえるという「見せかけの勤勉」を排除するよい機会になると思います。

臨床心理士・尾崎健一の視点
同僚たちの心理的な抵抗にも配慮すべき

   育休制度が導入されたときに、「陰でフォローをする同僚たちの苦労を省みず、育休を取得する人が当たり前のようにして休むことに対して職場の反発が起こっている」というケースもいくつかありました。法律で新たな権利が生まれても、人の心が適応できるのに時間がかかるものです。権利を声高に主張する人と、その対象とならずに負担だけ担うと感じる人の間では、摩擦が起きて当然でしょう。会社の雰囲気を台無しにしないためにも、育休を取得する人には同僚に対して十分配慮をしてもらうことが重要になります。与えられた仕事を全うしてもらうことも大事でしょう。

   一方、育休を取得する人の不安を軽減する工夫も必要です。職場の上司や同僚から仕事上の連絡メールの写しを適宜もらうなど、本人の希望に合わせてスムーズに復帰できるように配慮することも考えられます。子育てを放棄したり、家庭教育の責任を学校に押し付けたりする人が目立つ昨今。次世代を担う子どもを自分の手で育てようとする親の姿勢こそ大切にされるべきです。


>>ヨソでは言えない社内トラブル・記事一覧


(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。