就業規則に「茶髪は禁止」と書いておいたのに、新人が髪を染めてきたので注意したところ、「これ、茶色じゃないっすよ!」と逆ギレされたという話を聞いたことがある。ファッションをルールで縛ることは、なかなか難しい。
――都内で6軒の美容院を経営するものです。ある店に半年前に入ったA君について、お客さんからクレームが入ったと店長から報告がありました。
A君は専門学校を出て入店し、いまは先輩についてアシスタントをしています。仕事に対する姿勢も真面目な好青年なのですが、この夏に彼が流行のタトゥー(刺青)を両腕に入れたことを不快に思ったお客さんが、店長に、
「あの子のタトゥー、この店の雰囲気に合わないんじゃない? 私的には、あれはないな」と耳打ちしたのだそうです。
就業規則や社内規程で服装などのルールを定めている場合、それを破れば懲戒処分の対象になるのは当然です。タトゥーを禁止していると分かっているのに入れてきた場合には、解雇処分とすることもありうるでしょう。
ただし、処分が不当なものであると反論されないためにも、業種や業務内容に見合った合理的なルールを設け、適切に運用していかなければなりません。今回は、あらかじめタトゥーを禁止していたわけではありませんし、美容師が「お客さんに不快感を持たせるファッション」であるかどうかもあいまいですので、処分は難しいと思います。「後出しジャンケン」のような運用は避けるべきです。
ただ、お客さんからクレームがあったのは事実。長袖を着てタトゥーが見えないようにするなどの工夫が考えられます。お客さんにもその旨を伝えれば、「この店は自分の声を聞いてくれるんだ」と気づいてもらえ、長く通い続けてくれるお客さんになってくれるのではないでしょうか。
「お客さんに不快感を持たせるファッション」かどうかは、人によっても時代によっても変わります。客観的な基準では判断できません。新しい流行もどんどん生まれるので、細かくルールを設けた規制にも限界があります。ファッションに厳しい規制をすること自体、美容師の働くモチベーションを著しく下げる行為ともいえます。
したがって、最低限のルールを決めつつ、あとは従業員が自分たちで考え判断するよう仕向けるしかありません。店側が作り上げたい「店の雰囲気」や、ターゲットとしたい「客層」など、重視したい価値観について、ポリシーを経営者や店長が従業員に考えを伝え、反応に耳を傾けることだと思います。その上で、日々の身だしなみについて逸脱するものがあれば、店長がコメントするようにすれば、「暗黙のルール」が形成されていくでしょう。極論を言えば、ひとりのお客さんが不快に思っても、それが「パンクな店」であったのなら、A君のタトゥーが許容されることもあるわけです。
(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。