J-CAST ニュース ビジネス & メディアウォッチ
閉じる

「ウソついて有休とりました」と部下が申し出てきたら

   有給休暇の消化率アップは、国の方針でもある。しかし会社としては従業員が休みを取れば、何らかの穴埋めを考えなければならず、あまり休んでもらいたくないのがホンネだろう。ある会社では、どうしても休みを取りたい社員がウソをついて有休を取得したことがわかったという。

>>ヨソでは言えない社内トラブル・記事一覧

「同僚に穴埋めしてもらい、いたたまれない」

――中堅卸売業の営業部長です。先日、部下のA君から相談があると打ち明けられました。なんでも、すでに消化した有給休暇を「欠勤」にしてもらいたいのだとか。
   確かに先月の中旬、A君から

「月末に祖父の13回忌があるので、有休を取得したい」
と申し出を受けました。休みを取る期間は、ちょうどA君のグループが担当する顧客の予算期。最終提案書や見積もり作業の大詰めとなることは明らかでした。
   繁忙期ではあったのですが、仕方なく隣のグループの応援を得て、その時期を乗り切るよう体制を調整することにしました。
   ところがA君が休んでいる間、総務の女性から「A君がサッカー大会の中継画面に映り込んでいた」と連絡を受けたのです。
   そのときは他人の空似だろうと思っていましたし、休み明けにA君がサッカーの話を熱心にしているのを見ても、「おまえ、サッカー見に行ってたんじゃないだろうな」とからかいはしましたが、本気にはしていませんでした。
   しかし、A君が打ち明けるには、サッカー会場にいたのは本当だったようです。同僚に仕事の穴埋めしてもらったことがいたたまれなくなり、
「ウソをついて休んですみませんでした」
と詫びて、すでに取得した有休を欠勤に代えて欲しいと申し出てきたわけです。
   過ぎてしまったことはどうしようもないと苦笑しているのですが、申し出どおり有休を欠勤に振り替える手続きをしたり、人事に報告して処分を考えてもらったりした方がいいものでしょうか――

社会保険労務士・野崎大輔の視点
有休の取得目的は問われない。忌引などの扱いに注意

   年次有給休暇の取得目的に使用者は干渉することはできず、取得による不利益な扱いもできません。使用者側には取得の時季変更権がありますが、代わりの労働者が確保できる状態では「事業の正常な運営を妨げられる場合」とはいえません。有休は労働者の権利として認められており、仮に目的を申請する社内手続きをとっていたとしても、目的がウソであったことを問題とするのは難しいでしょう。取得分の有休を取り消して欠勤扱いにすることも、権利侵害になる可能性が高いです。

   ただし、有休以外の特定の目的のために付与される休暇については、それ以外の目的で休んだことを理由に会社が処分を行うことはありえます。ウソをついて生理休暇を取得し旅行に行っていた女性を会社は懲戒処分とすることができるという判例もありますし、実在しない親族の名前を使って服喪休暇(忌引)を不正取得していた公務員が処分されたケースもあります。

臨床心理士・尾崎健一の視点
ウソをつかずに休める環境づくりを

   A君のように生真面目な人をあえて処分する必要はないでしょう。人事はもちろん同僚にも内緒にしておき、今後の働きで挽回してもらうようにすればいいことだと思います。それよりも、A君がウソをついて休まざるを得なかった理由を考えてみましょう。有給休暇申請の「目的」の欄を削除すれば、変な言い訳をしなくて済むのではないでしょうか。イントラネットでシステム化し、機械的に取得できるようにしている会社もあります。

   ただ、仕組みを変えても、繁忙期に休ませるべきか否かという問題は残ります。そこは会社や所属長の考え次第ですが、大好きなサッカーの試合も観に行けずに働く意味があるのかと考える部下もいるかもしれません。そういう人にとって、サッカーを堪能しリフレッシュしてバリバリ働くことが幸せなのではないでしょうか。あえて「お互いに仕事を助け合う前提で、繁忙期でも趣味でも原則休んでよし」と宣言してモチベーションの好循環を創出するのも選択肢のひとつです。


>>ヨソでは言えない社内トラブル・記事一覧


(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。