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いまこそ求められる? 「スカブラ」という仕事の復権

   ネット上で「スカブラ」という職業(?)が話題となっている。コンサルタントの岩崎聖侍氏が2011年3月14日、アゴラに寄稿した「東日本大震災で『ユーモア』が許されないこの緊張状態は危険」というコラムで紹介したのがきっかけだ。

   この記事はツイッター上で2万2000人以上に引用され、10万件を超えるアクセスを獲得している。ネット掲示板にも貼られ、相当多くの人が目にしているとみられる。

名前の由来は「仕事が好かんでブラブラ」

お調子者のオジサンが職場にいる余裕がなくなった
お調子者のオジサンが職場にいる余裕がなくなった

   岩崎氏は、日本が震災復興をするには、節電と寄付以外には「普通以上」の生活をした方がよいはずと指摘。被災地以外で普通の生活を送ろうとする人に対し

「イベントは自粛しろ」
「お腹いっぱいご飯を食べるな」
「不謹慎」
などと批判する声に反論する。

   また、一切の「ユーモア」が許されない緊張状態が続くことはよくないので、抗議する人がいるかもしれないが「今こそ、お笑い芸人さんたちがテレビに出てきて、多くの人を笑わすべきだ」と主張している。

   笑わせ役の例として挙げられたのが、九州の炭鉱会社で働いていた「スカブラ」と言われる人の存在だ。彼らは同僚たちと炭鉱に降りても、石炭を掘らずに「エッチな話やおもしろい話をしたり、みんなにお茶を出したりしている」。

   会社がスカブラをリストラすると、炭鉱労働者たちの作業能率が下がり、人間関係もギスギスしていったという。つまり、非常時の現在でも、自衛隊や警察、消防と同じように、多くの人を笑顔にする「お笑い芸人さん」が求められているということだ。

   そんな「スカブラの話」は、アンソロジー「怠けものの話」(ちくま文学の森)で読むことができる。この話を書いた上野英信氏の記述によれば、スカブラの名前の由来は、

「仕事がスカ(好か)んで、いつもブラブラしちょるけんたい」
「スカッとしてブラブラしちょるところからきたとたい」

といった説があるようだ。彼らは労働者を笑わせるだけでなく、現場を見回る係員を呼び止めて話に引き込み、足を釘付けにする「仕事」もしていたようだ。いまで言えば、鬼上司の話し相手になって、他の部下から気をそらす役割といったところだろうか。

いまのスカブラ「給料もらいすぎで愛想ない」

   合理化によって、スカブラは根絶してしまった。サボる人がいなくなって、さぞかし職場の生産性が上がったと思いきや、炭鉱労働者たちは、

「坑内に下っても、全然面白うなか」
「スカブラのおらん炭鉱なんち、まったく意味なかよ」

と悔やみ、会社を呪っていたという。

   都内に勤務する40代の男性会社員は、バブル崩壊前の職場にも「スカブラ」のような人はいたものだと懐かしそうに語る。

「いちおう肩書きはあるんだけど、部下のいないベテラン社員が、社内を回って色んな人を捕まえて、日がなムダ話をしてましたね。日替わりでお昼を食べに行ったり、毎晩飲みに行ったりする。いま思えば、あれで職場がうまく回っていた気もする」

   仕事をしない年長者は現在でもいそうだが、「いまの『スカブラ』は給料をもらいすぎてるし、愛想もないから好かれないんですよ」と苦笑する。「ギスギスした職場」の原因は、こんなところにあったのかもしれない。

   9人が働き1人がサボっていたときよりも、10人の誰もがサボらずに働いたときの方が「さっぱり能率があがらなかった」「時間が倍にも3倍にも感じられた」ということについて、経営学者たちはどう解説するのだろう。