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オリンパス社員は知っていた 「株価は実態を表していない」

   「今まで隠していて申し訳ない」――。20年来の損失隠しがあったことを認めたオリンパス。ウッドフォード社長の解任からひと月足らずで、時価総額は4分の1に下落した。社外に知られていない事情はまだ多そうだが、社員たちは以前から会社にさまざまな疑念や反発を抱いていたようだ。

   表面化した例として有名なのが「オリンパス内部告発訴訟」だ。2009年4月、オリンパスのH社員は、会社が取引先から「機密情報を知る社員」を引き抜こうとしているのを知った。そこで上司に「このままでは違法行為になる。会社の信用を失わせかねない」と懸念を伝えたが、聞き入れてもらえない。仕方なく社内の「コンプライアンスヘルプライン室」にメールで相談することにした。

社員タレコミの背景に「内部通報への不信感」?

   ヘルプライン室はあろうことか、H氏の上司と人事部に相談メールを転送。H氏は品質保証部門へ配置転換され、「H君教育計画」と題した書類を渡されて新人と同じ教育を受け続けた。部署外との連絡も禁じられ、評価も長期病欠者並みに低くなった。

   H氏は、配転は不当として会社を訴えた。1審では「配転による不利益はわずかで、報復目的とはいえない」という判決だったが、11年8月の2審判決はH氏への配転命令を無効とし、会社側に220万円の損害賠償を命じている。

   配転が「上司による制裁」であったことが認められたわけだが、内部通報の担当部署がこの状態ということは、上司個人だけでなく、組織、企業風土面で問題があったのではと疑わざるを得ない。

   オリンパスの「無謀M&A」について月刊誌「FACTA」に記事が載ったのは、今年の夏のことだ。「社員のタレコミがきっかけだったのでは?」という声も聞かれる。H氏の一件で会社の信用が失墜していたことが、メディアへの告発につながった可能性もある。

   詳しいことは現社長も「知らなかった」くらいだから、一部社員以外は蚊帳の外だったようだが、「何かおかしい」という感じは一般社員の間に広くあったようだ。

「株価はそれなりではあるが、実態を表したものではない。抱える負債の大きさや自己資本比率の低さを鑑みると、いくら利益が出ていると言われても内視鏡以外に将来性を感じるものがない。(かといって)リスクをとることを極端に嫌う会社なので、今後何か新しい事業が出てくるということは考えられない」

   これは、オリンパスの海外営業部門に勤務していた30代前半の男性が、口コミサイト「キャリコネ」に10年8月に書き込んでいた内容だ。

女性社員のほとんどは20代で結婚退職

   会社の相談窓口は頼りにならないと感じる社員たちは、ネットの掲示板や口コミサイトを不満のはけ口としている。オリンパスではそうした書き込みが目立つ。研究開発部門の社員たちも、会社の方針や先行きに不安をあらわにする。

「デジタルカメラ分野は5年ぐらいで撤退ではないか?会社の規模を大きくしたい気持ちが先行し、技術と顧客がついてきていない感じがする」(30歳男性、研究開発)
「内視鏡以外の技術が全く伸びてこない。これで内視鏡がコケたら終わりだ」(28歳男性、研究開発)

   いずれも09年から10年ごろの書き込みだ。代理店営業を担当する28歳の女性も、「売れない顕微鏡、カメラの事業部を内視鏡部門が補っている構図。これを続けている間は大幅な給与向上は望めない。技術力がないわけではないが、製品開発のスピード感はあまりない」と事業を冷徹に見ている。

   しかし、こんな彼女の声が経営に反映されることは期待できない。オリンパスでは、女性社員は「お嫁さん要員」と見られているからだ。

「女性社員のほとんどが社内恋愛で、かつ20代で結婚し退職する。女性社員もそのつもりで入社する人がほとんどですから、キャリアを目指す女性社員はほとんどいません」(46歳男性、企画営業)

   家庭的な雰囲気が垣間見られるが、それがアダとなることもある。トップだけでなく、事情を知りうる立場にいた社員も「事を荒立てず、穏やかな会社員生活を全うしたい」と問題を先送りしているうちに、手がつけられないほど大きくなってしまったのかもしれない。