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企業は「ネットの風評」をどこまで有効活用できるか

   富士通と富士通中部システムズは、ツイッターやブログなどの「ネットの風評」を監視、分析するソフト「QRMining」を販売すると発表した。行政が公開する消費者情報や、コールセンターのクレーム情報などと組み合わせ、「市販製品の重大な不具合の予兆」を発見し、迅速な対策を打つことを可能にする。

   テキストデータからクレームを抽出する「テキストマイニング技術」と、クレームとそれが引き起こすイベントの隠れた因果関係を発見し、異常状態の予兆を検出する「複合多系列分析技術」を活用しているという。企業にとってやっかいな存在だった「ネットの風評」を逆手に取るわけだが、果たしてうまくいくものなのだろうか。

「強制リコールや株価下落を未然に防ぐ」

「うわっ。うちの製品、評価低すぎ!」
「うわっ。うちの製品、評価低すぎ!」

   企業に対する不満は、本来は企業に直接寄せられるべきものだ。しかし、ネットの普及によって、企業や製品、サービスに対するグチや不満はリアルタイムで共有され、急速に拡散することも多い。2ちゃんねるやツイッターで「炎上」する場合もある。

   新ソフトには、こういった「ネットの声」に敏感になることで、ネガティブ情報の広がりや、製品の不具合を原因とする事故、ひいては強制リコールや株価変動などの大型損失を未然に防ぎたい、というねらいがあるようだ。

   クライアントは、自動車メーカーや電気メーカーが想定されている。このシステムがあれば、アクセルペダルやブレーキの不具合が大規模リコールにつながったトヨタのケースも、あるいは未然に防げたかもしれない。

   ネット上にはソフトの有効性について、「ネットの書き込み見てからじゃ遅いだろ」と疑問を呈する声や、「(他社に)売る前に自社で使って製品改善しろ」という厳しい書き込みも見られる。専用ソフトがなくても「2ちゃん(ねる)のスレ(ッド)をウォッチしていれば相当のことが分かる」と指摘する人もいた。

   都内のメーカーに勤務する30代男性のAさんは、「データ分析には高度な技術が使われているのだろう。自社でも興味がある」としつつも、これを有効に使うためには、技術とは別の課題があるのではないかという。

「最近、スマートフォンの新製品などで、大きな不具合が出ることが目立っていますけど、会社側は『ネットの風評』を分析するまでもなく、本当はどんな問題が起こりうるのか薄々分かっているんじゃないか、と思うんですが…」

「改善を実行に移す段階の方が大事」

   製品開発競争が激しくなると、当然ながら納期が前倒しになる。Aさんは憶測としながらも、これだけ「問題商品」が出るのは、不具合の検証や修正が十分になされないまま、市場に出されているからではないか、と言う。

「うちの会社でもそうですけど、現場の人手不足とか、人材教育が追いついていないとか、そういう問題が起こっているとしか思えないですよね。現場の人たちは『こんなもの売り出していいのか?知らないぞ俺は!』と修羅場になっているんじゃないですか」

   新製品の問題だけではない。ある口コミサイトでは、1年半ほど前に売り出された某大手メーカー製の携帯電話が「電池のモチが極端に悪くて使えない」と書き込まれているケースがあるそうだ。

「ほぼすべての人が『買わなきゃよかった』と言っているのに、修理でも機種交換でも状況は変わらない。機種変更しようにも、キャリアとの2年縛り契約があってダメ。この機種を買った人は、間違いなく次は他のメーカーの機種を買いますよ」

   買い替えを検討していた人が書き込みを見て、「この会社の機種はやめておこう」と判断する人があったかもしれない。メーカーが改善対応できず、不具合を放置したままにしている理由は分からないが、いくら「風評」を集めても、それを改善に移すしくみが弱ければどうしようもない。分析ソフトばかりに気をとられてはいけないようだ。