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ネット時代に生き残る営業マンの「コーチング力」とは

   前回ネット販売に取って代わられる営業スタイルを、「ティーチング」と「コーチング」の話に例えたところ、「違いをもう少し具体的に聞きたい」という要望をいただいたので、今回はそこを少し掘り下げます。

   まず「ティーチング」と「コーチング」の違いから。ティーチングは文字通り「教える」こと。「コーチも『教える人』じゃないの?」と言われることがありますが、コーチの語源は、いわゆる馬車を操る御者のこと。クライアントが望む場所に送り届ける役割を指しているのです。

「わが社のおすすめ」告知ならネットの方が安い

ニーズが顕在化していればネット通販で十分?
ニーズが顕在化していればネット通販で十分?

   コーチングの原則は、相手に合わせた双方向のコミュニケーションを継続的に取って、気づきを与えること。一方、ティーチングは、こちらが取って欲しい行動を一方的に知らせるという特徴があります。

   ティーチング営業の典型例のひとつは、

「自社の売り筋」「わが社のおすすめ」
を一方的に押してくるやり方です。もちろん、このスタイルでも売れることはありますが、それは相手がたまたまその商品を待っていた人だったという出会い頭があるからです。

   これは完全に確率の問題。訪問件数が増えれば「出会い頭」も増える。ネットでもページビューの多いところに広告を出せば、工夫のないバナーでもある程度販売実績が上がるのと同じ事です。

   こういったアプローチが有効な商品も、確かにあります。しかし、人件費をすべてバナー広告に置き換えたほうが、サボる心配がない分むしろ効率的だったりする訳で、「こんな営業は人間にやらせる必要がない」「人的営業では費用対効果が悪すぎる」となるのです。

   もうひとつ、ネットに置き換えられやすい営業に「レコメンド営業」があります。

「いま皆さんが使っている人気商品はこれですよ」
「お客様は以前これを買われたので、こちらもいかがですか?」

と教えてくれる営業です。

レコメンドを超える「意欲を顕在化させる営業」

   こういった提案は気が利いているようにも見えますが、一方的なティーチング営業の一種であることには変わりがありません。

   さらにいえば、この手の方法はネットが非常に得意としているところです。アマゾンなどで買い物をしていると「これを購入した人は××も購入しています」という表示されるアレと同じです。

   ネットの場合は、購入履歴や閲覧履歴などを解析して教えてくれるのですから、当てずっぽに「これ必要でしょ?」「これ売れてますから」と押し売りする営業マンよりもよほど優れているわけで、これでは勝ち目はありません。

   一方、「コーチング」営業は、双方向コミュニケーションによって、クライアントが抱える問題と解決方法を引き出すことを基本としています。

   ポイントは「気づきを与える」点にあります。表立って意識していない必要性や購買意欲を顕在化させるためには、お客さまとの対話が効果的。ネット販売は、まさにこの売り方が弱点なのです。

   ではどのように、このやり方で潜在ニーズを引き出すのか。あるメーカーの購買担当がこんな話をしてくれました。

「『御用聞き営業』と『お役立ち営業』の一番の違いは、雑談の中身の差ですね」

お客さまとの「雑談」の中身で差が大きく開く

   御用聞きの雑談は、「先週のゴルフがどうだった」とか「あの店のこのメニューがうまい」とか、本当の雑談に終始して懇親をはかろうとする。しかし、お役立ち営業の人のそれはちょっと違うそうです。

「仕事に絡めた話題を、質問形式でうまく投げてくることですね。例えば、『この間○○課長が異動した先の地方工場って、どんなところなんですか?』とか『冬場の工場ってどんな節電対策をされているんですか?』とか、繰り出される話題に答えているうちに『そう言えばあの工場の空調だいぶ傷んでいたな』とかに気づくんですよ。そうなると『忘れないうちに見積もってもらっていい?』という流れになる訳です。思い出させてもらって、こっちも助かります」

   これこそコーチング営業です。名付けるなら「雑談力」とも言えるこの営業スキルこそが、ネット販売時代に高く買われる営業の正体なのです。

   無駄なく計算され尽くして構築されたネット販売システムの盲点は、一見すると無駄が多いと思われがちな「雑談」の欠落にあったわけです。

   ここでいちど、ご自身の雑談を振り返ってみてはいかがでしょうか。営業として有効な雑談になっているかどうか自己検証してみることをおすすめします。